107 / 218
本気のざまぁを見せてやる!
魔術師は結婚を断りたい 6
しおりを挟む「後でかけ直す!」
親父から来た通信をぶった切り、俺は必死で竜の攻撃を避けながら攻撃パターンを探る。
一番大事なのはブレスを吐くタイミング。
それも何度目かで大体掴めてきた。
口を閉じて、下を向いて、左右に首を振り…
こっちに狙いを定めて、口を開けて、一度大きく息を吸って…
ブォウ!!
「うぉっと!!」
さすが地竜、吐いてくるのは砂粒と石が混じったサンドブレスだ。
完全に物理系だな…
「そろそろ諦めてくれよー!」
俺は地竜に呼びかける。
竜は賢い、人間の言葉が分かる。
それはどうやら本当らしい。
地竜は俺の声に、ブレスで答えるようだ。
口を閉じて、下を向いて、左右に首を振り…
こっちに狙いを定めて、口を開けて、一度大きく息を吸って…
ブォーーッ!!
「おおっと!」
……ほらね、もう……分かっちゃった。
どうしよう。どうしようかな。
もう一度、呼びかけてみようか……
それとも脅してみる?
「…雷矢!」ピキッ!
「ガガッ?」
「…雷矢、雷矢、雷矢っ!!」
「ギャ、ギギっ!?」
俺は地竜に当たらない位置へ何発も雷を放った。
竜は雷が弱点だと親父が言ってたから、嫌いなんじゃないかと思ったんだけど…
「ガァア!ォアー!」
あんまり効果はないみたい。
地竜は口を閉じて、下を向いて、左右に首を振り…
こっちに狙いを定めて、口を開けて、一度大きく息を吸って…
ブレスだろう?
もう、わかってるよ。
だから……。
俺は何度目かのブレスをひらりと躱す。
呼びかける。
「頼むよ、降参してお家へお帰りよ!」
「ウガァ!」
尻尾を振り回して怒る地竜。
帰りたくないみたい。
「頼むよ、帰ってくれよ!
俺はお前を殺したくない!!」
「ギャギャー!」
尻尾を地面に叩きつけ、石を飛ばしてくる地竜。
恫喝するような咆哮、へし折られる木々。
空を飛びながら避け続ける俺。
「なあってば!」
「ギギィィ゙!!ゴゥアーー!!」
なめとんかコラ、的な事だろうか。
短気なんだろうな、多分…
「……困ったなぁ」
さっき放った雷で、ますます火が着いたみたい。
あー、余計な事、しちゃったな…
「……そろそろ、魔力がやばい」
箒無しの飛行は割と消耗する。
風魔法出しっ放しだし…
「決めるしか、無いか」
俺はポケットから飴を出して口に入れる。
覚悟の一口…噛み砕いたら、決める。
地竜が口を閉じて下を向く。
首を左右に振り、そして…こっちに狙いを、定め…
口が、開き……
今だ!
「神罰の、一、撃!!」
俺の出せる、最大級の雷魔法。
地竜が開けた口に、俺の雷撃が、吸い込まれる。
口が閉じる。
そして……
バヅッ゙
鈍い爆発音が聞こえ、
ド・ドドドド・ドド
低い振動音が響き、
グバン!!
と裂けるような音がし……。
グシュ……ッ
「……っ、地竜っ!」
地竜は、自分の血に、没んだ。
さっきまでギラついてた目には、光が無く…
「地、竜……?」
死んだのだ、と分かってしまった。
……叫び声すらない、最期だった。
森は静かで、他に魔物の気配は無い。
「……やっ、た……」
俺の呟きも、森の中へ…消えた。
***
どのくらいそうしていたのだろう。
日は傾いて空は赤く染まり、その赤い空より赤いバイク型箒が目の前に降りてきた。
操縦者の顔は見えないけど、後ろに乗ってたのは王都にいるはずの親父だった。
もう臨月だっていうのに、親父は俺に駆け寄り、俺の手を握って…言った。
「おい、ロンバード…大丈夫か」
「…うん」
「まだ飛べるか?」
「…うん、飴が…ある、から…」
「そっか」
俺は地竜の死体に抱きつき、謝罪を繰り返していた。
ただ興味を持って近づいただけかもしれないのに…
俺が、殺す方法なんかじゃなくて、うまく追い返す方法を知っていたら…良かったのに。
殺してごめん、ごめんね、って。
だけどこうも思っていた。
魔物が増えすぎないように、誰かがやらなきゃならない事だったんだ。
身重の親父の代わりに、息子の俺がやったんだ。
この国1番の魔術師の代理として、役目を果たしただけなんだ、だから…ごめんな、って。
「まさか、地竜を一人で倒しちまうとは…な」
「…倒し方は、知ってたから」
「ちゃんと俺達の話、聞いてたんだな」
「…うん、小さかったけど、覚えてた」
あれは学園に入る前の事。
叔父さん夫夫が訪ねてきて、親父とシドさんが昔話に花を咲かせてたのを横から聞いてた時だった。
いいかロンバード。
もし竜と戦わなきゃならなくなったら、ブレスを吐く直前、口を開けた瞬間、そこを目掛けて雷をズドン!とやるんだ。
いきなり最大値をぶち込め。
竜が苦しまないように、一撃で仕留めろ…
「良くやったな、ロンバード」
親父が俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。
まるで俺が傷ついてるのを、癒すかのように。
だから俺は…
少しだけ、心が軽くなった。
山ほどの魔物を殺してきた親父を疑う事なく父親として受け入れているように、俺もまた魔物を殺す側である事を受け入れていかなきゃ…と、思った。
だから、無理やりだけど、明るい声で、言った。
「…あんなアドバイス、役に立たないと思ってたけど、人生何が役に立つか分からないもんだね」
「ああ、そうだろ?」
「親父やシドさん…ビゼーさんたちの、おかげ」
「そうさ、倒し方不明のまま必死で戦った俺達第27騎士団のおかげだぞ?もっと敬え」
親父はそう言って笑うと、通信用ブレスレットの銀ビーズを1つ触って回線を開いた。
「あー、メルバ?今、北端。ロンバードは無事。
西はカリーナ様に任せてきた。
石碑が折られてる、作り直さなきゃ…え?自分で操縦はしてない、…ああ、グヴェン様が」
「えっ、グヴェン様?」
俺は真っ赤なバイク型箒にまたがる男性を見た。
そこには…
俺の記憶とは程遠い…
ダリル様によく似た美丈夫が、いた。
86
お気に入りに追加
412
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
婚約破棄される悪役令嬢ですが実はワタクシ…男なんだわ
秋空花林
BL
「ヴィラトリア嬢、僕はこの場で君との婚約破棄を宣言する!」
ワタクシ、フラれてしまいました。
でも、これで良かったのです。
どのみち、結婚は無理でしたもの。
だってー。
実はワタクシ…男なんだわ。
だからオレは逃げ出した。
貴族令嬢の名を捨てて、1人の平民の男として生きると決めた。
なのにー。
「ずっと、君の事が好きだったんだ」
数年後。何故かオレは元婚約者に執着され、溺愛されていた…!?
この物語は、乙女ゲームの不憫な悪役令嬢(男)が元婚約者(もちろん男)に一途に追いかけられ、最後に幸せになる物語です。
幼少期からスタートするので、R 18まで長めです。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる