94 / 212
ざまぁじゃないけど
ある転売ヤーの供述
しおりを挟む
国際会議も、その後のお茶会から夜のダンスパーティーを含めた親睦会も無事に終わり…
いや、陰では色々と…不審人物を数名、逮捕?捕縛?まあ、何でも良いんだけどさ。
何でみんな俺を狙って来るの?
恨まれるような事、何かしたっけ…?
「お兄様、よくご無事でしたね」
「うん、まあ物理無効のバフがあれば大体はね」
ざまぁを狙い始めた当初セジュールに毎日かけてた魔法が、こんなところで役に立つとは。
「けど、魔法を使ってくる人がいなくて良かった」
「ギゼル父様が『俺で懲りてるんじゃないか』って言ってましたよ?
きっと何か恐ろしい目に会わせたんでしょうね」
「あー…、きっと魔法反射系の結界だな」
結界魔法にも種類がある。
魔法を反射するタイプと、魔法を無効化するタイプ。
反射タイプは相手の魔法をそっくりお返しできる代わりに、短時間で効果が切れる。
無効化タイプは相手の魔法を打ち消してしまう代わりに自分の攻撃魔法も打ち消してしまうけど、効果は暫く持続するし途中キャンセルもできる。
反射タイプは攻撃用、無効化タイプは防御用。
親父が得意なのは…反射タイプだ。
「親父、セジュールが生まれるまでは相当やさぐれてたらしいから…」
「あまり詳しく聞かない方が良さそうですね」
「うん」
親父の過去をつついても良い事はない。
暗い話か凄惨な話しかないからな。
あとメルバ父さんから聞かされるエロい話。
「今日ミリエッタさんにも話すけど、セジュールも気を付けるんだぞ。
朝と昼休みの2回、必ず俺が物理無効のバフをかけるから…ミリエッタさんにもな」
「はい、お兄様」
「それから…」
と、その時、ノックの音がして…
「ロンバード、俺だ」
扉の外から、ダリル様の声が聞こえた。
***
「やつらのうちの一人が口を割った」
部屋に入って来るなり、ダリル様はいきなり本題に入った。
「お前を襲ったのは、魔法の飴の市場価値を下げさせないようにするためだそうだ」
「は?」
「お前、寮監にあの飴をやっただろう」
「えっ…ああ、はい…」
確か魔法のブレスレット騒動の時、ご迷惑をかけたお詫びにって…菓子折りより魔法の飴が良いっていうから、持って行ったんだ。
それからちょくちょく、文句を言いに来られては飴を渡すという事が繰り返されて…
「寮監は、それを転売して金を儲けていた。
初めはほんの出来心だったようだが、あまりに儲かった事もあり遊ぶ金欲しさに売り続けたそうだ」
「…じゃあ、最初から転売するつもりで、飴が欲しいって言ったって事ですか」
「いや……最初の最初は、純粋に病気の弟に食べさせれば元気になるのではないか、と、そう考えたんだそうだ」
何度も自己治癒の魔法をかければ、病気が治るんじゃないか。
そんな藁にもすがる思いで何度か飴を食べさせ、その度に魔術の教科書にあった魔法を唱えさせた。
弟はみるみる元気になり、ついには走れるまでになった。
「だが急に元気になった弟を見て、病院関係者が騒ぎだした。
それで1つ譲った。
すると今度は商人が声をかけてきた。
その魔法の飴を1つ50万で買い取る…と」
「ごじゅうまん!?」
「そうだ。随分と買い叩かれたものだが、寮監は気づかなかった」
「買い叩かれてるんですか、それで!?」
ダリル様によれば、末端価格は150万~200万で推移しているそうだ。
確かに50万じゃ安すぎる…のか?
