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【過去ばなし】チート魔術師とチャラ男令息

そんな都合のいい話!?

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「奴ら、本当に王都でも同じ事をしようとしているんだ」

リブリー殿下は、話を続けた。

「お前も聞いたことがあるだろう?
 巷間で流れている噂を」
「…ああ、あれ?
 聞いた事はある、けど…」

下町あたりでは「魔法を使うと殺される」そういう話がまことしやかに流れていた。

貴族にバレたら処刑される…そんな話が。

「…あれ、まさか本当の事なの?」
「残念ながらな」

……なんて、事だ。

「僕、その話を聞いた時…処刑なんかより手駒にするほうが合理的だけどな、なんて否定したけど…。
 僕も…大概、馬鹿だったな」

奴らの権力欲を理解出来てなかった。
そんな簡単な計算も出来ないくらい、欲に目が眩んでるなんて…思わなかった。

「もっとちゃんと、調べれば良かった。
 父に頼んで、何とかできたかもしれないのに…」
「そうだな、調べなかった罪は、重い」

リブリーによると、追い詰められて仕方なく魔法を使ってしまう者は少なくないそうだ。
その魔法で、何人もが助かる事も多いらしい。

だから貴族でなくとも魔法が使える人間がいる事を多くの民が知っている…とリブリー。
そんな人を捕まえて処刑しようだなんて、あまりの愚かさに吐き気がする。

「まさか、今も処刑されそうな人…いるの?」
「ああ、今はもういない。
 ギゼル殿がその話を聞きつけてな。
 監獄へ行って全員と面談されて、冤罪だと分かった者は全員解放された」
「ギゼルが?」

当時かなりの人数がギゼルによって解放されたそうで、宮廷は頭を抱えたのだとか。

「どうやら彼は、自分に縁のあった魔術師を探しているらしくてな。
 噂を聞きつけてすぐに動かれたんだ。
 そういうところが、奴らに目を付けられる理由でもあるんだが…この件については、大人しくしていてはくれんのだ」
「……そう、だったんだ」

ただ、一応、宮廷でも彼らを救おうという動きはあったらしい。
噂を聞いた時点で、騎士団の統括局が動いたのだ。

現場では何人も騎士が死んでいる。
魔法さえあれば助かったかもしれない命が、いくつも散ってしまったのだ。
多くの騎士団で、第二のギゼルを求めるのも無理は無かった。

だがそれを、第二王子派の貴族が阻んだ。

いるかどうか定かでない者を探すより、今いる魔術師を使えば良い…と。

「そうして、魔術塔で「定説」に異を唱えていた人間から、前線送りにされた」
「……そうか」

そこまでして、奴らは魔法を貴族の特権にしようと必死になったのだ。
力を使って、更に権力を高めようとした。
権力があれば、気に入らない人間を消す事も簡単…

「だが、ギゼル殿は違う。
 誰にも消すことが出来ない名声、そして魔力。
 毒を盛っても自ら解毒してしまう…まるで何事も無かったかのように。
 武力に訴えても、強固な結界で返り討ち。
 剣が届いたとしても、回復魔法で元通りだ」

どんな悪辣な噂を流そうとも、誰かが否定すれば簡単に覆る、異様な程の支持率。
街で囁かれる「第27騎士団がいれば王は不要」という言葉が、戯言では済まなくなってきている…

「父や弟がギゼル殿を要らないと言うなら、俺が取り込む」
「だから彼の叙爵に賛成したの?」
「そうだ。
 彼を味方にするには、彼の周りの者に正当な評価を下すだけで足りる。
 成果を出した者に褒賞を与え、権力に憑りつかれたクズ共を処分するだけで良い。
 実に簡単な事だ」

 だが、この簡単な事が今まで出来なかったのだがな…とリブリは自嘲する。

「俺の派閥から、ギゼル殿を養子に望む者を募ろうと思っている。
 養子ではなく、結婚相手でも良い。
 彼には後ろ盾が必要だ」

それから言う。

「お前、婚約もせずにフラフラ遊んでいたな?」
「うん」
「遊ぶ相手も特に決めず、その日の気分次第…
 俺の誘いを断って、街でナンパに励んだりな?」
「だって、王族連れてナンパは、ちょっと…」

下半身のゆるい貴族とばかり遊んでいたら、頭がおかしくなっちゃう。
だけど街の子は下らない自慢なんかしてこないし、癒やされたいときはそっち……ってさ。

「……ごめん」

ほんと僕って、最低……。

「だが、それが結果的に功を奏した」
「えっ…?」
「俺の派閥の貴族の中からギゼル殿の結婚相手を選ぶとしたら…お前は、その筆頭だ」
「はっ?」


 ………えっ?

 ……………どういう事?


動揺する僕に、リブリーは説明してくれた。

「魔法無し貴族の中で最も爵位が高く、歴史のあるキャンディッシュ家の長男。
 次の当主になる可能性大。領地の管理を任せられる弟がおり、宮仕えに支障が無く、王都で生活するだろうギゼル殿と共に暮らす事が出来る…とか、まあ、色々理由はあるんだが…」
「……だが?」
「何より、お前は俺の親友だから、な」

そう言って、リブリーは照れくさそうに笑った。
突然の言葉に、僕は驚き、固まる。
リブリーが言う。

「親友の恋を応援する余裕ぐらいはある。
 その代わり、絶対にギゼル殿を幸せにしてくれ」
「うん……!!」

僕は、リブリーが差し出した手を握り…
がっちりと、握手を、した。

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