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第1章 青年期 蒸気機関技師編
間話「ロータス・キャンベル1」
しおりを挟むある女性の話をする。その女性はアンクルシティの治安維持部隊長をしており、直属の部下であるZ1400型、蒸気機甲骸を従えていた。
彼女の名前は、ロータス・キャンベル。背中まで伸びる桃色の長髪と、ボンテージを彷彿とさせる特殊な軍服を着た兵士だ。
彼女は五年前、アンクルシティの反政府組織である、『錆びた歯車』の要人A氏が単独で動くとの情報を得た。情報源は同反政府組織に所属する潜入スパイからのモノだ。
区画外にあるダム施設へ到着した、ロータス・キャンベルとZ1400。二人は周囲を警戒しながらダム施設に侵入した。
「Z1400、貴女は私のバックアップをしてちょうだい」
「了解シマシタ。ロータス様」
蒸気機甲骸に指示を送るロータス・キャンベル。直属の部下であるスチームボットは、ロータス・キャンベルの指示を守り、彼女の数メートル後方に柱の陰に隠れていた。
「潜入班の情報通りだ。この工場にはターゲットと複数人の護衛しかいない」
そう言ってロータス・キャンベルは、腰のホルダーに備えられていた蒸気機関銃を引き抜く。腰のベルトから無線機を手に取り、彼女は他の治安維持部隊に連絡を取った。
「こちらロータス・キャンベル。『錆びた歯車』の幹部を目視で確認した。スチームボットと複数名の人間兵士を寄越してくれ」
「了解、場所は何処だ?」
「区画街にあるダム施設だ。違法な薬物取引の現場を押さえている。すぐに応援を寄越してくれ」
「了解した。数十分で応援が着くだろう。それまでは何も行動するな」
無線連絡を終えたロータス・キャンベル。しかし、彼女が無線連絡を終えた直後、数メートル後方から銃声が鳴った。
ロータス・キャンベルは蒸気機関銃を構え、音のする方へと忍び寄る。彼女の視線の先には、大柄の男がスチームボットを鉄パイプで破壊する光景があった。
息を呑みこみ、ロータスは気配を殺す。
(銃声はひとつ。たったひとつでZ1400が破壊されたのなら、私一人ではあの男に勝てない)
Z1400を引きずる大男。ロータスは柱の後ろで息を潜めていたが、何者かによって頭を鉄パイプで殴られた。
「治安維持部隊が居た。見たところ、建物には女性兵士と機械人形一体しかいなかった」
「そうか。組織の中に内通者がいるかもしれないな」
スチームボットとロータス・キャンベルを引きずる大男。彼はダム施設の屋上に着き、数人の女性を含めた幹部たちにロータスを縛り上げさせる。
正義感に満ち溢れたロータス・キャンベルは、朦朧とする意識の中、反政府組織の面々に向けて叫ぶ。
自身の置かれた状況が不利だと解っていても、彼女は命乞いをすることはなかった。
「貴様らがやっている事は犯罪行為だ。貴様らは、子供たちの善意を利用する性根の腐ったクソ野郎だ――」
ロータス・キャンベルがそう言った直後、反政府組織の幹部の女が彼女の腹を蹴り上げた。何度も蹴り上げた後、動かなくなったロータスキャンベルに向けて、幹部の女は”特殊な錬成水”を振りかける。
すると、幹部の女が振りかけた錬成水により、ロータス・キャンベルの体は焼け始めた。
レザースーツが焼けていき、体の皮膚に癒着していく。幹部の女が振り掛けた錬成水は、ロータス・キャンベルの頬にも掛かっていた。
「これは特殊な錬成水で作られたバッテリー液よ。そんな顔じゃあ、一生嫁に行くことはできないわね」
そう言って幹部の女はロータス・キャンベルを蹴り上げる。しかし、彼女が蹴り上げたのは、ロータス・キャンベルの体ではなかった。
空中に蹴り上げられた謎の人物。目を凝らした幹部の女は、蹴り上げられた人物が青年なのだと理解した。
(この青年は誰だ。年齢も若すぎるし、もしかしたらアンクル青年団の一人なのかもしれない)
「兵士さん、大丈夫ですか?」
サイバーパンクを彷彿とさせるオーバーコートに身を包んだ青年。身長は140センチ前後。年齢は十歳を過ぎたばかりだ。
「誰なの、アナタは……」
「僕の名前は、アクセル・ハンドマン」
力なく横たわるロータスの元に近づき、アクセルは腰に携帯していた錬成水入りの小瓶を握り締める。その後、彼は火傷を負ったロータスの体に、『特殊な錬成水』を振りまいた。
すると、アクセルが振り掛けた錬成水によって、ロータスの体にできた火傷が癒されていく。しかし、ロータスの顔にできた火傷は癒されなかった。
「さて、『錆びた歯車』の皆さん。僕が誰かは御存知でしょうね?」
アクセルがそう言うと、彼を取り囲んでいた幹部たちは、蒸気機関銃やナイフといった武器と呼ばれるものをホルダーに収める。
彼が『アクセル・ハンドマン』という人物なのだと知った彼らは、彼の心が変わらないうちに一斉に逃げ始めた。
ダム施設の屋上に残された、ロータス・キャンベルとアクセル・ハンドマン。彼は羽織っていたコートを脱ぎ、横たわるロータス・キャンベルの胸元を隠した。
「貴女、誰なの?」
「五番街の中心にある、『便利屋ハンドマン』で技師をしています。迷い猫の捜索から下水施設にいる魔物の退治、レンタル彼氏や人殺しまで請け負う、何でも屋さんです」
「何でも屋さん……どうして私を助けてくれたの」
「まあ、偶然ってところですよ。ダム施設に魔物を退治して欲しいって、依頼されたんですよ」
「じゃあ、私が助かったのも偶然ってこと?」
「いいえ。それは偶然じゃありません。僕は助けられる命は助ける主義なんです。一応名刺を渡しておきますね」
ケツポケットに手を入れるアクセル・ハンドマン。彼は数日前に印刷された新しい名刺ではなく、それ以前に配っていた直筆の名刺をロータス・キャンベルに渡した。
すると、遠くの方から赤青灯の輝く光が放たれていた。それに気づいたアクセルは、その場から立ち去った。
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