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ざまぁなど知らぬ!
【閑話】飴の行方
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「…ふむ、これが魔法の飴か」
「ええ、ですが今回のものは疲れを取る事のみにしか使えないそうで…」
「良い、良い。
よくやってくれた」
ここはレドモンド・スフィーリア公爵の部屋。
雪深く春が遅いアデア王国では、疲れすらも死を招く。
特に雑用をする者は、疲れたまま眠って、そのまま…
「何でも貰えるものは貰おう。
どうにかこれを分析して再現できれば…体が温まる効果のある飴が出来るかもしれん」
「酒や辛い物にも限界がございますからね」
…その通りだ。
いくら寒さに強いと言っても、人間には限界がある。
動物にだって限界がある。
ただ何故か、魔物には限界が無いのだ…
「あれや腕輪だけでは足りぬ…体の中から温かくなるものがやはり必要だ」
「左様で御座いますね」
「寒すぎて他国が攻めて来ぬのが唯一の救いだな」
そう、下手に手を出せば甚大な被害がでる。
アデア王国の冬将軍は、誰にも倒せぬ死の軍勢だ。
「せめて、寒さで死なぬように…な」
「人が死ななくなれば、今度は食糧問題ですが」
「そうだな、できれば同時に進めたいところだが…魔法に頼るよりは新しい農法を考えた方が良いだろう」
何でもかんでも魔法に頼れば良いわけではない。
魔法が使える人間がいない土地でも、麦が取れるようにならねば…
「魔法無しで、土地を温める…か」
「あまり温かくても、根が腐りますし…難しそうではありますな」
「それも寒さで死ななくて良いとなれば、野外での研究も捗るだろう」
魔法だけに頼るのは愚策。
そもそも魔法など特定の人間しか使えないのだ…
本来は。
「荷物の件、子細頼む。
私はロンバードを探して、身体が温かくなる何かを思いつかないか試してみよう」
「は、畏まりましてございます」
確かこの時間なら…図書館にいるはずだ。
最近、貸出記録には薬草関連や民俗の書籍が目立つ…
何か新しい事を考えている証拠だ。
「さて、それでは行くか」
顔に見合わない制服に腕を通し、魔物退治に行くのと変わらない緊張感で部屋を出る。
一言一言に、国民の命が乗っている…
レドモンド・スフィーリアは知っている。
ロンバードの知恵は、魔法だけに留まらない事を…
「ツカイステカイロに続く知恵を、聞き出せると良いがな」
***
「そういえばロンバード殿は旅に憧れているのでしたね」
「はい、そうですね。
ちょっと難しくなりつつありますけど…」
「そうですね、王子妃ともなると…」
「お兄様、次のご予定が迫っております。
皆様申し訳ありませんが、個別のお話は寮に駐在している外交官を通じてお約束下さい」
「はは、ただの世間話じゃありませんか。
セジュール殿が目くじらを立てる程の事ではありませんよ」
ロンバードはやはり図書館にいた。
すでに何人かの留学生に囲まれており、ロンバードの弟がその留学生を威嚇しているようだ。
レドモンドは手を挙げて挨拶をする。
「やあ、ロンバード君!」
「あ、レドモンド君!君も本を借りに?」
「ああ、母国は家の外へ出られない時期が長いから、本は友人のようなものでね。
心を落ち着けたい時にはここが一番だ」
遠回しに我が国は寒いとアピールする。
そうすれば思った通りの反応がある。
「そっか、アデア王国は寒いもんね…
粉雪が降るんだっけ」
「そうだ、サラサラの…」
「スノボとかスキーってやらないの?」
「すのぼ…は、分からんが、スキーはある。
ただ下りは良いが、上りはあの板を持って上がらないとならんからな…」
「リフトとか無いの?」
「リフト?」
「ロープに椅子を吊り下げて、こう…」
ロンバードは身振り手振りで「りふと」とやらの説明を始める。
弟がそれを止めたが、もう遅い。
「ああ、何となく仕組みは分かるが、そうなると設置費用も工事も恐ろしそうだな」
「そっか、じゃあロープだけ、こう、板履いたまま捕まって上がるのは?」
「そもそも起点終点の部分を動かす動力がだな…」
「あー、回転は結構難し「お兄様、もうお時間です、行きましょう」
「あ、うん…じゃ、また寮で!」
アルバードとその弟が図書館の談話スペースから立ち去る。
するとそこにいた留学生たちは先ほどの話を忘れないうちに猛然とメモに書きとめる。
「…どこの国も、必死か」
留学生たちの顔ぶれをみれば、山がちの小国から来たものばかりだ…
だから話題が山の事になったのだな、とレドモンドは合点した。
「…少しは助けになれたか?」
「はい、有難う御座います、スフィーリア公」
留学生たちが頭を下げる。
来たからには何かを持って帰らねばならぬ。
小さな国でも必死で民を守り生き抜こうとしている。
恐ろしいのは魔物や自然だけではない。
大国の豪商の中には、その経済力を武器に小国を荒らして私腹を肥やす者もいる。
心無い商人によって資源を安く売れと迫られ、断れば物を売らないと言って脅されるのだ。
魔物より恐ろしいのは人間の欲…。
「ところで、今日ロンバード殿が読んでいた本は何か、分かるか」
「ええ、お菓子作りの本を…」
「…菓子?」
菓子…とはまた、変わった事を。
何を考えているのだ、ロンバード…
「時には息抜きの本も読む、という事…か?」
そう独り言を言いつつ、レドモンドはまた別の事を考えていた。
「ええ、ですが今回のものは疲れを取る事のみにしか使えないそうで…」
「良い、良い。
よくやってくれた」
ここはレドモンド・スフィーリア公爵の部屋。
雪深く春が遅いアデア王国では、疲れすらも死を招く。
特に雑用をする者は、疲れたまま眠って、そのまま…
「何でも貰えるものは貰おう。
どうにかこれを分析して再現できれば…体が温まる効果のある飴が出来るかもしれん」
「酒や辛い物にも限界がございますからね」
…その通りだ。
いくら寒さに強いと言っても、人間には限界がある。
動物にだって限界がある。
ただ何故か、魔物には限界が無いのだ…
「あれや腕輪だけでは足りぬ…体の中から温かくなるものがやはり必要だ」
「左様で御座いますね」
「寒すぎて他国が攻めて来ぬのが唯一の救いだな」
そう、下手に手を出せば甚大な被害がでる。
アデア王国の冬将軍は、誰にも倒せぬ死の軍勢だ。
「せめて、寒さで死なぬように…な」
「人が死ななくなれば、今度は食糧問題ですが」
「そうだな、できれば同時に進めたいところだが…魔法に頼るよりは新しい農法を考えた方が良いだろう」
何でもかんでも魔法に頼れば良いわけではない。
魔法が使える人間がいない土地でも、麦が取れるようにならねば…
「魔法無しで、土地を温める…か」
「あまり温かくても、根が腐りますし…難しそうではありますな」
「それも寒さで死ななくて良いとなれば、野外での研究も捗るだろう」
魔法だけに頼るのは愚策。
そもそも魔法など特定の人間しか使えないのだ…
本来は。
「荷物の件、子細頼む。
私はロンバードを探して、身体が温かくなる何かを思いつかないか試してみよう」
「は、畏まりましてございます」
確かこの時間なら…図書館にいるはずだ。
最近、貸出記録には薬草関連や民俗の書籍が目立つ…
何か新しい事を考えている証拠だ。
「さて、それでは行くか」
顔に見合わない制服に腕を通し、魔物退治に行くのと変わらない緊張感で部屋を出る。
一言一言に、国民の命が乗っている…
レドモンド・スフィーリアは知っている。
ロンバードの知恵は、魔法だけに留まらない事を…
「ツカイステカイロに続く知恵を、聞き出せると良いがな」
***
「そういえばロンバード殿は旅に憧れているのでしたね」
「はい、そうですね。
ちょっと難しくなりつつありますけど…」
「そうですね、王子妃ともなると…」
「お兄様、次のご予定が迫っております。
皆様申し訳ありませんが、個別のお話は寮に駐在している外交官を通じてお約束下さい」
「はは、ただの世間話じゃありませんか。
セジュール殿が目くじらを立てる程の事ではありませんよ」
ロンバードはやはり図書館にいた。
すでに何人かの留学生に囲まれており、ロンバードの弟がその留学生を威嚇しているようだ。
レドモンドは手を挙げて挨拶をする。
「やあ、ロンバード君!」
「あ、レドモンド君!君も本を借りに?」
「ああ、母国は家の外へ出られない時期が長いから、本は友人のようなものでね。
心を落ち着けたい時にはここが一番だ」
遠回しに我が国は寒いとアピールする。
そうすれば思った通りの反応がある。
「そっか、アデア王国は寒いもんね…
粉雪が降るんだっけ」
「そうだ、サラサラの…」
「スノボとかスキーってやらないの?」
「すのぼ…は、分からんが、スキーはある。
ただ下りは良いが、上りはあの板を持って上がらないとならんからな…」
「リフトとか無いの?」
「リフト?」
「ロープに椅子を吊り下げて、こう…」
ロンバードは身振り手振りで「りふと」とやらの説明を始める。
弟がそれを止めたが、もう遅い。
「ああ、何となく仕組みは分かるが、そうなると設置費用も工事も恐ろしそうだな」
「そっか、じゃあロープだけ、こう、板履いたまま捕まって上がるのは?」
「そもそも起点終点の部分を動かす動力がだな…」
「あー、回転は結構難し「お兄様、もうお時間です、行きましょう」
「あ、うん…じゃ、また寮で!」
アルバードとその弟が図書館の談話スペースから立ち去る。
するとそこにいた留学生たちは先ほどの話を忘れないうちに猛然とメモに書きとめる。
「…どこの国も、必死か」
留学生たちの顔ぶれをみれば、山がちの小国から来たものばかりだ…
だから話題が山の事になったのだな、とレドモンドは合点した。
「…少しは助けになれたか?」
「はい、有難う御座います、スフィーリア公」
留学生たちが頭を下げる。
来たからには何かを持って帰らねばならぬ。
小さな国でも必死で民を守り生き抜こうとしている。
恐ろしいのは魔物や自然だけではない。
大国の豪商の中には、その経済力を武器に小国を荒らして私腹を肥やす者もいる。
心無い商人によって資源を安く売れと迫られ、断れば物を売らないと言って脅されるのだ。
魔物より恐ろしいのは人間の欲…。
「ところで、今日ロンバード殿が読んでいた本は何か、分かるか」
「ええ、お菓子作りの本を…」
「…菓子?」
菓子…とはまた、変わった事を。
何を考えているのだ、ロンバード…
「時には息抜きの本も読む、という事…か?」
そう独り言を言いつつ、レドモンドはまた別の事を考えていた。
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