90 / 218
【過去ばなし】チート魔術師とチャラ男令息
幸せ家族
しおりを挟むロンバードは有翔だった。
だけど、今生ではロンバードという立派な名前があり、公的にも私的にもすでにその名前で通っているから、混乱を避ける為に今後もロンバードと呼ぶことにした。
二人目の息子、セジュールが持って来てくれた奇跡。
俺は二人の事がかわいくて仕方なかった。
それなのに…。
「たった6ヶ月しか育休が無いとは…」
「仕方ないよギゼル。
君はもう魔術局長なんだからさ」
この世界に育休と言う概念は無い。
ただ、出産後しばらくは母乳(父乳?)で育てる事が推奨されており、俺もそうするつもりだった。
この世界には、母乳を代替できるミルクが無い。
どうしても足りない栄養価がある…ヒト由来の魔力とかだ。
だから当然、乳飲み子の間は仕事を休まざるを得ない…と、思っていた。
なのに…。
「俺が居なくても困る事など無いと思うがな」
「じゃあ書類だけでも家に届けてもらう?」
「届けるだけで帰るなら良いけど、あいつら居付くからな…」
ロンバードを産んだ時の話だ。
俺は魔術局長になりたてで、おまけにギルドも発足したばかりだったから…
引継ぎはしたけど、心配な事があればいつでも家に来てくれって言ったんだ。
そうしたらこの家が、半分魔術塔の支部みたいになってしまった。
「ヨークに至っては毎日毎日朝から晩まで…
あいつ学生もやってたのに、大丈夫なのかって…」
「ああ、あの子…もう今年卒業だっけ?」
「確かな」
ヨークはあの日一緒に売られた子どもたちの一人だ。
俺の3歳下で、ロンバードが生まれた時にはまだ学生だった。
今年卒業予定で、配属先は戦闘班…
「ああ、あの子か…もう良い人いるの?
紹介したい子がいるんだよね、僕」
「いやまだ気が早いだろ」
「そんな事無いよ!あの子も子爵家の養子だもん、貴族は18歳までに婚約するのが普通だからさ」
「って言ったって、ヨークも別に貴族だった訳じゃないし…今年魔術塔に入ったばっかなんだから、急がなくてもさ」
今や、魔術塔は貴族だけのものではない。
セーユ殿から紹介してもらった魔法道具の職人たちや、ヨークみたいに途中から貴族になった奴。
少し前の俺の様に、騎士たちと行動を共にする平民出身の魔術師たち…
魔術師ギルドも入れれば、出会いはいくらでもある。
「だけどさぁ、あの子ギゼルの事好きでしょ?
失恋させちゃった責任はとるべきかなって」
「そりゃ好かれてはいるけど、恋愛では無いと思うぞ?」
「…あやしい」
「怪しくないっての!」
ヨークは弟として俺に懐いてるんだ。
そんだけだって。
「だけど、毎日家にやってきてはワイワイやられたんじゃ、メルバにも迷惑だよな…。
…と言うか、あいつらが寄ってたかって構うから、ロンバードに魔法の才が目覚めたんじゃないだろうな」
「君にしては非論理的じゃないか、ギゼル」
「そうは言うが、あまりにも恐ろしいぞ…あの『能力』も含めて」
あれからロンバードは次々に魔法の知識を欲しがっては、いつの間にか魔法で物を作り出して遊んでるし…。
良いか?
世の中の3歳児はな、生まれたばかりの弟のスタイを作ったりしない。
布を型紙通りに魔法で切り抜くとか無茶苦茶だし、うっかり針を刺した指を流れるように治癒したりもしない。
それから、木を魔法で器用にカットしておもちゃを作ったりもしない。
積み木のピースはもはや100を超え、それなのにまだ材木店が訝しむレベルで端材を買い込んでいる。
俺は息子が末恐ろしくて仕方ない。
だから元々こっちで生まれる予定だったのかもしれないと、最近では思うようになった。
イレギュラーで前世の世界に生まれてしまったから、大いなる意志か何かで強引に呼び戻された……
とすれば、多分俺もそう……かも、しれない。
「ロンバードは早い段階で、俺を超えるだろうな」
「そうなの?」
「ああ、そうなれば俺はロンバードに局長の席を譲って……悠々自適の生活を送らせてもらうか」
「それ、いいね!
新婚さんらしい事、何もしてないもん」
「…そうか?」
いや、思いっきり三日三晩…その、えー…
しょ、しょ…しょや、って、ふつう一日だとおもうんだけど?
あんなにその、ずっと、あれ、あの…
「どうしたのギゼル、顔が赤いよ?」
「な、何でもないっ!!」
と、その時、セジュールの鳴き声が聞こえて…
俺は色々誤魔化す為にも、ゆりかごへと小走りで近づいた。
79
お気に入りに追加
429
あなたにおすすめの小説
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる