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ざまぁじゃないけど

未遂でも事件

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3日間行われた国際会議は今日で最終日。
各議題とそれに付随する条約の調印式が行われ、午後の早いうちに終了した。

「庭園で茶会の準備が整っておりますから、終った方から順次お越しください」

とカリーナ王妃様が仰られたので、調印に参加しない俺はセジュールと一緒に一足先に庭園へ向かった。

「お疲れ様でした、お兄様」
「セジュールもお疲れ!
 あー、甘いミルクティーが飲みたい…」
「僕もです!」

テーブルに着くと、一人の侍従さんがお茶のセットを運んできた。
俺は何となく、後は自分でやるからと断って、お茶の入ったポットと砂糖壺とミルクピッチャーを置いていって貰った。

「…淹れて頂かないんですか?」
「うん、なんかちょっと…あの人、気になってさ」

何もないと良いんだけど、何かあったら困る。

「んー……『鑑定』」

…砂糖壺が怪しく光る。
やっぱり、何か良からぬものが入っているみたい。

「セジュール、この砂糖、使っちゃ駄目」
「…何が入ってるんですか?」
「そこまでは…調べてみないと、何とも」

ただ、それが何であれ、砂糖壺だったら他の人が使う可能性もあるよね。
ってことは、無差別テロ的な事かもしれない…

「お茶会の主催はカリーナ様だよね?」
「ええ、僕、お伝えしに行ってきます」

セジュールが席を立とうと動く。
俺は砂糖壷をポケットに突っ込んで、一緒に行くために席を立つ。

「二人で行動したほうが良い。
 一人でいるところを襲われたら困るし」

何が狙いか分からないから、用心に越したことはない。

「行こうセジュール、カリーナ様を探しに」
「はい」

お茶会の主催なら、きっとこの会場のどこかに…

と、その時。

「貴様、何者だ!」
「ぐあっ!」

鋭い声と呻き声が聞こえた。

「えっ、何!?」
「あっちです、お兄様!」

声のする方へセジュールと一緒に走る。
するとカリーナ様が男を取り押さえている姿が…!

「くそっ、離せ!」
「誰が離すか馬鹿。
 誰の指図で此処にいる?目的は?」
「ぐっ!」

あの重たいドレスでこのアクション…
カリーナ様、やはりただものではないな。

「カリーナ様!その男は、」
「変装しているが、学園の寮監だ」
「えっ!?」

カリーナ様は男のかつらと髭をむしった。
すると彼は確かに寮監さん…

何で!?

「寮監さん…何でこんな、」
「煩い!お前が、お前らが悪いんだ!」
「は?」

理解不能なセリフに呆然としていると、警備の騎士が走ってきた。

「カリーナ様!何が…あっ!?」
「不審者だ、連れていけ」
「はっ!すぐに連行致します!」
「それから、どうやってこの男が警備をすり抜けたのか調べろ」
「はっ!!」

警備係は全員便所掃除の刑に処す、とカリーナ様が騎士に申し渡すと、騎士は恐縮しながら寮監さんを抱えて去っていった。

***

その後、改めて全ての飲食物を鑑定にかけ、問題ないことが確認されてから和やかにお茶会が始まった。

「カリーナ様…あの」
「奴の目的が分かり次第、二人にはダリルから報告させる。
 今は茶会を楽しめばいい、頼むぞ」

カリーナ様はそう言って招待客の方へ行ってしまった。
確かに何かあったと悟られないように振る舞わないといけない場面だ…
でも気になる。

「…鑑定にかかったってことは、悪意があるって事だよな」

この鑑定魔法は、正式名称で言うと「残留思念鑑定魔法」。
つまり作った人の思いとは別の作為が、悪意や敵意によって行われているかいないかを読み取るものだ。

実行した人が何も知らされずに毒を入れてしまったとしても、毒を盛ってやろうと最初に考えた人間がいるかぎり悪意や敵意は消えない。

散々毒を盛られてきた親父が考案した魔法で、俺も親父に覚えさせられた。

特に学園の中では、何があるか分からない…
だから食堂では、いつも顔見知りのおっちゃんに注文する。
おっちゃんはダリル様の飯も作ってる人だから、安心できる。

解毒魔法が使えても、食った瞬間の痛みはトラウマ級だからね?
まったく…
貴様も喉を焼かれてしまえ!って、焼かれたあんたが悪いんじゃんね。
魔法で悪さしてたんだからさ。

「やだなぁ…」
「お兄様、切り替えていきましょ?
 ほら、お兄様とお話しされたい方も大勢いらっしゃいますし」
「…うん」

俺は浮かない顔を何とか外交的微笑に変えて、会場にいるダリル様に向かって歩いた。
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