転売価格が高騰しすぎてピンと来ない。
けど、金は命に代えられない、という感覚は俺にも分かる。
その足元をみて商売してたんだ…
前世の悪質転売ヤーなんか目じゃない。
転売ヤーって言葉じゃ表現しきれない、何かどす黒くて昏いもの…。
「その時、寮監の手元には20程の飴があった。
全部売れば1000万、相当の大金だ。
人生の中で見た事の無い大金を手にして…人生が、狂った」
「…なんてことだ」
商人からは何度も接触があったそうだ。
繰り返し接待を受け、飴を優先的に融通してくれと頼まれ、断り続けたものの…最終的には一つ100万で、という話になり、抗えなくなった。
そして寮監さんは考えた。
最初に売った時の2倍にもなったじゃないか、と…
「それで、値段をもっと釣り上げてから売る作戦に出た。
もっと高く、もっと高く…そう思っていた矢先、魔法の飴が国際会議の議題に上がり、正規の販売経路が出来ることになった。
その内容をいち早くつかんだ商人たちは、今のうちに売り抜けようと価格を少しばかり…下げた」
困ったのは寮監さんだ。
一粒200万円で売れる計算で借金をし、今まで縁の無かった世界へ片足を突っ込んでいたから。
いわゆる「飲む・打つ・買う」つまり、酒・賭博・セックス…
「商人たちの接待で味を知ったせいか、それは派手に遊んでいたらしい。
ずっと真面目に生きてきただけに、タガが外れたんだろうな」
そして寮監さんは考えた。
俺を殺せば、二度と飴は手に入らない。
そうなったらこの飴の価値は2倍、3倍…
「なんて、短絡的な…」
だけど、元はと言えば、この飴の価値を考えずににホイホイ配った俺の責任でもあって…。
俺は自分が何気なくやった事が、最悪の事態を招いていた事を、思い知ったのだった。
いや、陰では色々と…不審人物を数名、逮捕?捕縛?まあ、何でも良いんだけどさ。
何でみんな俺を狙って来るの?
恨まれるような事、何かしたっけ…?
「お兄様、よくご無事でしたね」
「うん、まあ物理無効のバフがあれば大体はね」
ざまぁを狙い始めた当初セジュールに毎日かけてた魔法が、こんなところで役に立つとは。
「けど、魔法を使ってくる人がいなくて良かった」
「ギゼル父様が『俺で懲りてるんじゃないか』って言ってましたよ?
きっと何か恐ろしい目に会わせたんでしょうね」
「あー…、きっと魔法反射系の結界だな」
結界魔法にも種類がある。
魔法を反射するタイプと、魔法を無効化するタイプ。
反射タイプは相手の魔法をそっくりお返しできる代わりに、短時間で効果が切れる。
無効化タイプは相手の魔法を打ち消してしまう代わりに自分の攻撃魔法も打ち消してしまうけど、効果は暫く持続するし途中キャンセルもできる。
反射タイプは攻撃用、無効化タイプは防御用。
親父が得意なのは…反射タイプだ。
「親父、セジュールが生まれるまでは相当やさぐれてたらしいから…」
「あまり詳しく聞かない方が良さそうですね」
「うん」
親父の過去をつついても良い事はない。
暗い話か凄惨な話しかないからな。
あとメルバ父さんから聞かされるエロい話。
「今日ミリエッタさんにも話すけど、セジュールも気を付けるんだぞ。
朝と昼休みの2回、必ず俺が物理無効のバフをかけるから…ミリエッタさんにもな」
「はい、お兄様」
「それから…」
と、その時、ノックの音がして…
「ロンバード、俺だ」
扉の外から、ダリル様の声が聞こえた。
***
「やつらのうちの一人が口を割った」
部屋に入って来るなり、ダリル様はいきなり本題に入った。
「お前を襲ったのは、魔法の飴の市場価値を下げさせないようにするためだそうだ」
「は?」
「お前、寮監にあの飴をやっただろう」
「えっ…ああ、はい…」
確か魔法のブレスレット騒動の時、ご迷惑をかけたお詫びにって…菓子折りより魔法の飴が良いっていうから、持って行ったんだ。
それからちょくちょく、文句を言いに来られては飴を渡すという事が繰り返されて…
「寮監は、それを転売して金を儲けていた。
初めはほんの出来心だったようだが、あまりに儲かった事もあり遊ぶ金欲しさに売り続けたそうだ」
「…じゃあ、最初から転売するつもりで、飴が欲しいって言ったって事ですか」
「いや……最初の最初は、純粋に病気の弟に食べさせれば元気になるのではないか、と、そう考えたんだそうだ」
何度も自己治癒の魔法をかければ、病気が治るんじゃないか。
そんな藁にもすがる思いで何度か飴を食べさせ、その度に魔術の教科書にあった魔法を唱えさせた。
弟はみるみる元気になり、ついには走れるまでになった。
「だが急に元気になった弟を見て、病院関係者が騒ぎだした。
それで1つ譲った。
すると今度は商人が声をかけてきた。
その魔法の飴を1つ50万で買い取る…と」
「ごじゅうまん!?」
「そうだ。随分と買い叩かれたものだが、寮監は気づかなかった」
「買い叩かれてるんですか、それで!?」
ダリル様によれば、末端価格は150万~200万で推移しているそうだ。
確かに50万じゃ安すぎる…のか?
