【完結】ざまぁは待ってちゃ始まらない!

紫蘇

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ざまぁなど知らぬ!

準備からきな臭い

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パン爺に「外交的微笑」を叩きこまれた翌日。

「晩餐会か…」
「表向きは新しく増えた寮生の歓迎会。
 だが、本当のところはお前との特別なパイプ作りだろう…
 全員がお前を狙っていると考えた方が良い」
「そんな馬鹿な…」
「現実から目を逸らすな」

ダリル様に散々脅されつつ、ついに迎える晩餐会。
準備に大忙しの皆様を労う為に、会場にちらっと顔を出すと…

「あれ、長ーいテーブルはどこへ?」
「本日は立食形式でございます」
「そうなんですか?珍しいですね、晩餐会なのに」
「は、はは…そうですね」

参加者が多すぎて、ちゃんとテーブルをセットするとギチギチになるんだってさ。
でも変だな、あそこ一つだけ、ちゃんとテーブルと椅子がセットになって…
そっか、きっと足の悪い人がいて、その人の為のやつだな。じゃあちゃんと話しかけに行かないと…

って、そうそう。

「これ、手が空いた方からお1つずつどうぞ!
 疲れが取れる飴です」
「なんと…これ、あの魔法の飴…ですか?」
「ええ、疲れを取る専用です。
 うっかり他の事で魔法つかっちゃう問題を解決すべく、ちょっと作ってみたんです。
 試作品なので、後で感想を聞かせて下さい」
「ありがとうございます!」

ワラワラ…と準備していた人たちが集まってくる。
飴が瞬く間に無くなり…ちょっと足りない。
あれ、結構作って来たのにな…

「…もう始まっているじゃないか」
「あ、ダリル様」

準備をしていた人たちがさっと頭を下げた。
ダリル様は準備を続けてくれ、と皆に言うと、俺の持っている籠を取り上げて、フフンと鼻で笑った。
何だろうこの感じ…何やら不穏。

「その、ダリル様…もう始まっているって、どういう事ですか?」
「今日の晩餐会が立食になった事だ。
 席順で相当揉めたんだろう…誰がお前の近くに座るのか、で」
「ええっ!?」
「争いを避けるという意味では良く出来ている、と言わざるを得んな」

そう言うと、ダリル様は俺の腰に手を回して会場から連れ出した。
部屋に帰るまでは無言…気まずい。
でも俺、悪い事は何もしてない…はずなんだけどな…。

***

部屋に着くなり、ダリル様が言った。

「ロンバード、飴はいくつ持って行った」
「え、えっと…40個、準備の人が31人って聞いたから、まあ、ちょっと多めにって…」

とても疲れてる人にはもう一個、と思って。

「なるほど、つまり31人から増えているか、31人の中に余計に貰ったものがいるという事だな」
「そうですね」
「この飴の行先はどこだと思う?」
「そりゃ、みんなの腹の中…」
「いくつかは、な。半分以上は、留学生が本国へ送る荷物の中だ」
「へ?」
「お前が時々配っている魔法の飴だがな。
 貰った子どもから買い取り、それを高額でよそへ売る商人がいるのを知っているか?」
「えっ……転売!?」
「そう、転売だ、大問題だな?」
「大問題ですね…!!」

転売なんて冗談じゃない!

確か物品の転売を防ぐには、バンバン作って価値を下げるのが一番早い…だっけ。
ふーむ……。

「…お前、何を考えている」
「いや、転売を防ぐ方法……
 大量生産する方法っていうか」
「は?大量生産!?…できるのか?」
「同じ効果が期待できるレベルのはちょっと難しいですけど、半分程度の効果のやつなら…」

最近飴を大量に作ってるから、工程の半分くらいを自動化して楽出来ないか考えてたんだ。
多少の魔力がある土地で、工場立てて、材料に使う薬草も育てつつ、魔力集積回路も作って…

「何年以内に出来そうだ」
「…2~5年?工場用地の選定が一番大変かな…」
「ふむ、それはこちらでやるから良い。
 もし大量生産できるとすれば、画期的だな」

何故かダリル様も乗り気になってきた。
このまま行けば許されそうな感じ…だけど、期待を裏切ってもいけないし釘を差しとかないと。

「でも効果は半分くらいになるかも」
「半分でも充分だ!」

えっいいの?
今の半分だと、中型魔物を倒すのが精々だけど。

「構わん、廉価版にしては充分…ああ、今回の様に効果が限定されている飴ならどうだ?」
「いや、そっちのほうがむしろ面倒で」
「そうなのか?何故?」
「魔力の使用方法を限定する手間がいりますので」
「…そうか、いや…だが、効果の方は?」
「うーん、今回の試作品がどの程度なのか分からないので、何とも…。
 食べて害の無い事は分かっているんですけど」

そのへんは自分で食ってみて確認済みだ。
鑑定魔法にかけても毒は出ないしな。

俺は改めてダリル様の顔を見る。
もう怒ってないどころか、やる気に満ち満ちた顔…

「…飴の件、隠密に事を進める。
 話を魔術塔の外へ漏らすな、いいか?」
「は、はい…」

何だかよく分からないうちにやらかしは雲散霧消して、俺は婚約者を辞めなくても良くなった…




って。


……あれ?

俺、辞めたかったんじゃなかったっけ…?
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