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【過去ばなし】チート魔術師とチャラ男令息

【おまけのおまけ】兄上と僕

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今まで、ずっと冷たい接し方だった。
家でも殆ど話す事は無かった。
だから、嫌われてると思った。

だけどあの日、それは全部敵の目を欺く為の事だったと知ったんだ。

「敵を騙すには、まず味方から…だからさ。
 本当に今までごめん…
 だから、無理に仲良くしてくれなくてもいいんだよ、トリル」
「いいえお兄様、僕はずっとお兄様の事を…
 思えばお兄様は、僕に暴力を振るったり、僕の物を盗ったり壊したりなんてしませんでした。
 お金だって…いつも堅実でいらっしゃいました」
「ふふ、そうだね。
 お金が無くても、僕にはこの美貌があるからさ」

そう言ってお兄様はお笑いになった。
たしかにお美しい…特にお肌と御髪は別格だ。

「毎日磨いてきたから見てくれには自信がある。
 外見が良くてしかも遊んでる噂があれば、お金が無くてもお金を出したい奴が寄ってくる。
 そういう奴らは大抵、裏で悪い事をしてるのさ。
 仲間内での自慢みたいなくだらない事に出す金が、まともに稼いだ金なわけがないからね」

そうか!

丹念にお風呂で何かされていたのは、お兄様の言う「学び」に必要な事だったのだな。
それを僕は、そんな暇があるなら少しでも勉強なされば良いのに、なんて…余計な事を…。

「…お父様たちにも、申し訳なかった。
 トリルが領地経営の勉強を頑張っててくれなかったら、危なかったかも」
「そうですよ!
 お二人ともずっと心配なさってて…」
「そうだよね…。
 長男がいきなりクズ街道まっしぐらだもん!
 でも、もうそれを装う事もしなくて良いんだ。
 唯一人を愛する一途な男になってもいいんだ…
 ふふ、信じられないかもしれないけどね」

お兄様はすっきりしたお顔でそう仰った。
今までのどこかいけ好かない顔じゃなく、にこやかだけど芯のある…そんなお顔で。

「もしかして、その方の事が、お兄様に仮面を脱ぎ捨てさせるきっかけになったのですか?」
「うん、実はね…」

その子は毎日のように食事に毒を盛られ、精神がすり減ってしまっているのだそうだ。
信用できる相手どころか、敵しかいない…
そんな場所に無理やり押し込められているのだそうだ。

「解毒魔法が使えるからと言っても、敵意までは消すことが出来ないだろう?
 だから常に安心・安全な食事が必要だし、大きな後ろ盾になる信頼できる友人も必要だ。
 僕は料理も出来るし、侯爵家の人間でもある。
 だったら僕は全部引き受けられる……
 いや、引き受けたいんだ。
 その為には、僕が遊び人の顔をしてたんじゃ都合が悪いだろ」

お兄様は言う。

他人に任せるなんてとても出来ない。
遊んでいて分かったけど、王都にいる貴族は信頼できない人間ばかりだ。
既婚者なのに平気で他の男と寝たがるなんてまだ良い方で、分不相応の金を見せびらかして関係を迫ったり、命令したりしようとする奴が沢山いる…って。

「通じなかったら今度は脅迫だ。
 しかも、その人が大事にしている家族や友人を攫って脅すんだ…その上、攫った人を無事に返すなんてことは殆ど無い」
「そんな、ひどい!!」

そんな極悪な人間が沢山いるなんて…!
僕は真面目な子とばかり仲良くしてたから、そんな事が本当にあるなんて知らなかった。

僕が安全な場所で学んでいる間、お兄様はそんな悪魔のような人間と渡り合ってこられたんだ…

「もしかしたら僕は、これから、トリルのことも巻き込んでしまうかもしれない…ごめんね」
「い、いえ、そんな、事は……」

そうか!

お兄様は悪魔どもが僕たちに手をださないように、不和を演じ続けていたんだ。
何かあった時の為に、例え家族でも仲が悪ければ、僕達が悪者に狙われる事は無いと思ったから!

学園だけで冷たい態度をとっても、バレてしまう。
だから家でも…僕に、冷たかった…。

「その点、うちの使用人たちはみんな元孤児だ。
 天涯孤独だから、そういう脅迫に合う可能性は低くなる。数も少ないから、一人一人個別に護衛を付けられるしね。
 だったらうちで彼を匿うのが、一番じゃない?」
「ええ、その通りで…、えっ?」

かく、まう……?
お兄様の想い人を、うちに……?

え~っ、一体どんな方なんだろう?
お美しい方かな?可愛らしい方かな?
僕も友人になりたいな…なれるかな?

「お父上たちには今から相談に上がる。
 だけど、トリルには先に聞いて欲しかったんだ。
 その子はね、あの第27騎士団にいた魔術師で…」

…………えっ?

「それって、まさか、あの、ギゼル様……!?」

僕の驚きに、お兄様は照れた笑顔。

「そう、あの英雄ギゼル殿なんだけど…どうかな」
「ど、どうかな、ってそんな、光栄すぎて…!」

そんなの誰も反対しないに決まってる!
まさかそんなすごい人とお兄様に接点が!?
僕ら、学園でお見かけしても遠くから見つめるのが精一杯で……

えっ?

「そんな方が、命を狙われ続けているんですか?」

おかしいよ、だってこの国を、この国の民を、土地を、救ってくれた人なのに…
大事にしなきゃいけない人のはずなのに!

「理解できません、そんな!」

僕はお兄様にそう訴えた。
するとお兄様は深いため息の後、仰った。

「そう、僕だって理解出来なかったよ。
 彼ほどの人物なら普通はもっと厚遇すべきだ。
 その上で身内に取り込めば、国民の心を掴み、自分の地位をも盤石にすることが出来る…はずなのに。
 リブリー殿下のお父様は、考えていたよりもずっと暗愚だった…弟君もね」
「なんて事……!」

この国はおかしいって、どこかで思ってた。
でも僕は、おかしいと思っても何も出来なかった。

お兄様は毅然として言った。

「ギゼル殿はね、子どもに出来る事はたかが知れてるんだから、何も出来なかったと悔やむ必要はないって言うんだけどさ。僕はもう18歳で、大人だ。
 だから今からはこの国を良くする為に、持っている全てを活かして働くよ。
 見ててね、トリル。
 僕は、君の自慢の兄になる。約束だ」
「お兄様…っ!
 僕もお兄様の自慢の弟になります、約束です!」

そうだ、僕らは今からだ。
今からこの国を立て直して、前よりずっと良い国にしていくんだ。

決めた。

僕はキャンディッシュ領を、この国の手本になる場所へ発展させていく。
僕が領主の手本になる!

お兄様に負けてはいられない!!
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