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ざまぁなど知らぬ!

ざまぁへの道、険しすぎる

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俺はダリル様の部屋へ行き、さっき部屋であった事の顛末を報告した。

それで思い切って言った。

「やっぱり、俺と結婚するのはおやめになったほうが」
「阿呆抜かせ、結婚は絶対だ」
「…でも、」
「交渉の場であれば俺が助けてやる。
 寮内ではセジュールが役に立つ。
 この1年は、お前に合わせた外交体制を整えるための期間でもある。
 だからお前は………うん…あれだ。
 取り敢えず、パン爺に当たり障りのない笑顔の作り方を教えてもらえ」
「…はい」

結婚はすでに決定事項である…
どうやら俺が考えていたより、婚約ってのはずっと重たいものらしい。

「何とか「ざまぁ」されないと、大変な事になるぞ…」

でも、もう残された作戦は「おねだり」しかない。
いじめっ子にはなれそうもないし、尻軽を演じるのもリスクが高すぎる。

「あー…王妃、なりたくない」

俺はとぼとぼ、パン爺の部屋に向かった。

***

俺はドアをノックして、呼びかけた。

「ポムさん、すみません、ロンバード・キャンディッシュが参りました」
「おやおや、どうされましたかな」

この人がパーン・ポム…通称パン爺。

パン爺は、この寮に俺のせいで詰める事になった外交官のおじいさんだ。
現場で叩き上げた手腕は今も健在。

俺はさっきのやらかしですっかり意気消沈。
パン爺はそれだけで何かを察して、俺を部屋に招き入れてからポットに水を入れて火にかける。

「…俺も、面倒臭がらずにそうしてれば良かった」
「また魔法でやらかしたのですな?」
「…はい」

俺はもう一度事の顛末を説明する。
するとパン爺は笑いながら言う。

「面倒だから魔法を使うなど、普通の方はしませんぞ?」
「そう、ですよね…」
「私もアルバード様に初めてお会いした時に驚きました。
 貴方は余りにも自然に魔法を使われる。
 注意深くなければ気づかぬほど、さりげなく」
「…そうなんです、もうそれが俺の普通で」

ものを作るのに面倒は感じないのに、生活のちょっとしたことが面倒で、ついつい魔法を使ってしまう。
例えば湯を沸かすとか、そういう事。

「そう、ですから普通を今一度見直す事です。
 この学生寮にいる方達は、目端の利く方ばかり。
 今のうちに彼らの視線に慣れておけば、実際の場に出て困らぬという算段ですな」

落ち込む俺に、パン爺は優しく言う。
そうか、まだ間に合う…今はまだ、ギリギリ学生だから。

「…つまり、最高の修行の場ってことですか?」
「その通りです。
 失敗しても最悪、婚約解消して魔術塔に蟄居されれば済む事ですからな」
「蟄居」

いや、婚約解消は分かるけど、魔術塔に蟄居ってどういう状況?

「国に与えた損害を、その身でお支払いになるという事ですな」
「それは…どのくらいの期間…?」
「与えた損害の具合にもよりますが、死ぬまで、という事も有り得ますな」
「しぬまで!?」

俺は焦った。
死ぬまでって何したらそんな…
そんな俺にパン爺は呵々と笑って言った。

「戦争にさえならねば良いのです、あまり気負いなさらぬが宜しい」
「は…はあ」

せ、せんそう…

「外交の失敗は戦争、と覚えておいて頂ければ」

そう言ってパン爺は笑い…

「それはそうと、感情が何でも顔に出るのは困りますな」

と言った。
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