91 / 212
【過去ばなし】チート魔術師とチャラ男令息
【おまけのおまけ】パパとギゼルと私 ~カリーナ様視点~
しおりを挟む
ギゼル殿とメルバの婚約が成った次の日、パパは朝からギゼル殿と寮の庭で箒に跨っていた。
「…何をしてるんだ?」
二人とも真剣な顔で、箒を股に挟んでぴょんぴょん…
不思議な光景。
あんまり気になるものだから、近くまで行って様子を覗う。
「そう、自分の重心の真下に風の渦を作るんだ」
「うむ…こうか?」
「そう、もうちょっと強く…風で自分を浮き上がらせる感覚で!」
「分かっ、た…!」
強い風がこっちまで吹き付ける。
その風に負けないように、大きな声でギゼル殿がパパに言う。
「OK!その感覚だ!!
軽く地面を蹴って!軽くだぞ、軽く!」
「お、おう……おう!?」
するとパパが箒に跨ったままふわり、と浮いた。
すごい…!!
「OK!その状態をキープするんだ!」
「お、おおお…!!」
「下ばっか見たら崩れる!姿勢だ姿勢、重心ずらさない!」
「ぐうう…」
「いいぞ!OK、OK!」
パパは浮いたままの姿勢を必死で維持してる。
平衡感覚を保つ訓練…か?
それにしても、パパのあの大きな体を風で浮かせようなんて…相当な魔力がいるぞ。
あっ、パパ、危ない!
左右にグラグラしてる、落ちる!!
きゃっ!?
「うおっ…と、ふぅ…これは、大変だ」
「ああ、だが慣れれば魔力の消費も抑えられる」
…ああ、良かった。
まったく、いい歳して何やってんだ…
こけて骨でも折ったら、って、それはギゼル殿が治してくれるのか…
はは、心配して損した。
何とか着地したパパにギゼル殿が言う。
「これを思いっきり蹴って上空へ上がって、そこからは斜め上を意識して前へ進む…この箒の穂から風が出るようになってるから、これで方向をコントロールする」
「こんとろーる…つまり舟で言えば、これが舵…だな?」
「そうそう、さすが理解が早い」
こんとろーる、おーけー、きーぷ。
時々ギゼル殿はこの国の言葉でない言葉を使う。
ご両親のどちらかが異国出身だったのだろうか…
もう知るすべがないのが悔やまれる。
ちなみに「パパ」もギゼル殿が言った異国の言葉だ。
幼い頃に聞いた時、その響きが可愛くて気に入ってしまったんだ。
パパも特別な呼び方で呼ばれるのが嬉しいみたいで、パパって呼べって言ってるしね。
ギゼル殿とパパの話は続いてる。
私は耳を澄ませてそれを聞く。
「落ちた、と思ったらこの紐を引け。
落下の衝撃が和らぐように、風で自分を包んでくれる魔法がこのベルトに仕込んである」
「という事は、この箒と腰布が無ければ空は飛べん、という事か?」
ん?『空は飛べん』…?
えっ、それってつまり、飛べるって事!?
私も空を飛んでみたい!
ギゼル殿に頼めば教えてくれるのかしら?
私程度の魔力でも出来るのかしら?
もっとよく話を聞かなきゃ…
私は二人のおしゃべりに集中する。
「さすがセーユ殿、話が早い」
「…いくらだ」
「金はいらん、その代わり前回世話になった分をこれでチャラにしてくれ」
ん?前回…?
それって、陸で魔物が増えすぎたって騒ぎになった時の…?
だがあの時は近隣領からの避難民を受け入れたのと、船をあちこちに出したのと、何人か助っ人を…
うん、結構やってたな。
でもその礼は国かその領の領主がする事で、ギゼル殿がする事じゃないし…
パパとギゼル殿の間で何かあったのかな。
私の知らない所で…
うん、後で必ず聞いておこう。
「は…はは!なるほど、借りを返そうという事だな?
有難い…だが、これを追加で頼みたいんだ」
「ああ、いくつ入り用だ…と言いたいところだが、今用意できるのは3セットだけなんだ。
命のかかる事だから手伝いも信用のあるやつにしか頼めないし、そんな奴もいないし」
「そうか…なら、そいつから用意する。
人選は任せろ」
「本当か?有難いな」
人を送ってくれるんなら安くしとく…とギゼル殿。
それにしても3、せっと…せっと?
3組、って事?
じゃあ…
「私の分もあるのか!?」
「カリーナ!?」
もうじっと聞いてなんていられない。
空を飛べたら、リブリー様と一緒にいつでも海へ行ける!
「なあギゼル殿、これは二人乗りできるか!?」
「いや二人乗りは…今のところ、作ってないんだ」
なんだ、残念…と、あからさまにがっかりする姿を見せると、パパが言った。
「どうしたカリーナ、パパと一緒に乗りたいのか?
よしギゼル、金は出す。作ってくれ」
えっ、私、パパと乗るの!?
一瞬そう思ったけれど、反論する間も与えずギゼル殿が言う。
「金はともかく、先に人を寄越してくれ。
元々材料費はそこまでかからないんだが、とにかく手間がな…」
「分かった、信頼できる職人を5人ほど送る。
魔法は使えた方が良いよな?」
「もちろんだ、だがそんな人材を5人も…大丈夫なのか?」
「心配ない、川を下ってうちに逃げてきた民間魔術師は山ほどいる」
「マジで?すげえ…有難い」
そうやって、私が何か言う前に、パパとギゼル殿の間で話が決まってしまう…
嫌よ!
私は自分の力で空を飛びたいの!
後でギゼル殿に直談判してやらなきゃ…!!
「…何をしてるんだ?」
二人とも真剣な顔で、箒を股に挟んでぴょんぴょん…
不思議な光景。
あんまり気になるものだから、近くまで行って様子を覗う。
「そう、自分の重心の真下に風の渦を作るんだ」
「うむ…こうか?」
「そう、もうちょっと強く…風で自分を浮き上がらせる感覚で!」
「分かっ、た…!」
強い風がこっちまで吹き付ける。
その風に負けないように、大きな声でギゼル殿がパパに言う。
「OK!その感覚だ!!
軽く地面を蹴って!軽くだぞ、軽く!」
「お、おう……おう!?」
するとパパが箒に跨ったままふわり、と浮いた。
すごい…!!
「OK!その状態をキープするんだ!」
「お、おおお…!!」
「下ばっか見たら崩れる!姿勢だ姿勢、重心ずらさない!」
「ぐうう…」
「いいぞ!OK、OK!」
パパは浮いたままの姿勢を必死で維持してる。
平衡感覚を保つ訓練…か?
それにしても、パパのあの大きな体を風で浮かせようなんて…相当な魔力がいるぞ。
あっ、パパ、危ない!
左右にグラグラしてる、落ちる!!
きゃっ!?
「うおっ…と、ふぅ…これは、大変だ」
「ああ、だが慣れれば魔力の消費も抑えられる」
…ああ、良かった。
まったく、いい歳して何やってんだ…
こけて骨でも折ったら、って、それはギゼル殿が治してくれるのか…
はは、心配して損した。
何とか着地したパパにギゼル殿が言う。
「これを思いっきり蹴って上空へ上がって、そこからは斜め上を意識して前へ進む…この箒の穂から風が出るようになってるから、これで方向をコントロールする」
「こんとろーる…つまり舟で言えば、これが舵…だな?」
「そうそう、さすが理解が早い」
こんとろーる、おーけー、きーぷ。
時々ギゼル殿はこの国の言葉でない言葉を使う。
ご両親のどちらかが異国出身だったのだろうか…
もう知るすべがないのが悔やまれる。
ちなみに「パパ」もギゼル殿が言った異国の言葉だ。
幼い頃に聞いた時、その響きが可愛くて気に入ってしまったんだ。
パパも特別な呼び方で呼ばれるのが嬉しいみたいで、パパって呼べって言ってるしね。
ギゼル殿とパパの話は続いてる。
私は耳を澄ませてそれを聞く。
「落ちた、と思ったらこの紐を引け。
落下の衝撃が和らぐように、風で自分を包んでくれる魔法がこのベルトに仕込んである」
「という事は、この箒と腰布が無ければ空は飛べん、という事か?」
ん?『空は飛べん』…?