転売価格が高騰しすぎてピンと来ない。
けど、金は命に代えられない、という感覚は俺にも分かる。
その足元をみて商売してたんだ…
前世の悪質転売ヤーなんか目じゃない。
転売ヤーって言葉じゃ表現しきれない、何かどす黒くて昏いもの…。
「その時、寮監の手元には20程の飴があった。
全部売れば1000万、相当の大金だ。
人生の中で見た事の無い大金を手にして…人生が、狂った」
「…なんてことだ」
商人からは何度も接触があったそうだ。
繰り返し接待を受け、飴を優先的に融通してくれと頼まれ、断り続けたものの…最終的には一つ100万で、という話になり、抗えなくなった。
そして寮監さんは考えた。
最初に売った時の2倍にもなったじゃないか、と…
「それで、値段をもっと釣り上げてから売る作戦に出た。
もっと高く、もっと高く…そう思っていた矢先、魔法の飴が国際会議の議題に上がり、正規の販売経路が出来ることになった。
その内容をいち早くつかんだ商人たちは、今のうちに売り抜けようと価格を少しばかり…下げた」
困ったのは寮監さんだ。
一粒200万円で売れる計算で借金をし、今まで縁の無かった世界へ片足を突っ込んでいたから。
いわゆる「飲む・打つ・買う」つまり、酒・賭博・セックス…
「商人たちの接待で味を知ったせいか、それは派手に遊んでいたらしい。
ずっと真面目に生きてきただけに、タガが外れたんだろうな」
そして寮監さんは考えた。
俺を殺せば、二度と飴は手に入らない。
そうなったらこの飴の価値は2倍、3倍…
「なんて、短絡的な…」
だけど、元はと言えば、この飴の価値を考えずににホイホイ配った俺の責任でもあって…。
俺は自分が何気なくやった事が、最悪の事態を招いていた事を、思い知ったのだった。
102
お気に入りに追加
398
あなたにおすすめの小説
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい
りまり
BL
僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。
この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。
僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。
本当に僕にはもったいない人なんだ。
どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。
彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。
答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。
後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。
悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話
黄金
BL
婚約破棄を言い渡され、署名をしたら前世を思い出した。
恋も恋愛もどうでもいい。
そう考えたノジュエール・セディエルトは、騎士団で魔法使いとして生きていくことにする。
二万字程度の短い話です。
6話完結。+おまけフィーリオルのを1話追加します。
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
側近候補を外されて覚醒したら旦那ができた話をしよう。
とうや
BL
【6/10最終話です】
「お前を側近候補から外す。良くない噂がたっているし、正直鬱陶しいんだ」
王太子殿下のために10年捧げてきた生活だった。側近候補から外され、公爵家を除籍された。死のうと思った時に思い出したのは、ふわっとした前世の記憶。
あれ?俺ってあいつに尽くして尽くして、自分のための努力ってした事あったっけ?!
自分のために努力して、自分のために生きていく。そう決めたら友達がいっぱいできた。親友もできた。すぐ旦那になったけど。
***********************
ATTENTION
***********************
※オリジンシリーズ、魔王シリーズとは世界線が違います。単発の短い話です。『新居に旦那の幼馴染〜』と多分同じ世界線です。
※朝6時くらいに更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる