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ざまぁじゃないけど

ある転売ヤーの供述

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国際会議も、その後のお茶会から夜のダンスパーティーを含めた親睦会も無事に終わり…

いや、陰では色々と…不審人物を数名、逮捕?捕縛?まあ、何でも良いんだけどさ。
何でみんな俺を狙って来るの?
恨まれるような事、何かしたっけ…?

「お兄様、よくご無事でしたね」
「うん、まあ物理無効のバフがあれば大体はね」

ざまぁを狙い始めた当初セジュールに毎日かけてた魔法が、こんなところで役に立つとは。

「けど、魔法を使ってくる人がいなくて良かった」
「ギゼル父様が『俺で懲りてるんじゃないか』って言ってましたよ?
 きっと何か恐ろしい目に会わせたんでしょうね」
「あー…、きっと魔法反射系の結界だな」

結界魔法にも種類がある。
魔法を反射するタイプと、魔法を無効化するタイプ。
反射タイプは相手の魔法をそっくりお返しできる代わりに、短時間で効果が切れる。
無効化タイプは相手の魔法を打ち消してしまう代わりに自分の攻撃魔法も打ち消してしまうけど、効果は暫く持続するし途中キャンセルもできる。

反射タイプは攻撃用、無効化タイプは防御用。
親父が得意なのは…反射タイプだ。

「親父、セジュールが生まれるまでは相当やさぐれてたらしいから…」
「あまり詳しく聞かない方が良さそうですね」
「うん」

親父の過去をつついても良い事はない。
暗い話か凄惨な話しかないからな。
あとメルバ父さんから聞かされるエロい話。

「今日ミリエッタさんにも話すけど、セジュールも気を付けるんだぞ。
 朝と昼休みの2回、必ず俺が物理無効のバフをかけるから…ミリエッタさんにもな」
「はい、お兄様」
「それから…」

と、その時、ノックの音がして…

「ロンバード、俺だ」

扉の外から、ダリル様の声が聞こえた。

***

「やつらのうちの一人が口を割った」

部屋に入って来るなり、ダリル様はいきなり本題に入った。

「お前を襲ったのは、魔法の飴の市場価値を下げさせないようにするためだそうだ」
「は?」
「お前、寮監にあの飴をやっただろう」
「えっ…ああ、はい…」

確か魔法のブレスレット騒動の時、ご迷惑をかけたお詫びにって…菓子折りより魔法の飴が良いっていうから、持って行ったんだ。
それからちょくちょく、文句を言いに来られては飴を渡すという事が繰り返されて…

「寮監は、それを転売して金を儲けていた。
 初めはほんの出来心だったようだが、あまりに儲かった事もあり遊ぶ金欲しさに売り続けたそうだ」
「…じゃあ、最初から転売するつもりで、飴が欲しいって言ったって事ですか」
「いや……最初の最初は、純粋に病気の弟に食べさせれば元気になるのではないか、と、そう考えたんだそうだ」

何度も自己治癒の魔法をかければ、病気が治るんじゃないか。
そんな藁にもすがる思いで何度か飴を食べさせ、その度に魔術の教科書にあった魔法を唱えさせた。
弟はみるみる元気になり、ついには走れるまでになった。

「だが急に元気になった弟を見て、病院関係者が騒ぎだした。
 それで1つ譲った。
 すると今度は商人が声をかけてきた。
 その魔法の飴を1つ50万で買い取る…と」
「ごじゅうまん!?」
「そうだ。随分と買い叩かれたものだが、寮監は気づかなかった」
「買い叩かれてるんですか、それで!?」

ダリル様によれば、末端価格は150万~200万で推移しているそうだ。
確かに50万じゃ安すぎる…のか?
転売価格が高騰しすぎてピンと来ない。
けど、金は命に代えられない、という感覚は俺にも分かる。
その足元をみて商売してたんだ…

前世の悪質転売ヤーなんか目じゃない。
転売ヤーって言葉じゃ表現しきれない、何かどす黒くて昏いもの…。

「その時、寮監の手元には20程の飴があった。
 全部売れば1000万、相当の大金だ。
 人生の中で見た事の無い大金を手にして…人生が、狂った」
「…なんてことだ」

商人からは何度も接触があったそうだ。
繰り返し接待を受け、飴を優先的に融通してくれと頼まれ、断り続けたものの…最終的には一つ100万で、という話になり、抗えなくなった。
そして寮監さんは考えた。
最初に売った時の2倍にもなったじゃないか、と…

「それで、値段をもっと釣り上げてから売る作戦に出た。
 もっと高く、もっと高く…そう思っていた矢先、魔法の飴が国際会議の議題に上がり、正規の販売経路が出来ることになった。
 その内容をいち早くつかんだ商人たちは、今のうちに売り抜けようと価格を少しばかり…下げた」

困ったのは寮監さんだ。
一粒200万円で売れる計算で借金をし、今まで縁の無かった世界へ片足を突っ込んでいたから。

いわゆる「飲む・打つ・買う」つまり、酒・賭博・セックス…

「商人たちの接待で味を知ったせいか、それは派手に遊んでいたらしい。
 ずっと真面目に生きてきただけに、タガが外れたんだろうな」

そして寮監さんは考えた。
俺を殺せば、二度と飴は手に入らない。
そうなったらこの飴の価値は2倍、3倍…

「なんて、短絡的な…」

だけど、元はと言えば、この飴の価値を考えずににホイホイ配った俺の責任でもあって…。

俺は自分が何気なくやった事が、最悪の事態を招いていた事を、思い知ったのだった。

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