えっ、それってつまり、飛べるって事!?
私も空を飛んでみたい!
ギゼル殿に頼めば教えてくれるのかしら?
私程度の魔力でも出来るのかしら?
もっとよく話を聞かなきゃ…
私は二人のおしゃべりに集中する。
「さすがセーユ殿、話が早い」
「…いくらだ」
「金はいらん、その代わり前回世話になった分をこれでチャラにしてくれ」
ん?前回…?
それって、陸で魔物が増えすぎたって騒ぎになった時の…?
だがあの時は近隣領からの避難民を受け入れたのと、船をあちこちに出したのと、何人か助っ人を…
うん、結構やってたな。
でもその礼は国かその領の領主がする事で、ギゼル殿がする事じゃないし…
パパとギゼル殿の間で何かあったのかな。
私の知らない所で…
うん、後で必ず聞いておこう。
「は…はは!なるほど、借りを返そうという事だな?
有難い…だが、これを追加で頼みたいんだ」
「ああ、いくつ入り用だ…と言いたいところだが、今用意できるのは3セットだけなんだ。
命のかかる事だから手伝いも信用のあるやつにしか頼めないし、そんな奴もいないし」
「そうか…なら、そいつから用意する。
人選は任せろ」
「本当か?有難いな」
人を送ってくれるんなら安くしとく…とギゼル殿。
それにしても3、せっと…せっと?
3組、って事?
じゃあ…
「私の分もあるのか!?」
「カリーナ!?」
もうじっと聞いてなんていられない。
空を飛べたら、リブリー様と一緒にいつでも海へ行ける!
「なあギゼル殿、これは二人乗りできるか!?」
「いや二人乗りは…今のところ、作ってないんだ」
なんだ、残念…と、あからさまにがっかりする姿を見せると、パパが言った。
「どうしたカリーナ、パパと一緒に乗りたいのか?
よしギゼル、金は出す。作ってくれ」
えっ、私、パパと乗るの!?
一瞬そう思ったけれど、反論する間も与えずギゼル殿が言う。
「金はともかく、先に人を寄越してくれ。
元々材料費はそこまでかからないんだが、とにかく手間がな…」
「分かった、信頼できる職人を5人ほど送る。
魔法は使えた方が良いよな?」
「もちろんだ、だがそんな人材を5人も…大丈夫なのか?」
「心配ない、川を下ってうちに逃げてきた民間魔術師は山ほどいる」
「マジで?すげえ…有難い」
そうやって、私が何か言う前に、パパとギゼル殿の間で話が決まってしまう…
嫌よ!
私は自分の力で空を飛びたいの!
後でギゼル殿に直談判してやらなきゃ…!!
54
お気に入りに追加
398
あなたにおすすめの小説
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
【短編】睨んでいませんし何も企んでいません。顔が怖いのは生まれつきです。
cyan
BL
男爵家の次男として産まれたテオドールの悩みは、父親譲りの強面の顔。
睨んでいないのに睨んでいると言われ、何もしていないのに怯えられる日々。
男で孕み腹のテオドールにお見合いの話はたくさん来るが、いつも相手に逃げられてしまう。
ある日、父がベルガー辺境伯との婚姻の話を持ってきた。見合いをすっ飛ばして会ったこともない人との結婚に不安を抱きながら、テオドールは辺境へと向かった。
そこでは、いきなり騎士に囲まれ、夫のフィリップ様を殺そうと企んでいると疑われて監視される日々が待っていた。
睨んでないのに、嫁いだだけで何も企んでいないのに……
いつその誤解は解けるのか。
3万字ほどの作品です。サクサクあげていきます。
※男性妊娠の表現が出てくるので苦手な方はご注意ください
婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話
黄金
BL
婚約破棄を言い渡され、署名をしたら前世を思い出した。
恋も恋愛もどうでもいい。
そう考えたノジュエール・セディエルトは、騎士団で魔法使いとして生きていくことにする。
二万字程度の短い話です。
6話完結。+おまけフィーリオルのを1話追加します。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる