【完結】ざまぁは待ってちゃ始まらない!

紫蘇

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【過去ばなし】チート魔術師とチャラ男令息

愛しい人の現状

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別室に入ってすぐ、僕はリブリーに尋ねた。

「ギゼルの食事に毒って、どういう事!?」
「言葉の通りだ、メルバ。
 間諜の報告が正しいのであれば、ほぼ毎日のように食事に毒が盛られている」
「そんな…!!」

だからあの時、何も食べずに席を立ったの?
毒が入っているかもしれないって、それで?

「…ギゼル殿は解毒魔法が使える。
 だから毒入りの食事を食べても平気だ。
 ただ、それが度々起きるとなれば…」
「…心が、蝕まれていく…?」

それで、あんなに、泣いていたの?
昔は良かったって…あの歳で、戦友に会えて嬉しい…って、そんな…。
命懸けで魔物と戦っていた方が、ずっと良かったって事…?

「だったらどうして、騎士団から魔術塔に?」
「…父の命令だ。
 今回の遠征から外されたのもな」
「えっ…?」

何で…?
だって、叙爵してまで彼を取り込もうとしていたじゃないか。
第27騎士団全員を陞爵させたり、他にも…。

「全ては、ギゼル殿に枷を嵌める為の策だ」
「えっ」
「騎士たちが陞爵すれば、彼らの養子にも教育の場が与えられる。
 その養子は、元々ギゼル殿と一緒に人買いに売られた仲間たちだ。
 彼らが新しい爵位を手にする為には、自分も王都へ顔を出す必要がある」

リブリーによれば、最初は叙爵を理由に呼び出して暗殺する計画だったそうだ。
その計画は、ギゼルに通達を1年も無視されていた事で失敗に終わった…

ふむ、つまりそこで漸く思い直したんだな。
遅すぎるけど。

「それで、枷を嵌めて取り込む戦略に…」
「違う」

ちがう?

「そうして騎士爵を与えられたギゼル殿は、村の仲間を人質に取られ、王命に逆らえなくなった。
 父は彼を、庇護する騎士団から切り離し、魔術塔へ留めおく事で、暗殺しやすい環境を整えたのさ」

え……?

「は!?わざわざ殺す為に?意味が分からない」
「そうだな、あまりに愚か過ぎて…予想出来なかった」

馬鹿だ、馬鹿過ぎる。
何の為にあれほどの有益な人材を殺す?
国を滅ぼしたいのか?

「唆したのは、権力に憑りつかれた貴族どもだ。
 奴らが弟を介して、父に何やら吹き込んだ」
「…それって、魔法が使えるほうの?」
「そうだ」

貴族には2種類ある。
魔法が使える家と使えない家だ。

うちは使えない家の代表格。
対する王家は魔法は勿論の事、「異能」と呼ばれる特有の力も使う事が出来る…

リブリーも勿論、異能が使える。
弟君も、使えたはずだ。

「父と弟は、ギゼル殿が邪魔なんだ。
 貴族以上に魔法が使える平民がいると困るのさ。
 それどころか、貴族の血をひいてもいないのに魔法が使える事自体がな」
「ああ、貴族しか魔法使えないとかいうやつ…」

それは時々、魔法あり貴族から聞かされる自慢だ。
魔法が使えるのは貴族だけ、それも選ばれた貴族だけなんだって…
だからどんな抱き方をしても文句ないよな?
って、そういう話で。

まあ、ベッドに入れば立場逆転っていうか?
言葉巧みに上下をひっくり返した後、指と手で前立腺と亀頭の同時責めしてぐちゃぐちゃに乱れさせてから結腸まで一気に突き立ててやって、ガン掘りして新しいヤバイ扉を開いてやるんだけどね。

「でも『魔法は貴族にしか使えない』なんて、ただの嘘でしょ」
「ああ、嘘だな。
 だがそれを本当にしようと、もう何年も動いてきた連中がいる」
「…は?」
「俺だって、つい最近まで疑ってもいなかった。
 平民には決して使えない、貴族でも限られた者しか使えない、特別な力…それが魔法なのだ、と。
 家庭教師からもそう習ったし、学園でも教師からそう教わった」
「えっ、学園でも!?」

僕が声を上げると、リブリーが睨んだ。

「…お前、魔法の授業をサボってばかりいるから」
「だって魔法使えないし、受ける意味ないもん!
 家庭教師だって、魔法の話は出さないし」

いや、使えなくは無いよ?
コップに水を溜められる程度だけどね!

「でも嘘をばら撒くって、罪にならないの?」
「なるに決まっているだろう。
 学園の方はギゼル殿の入学に合わせて入れ替えたし、家庭教師の方は…どこへ行ったのやら」

リブリーが薄く笑う。
不穏な空気を察して逃げたのか、それとも…

うん、あまりつつかないほうが良さそう。

「なんにしろ、魔法を貴族の特権にしたい奴らがそこまで蔓延ってたなんて」
「魔法が使えない家は蚊帳の外だからな。
 それも奴らの策の一つだろう」
「そもそもあの魔物の大増殖で、魔法が使えない領主は領地に大分お金を使ったから、王都に出て来られないとこも多いしね」


そう、魔法が使えない家は……

水路が壊れたら税金で治し、
道路が壊れたら税金で治し、
不作なら税金を軽減し、
飢饉が起きたら備蓄を開放する。
魔物や災害に対応する為の領軍も必要だ。

何をするにも金がかかる。
だからお金が無さ過ぎて、屋敷の使用人を「身寄りのない子どもを面倒見る為」の枠にして児童福祉に充ててる家も多いんだ…って、うちもそうだけど。
領主の家は半分孤児院みたいな扱いだね。


一方、魔法が使える家は……

水路が壊れたら魔法で治し、
道路が壊れたら魔法で治し、
魔物が出たら魔法で追い払う。

魔法で出来る事は魔法でやる、だから税金を多く自分の懐に入れて良い…らしい。
だからその金で使用人を多く雇い、贅沢をして経済を回している…そうだ。
他の細かい事は知らない。
ただ、良い噂はあまり聞かない。


「奴らは魔法を利用して、恐怖政治を敷いていた。
 重税も不当逮捕もやりたい放題。
 そうして魔法が使える領民を捕えて殺し、魔法を自分たちだけの物にしようとした」

なるほど、そうしていざ魔物が増えたら、自分だけでは対処しきれずに…

って、え?

「魔法が使える領民を殺すって、どういう事…?」
「言葉通りだ。
 魔法を使える平民は他国のスパイだと言って、密告を奨励し、処刑していた」
「……は?あれって、本気なの?」
「そうだ」
「馬鹿じゃないの!?」

みすみす戦力を手放すなんて…
それで領民が一人もいなくなったら、権力も支配も無いじゃない……って、まさか。

「だから中央で、国を…?」
「そう、領地が金を生まなくなったから、奴らは国に集ることを考えついた。そして領地でやっていた手法で、国も治めるつもりだった」
「…つくづく馬鹿だね」

馬鹿過ぎる。

領地を潰すような手法を国で使ったら、国が亡ぶ。
そんな事も、分からないのか…?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

陞爵(または昇爵とも)…すでに爵位を持つものがより上の序列にあがること
叙爵…平民が貴族に取り立てられること


この世界の騎士は「騎士爵」という爵位かそれより上の爵位を必ず持っているという設定になっています。
なので、第27騎士団員は騎士爵から男爵・子爵(但し一代限り)に「陞爵」し、爵位を持たず平民として同行し魔物を討伐しまくったギゼルは、貴族に取り立てる「叙爵」をされる事になりました。

なので、叙爵式に呼ばれて叙爵されたのはギゼル1人となります。

ちなみに、一緒に同行した村の子どもたちは炊事や洗濯のお手伝いをしていたという設定になっています。
本編に出てくるヨークさんも他の子と同じ様にお手伝いを頑張っていましたが、この時点では魔物討伐に直接関わっていないので叙爵を免れています。
ギゼルは子ども達に、魔物とはいえ「殺し」をさせたくなかったという事も含め裏設定にさせてもらいました。
そのうちこの設定も、どこかで出てくる…かもしれない…?

何やらややこしい事ですみません。
疑問・質問、誤字・脱字、随時受け付けております。
今後とも宜しくお願い致します!
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