備後の神の縁結び

茜琉ぴーたん

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大人編

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 秋、祝言の日は朝から生憎あいにくの雨。
 しかし花山家から刈田家までの100数メートルの花嫁道中はご近所さんがわざわざ出て来て写真を撮ったり声援をくれたりと、多くの祝福を受けることができた。
「千鶴ちゃん、行ってらっしゃい」
「お幸せに」
「綺麗なお嫁さんじゃわ」
 昔だったら「あぁ恥ずかしい、目立ちたくない」と顔を伏せていただろうが今は違う。傘の下で千鶴は誇らしげに微笑み、そこには覚悟と自信が感じられる。
 せっかくの角隠つのかくしに打掛うちかけは少し濡れてしまったが仕方ない、千鶴は裾をしっかり持ち上げてしゃなりしゃなりと刈田家母屋の門をくぐった。

「いらっしゃい、上がって」
「失礼します」
 由恵も今日は久々に黒留袖くろとめそでを着て姑らしく言葉少なで、しかし千鶴を仏間へ通し後ろをついて来た美恵子みえこと手を合わせれば涙目になる。
「美恵ちゃん、おめでとうね」
「よっちゃん、良くしてやってね、千鶴をお願いね、」
 母組は静かに祝い合い、目を腫らした文雄も招き入れてこれで役者が揃った。
「チィ…キレイなのう」
「ありがと」
「緊張しとるんか」
「少しね」
 和装の人前式は渉の希望で、代々そうだし千鶴は着物が似合うからとそれくらいの理由で決めたのだが…近所へのお披露目にもなるし美人の嫁を見せびらかせるとあって、渉は実に満足げに高砂にて笑う。
 仲人は無しで列席者が証人、二間続きの広い仏間は親族と会社関係者で溢れた。

「えー…私は、貴女の真面目なところ、私を叱ってくれるところ、可憐なところに惹かれました。どんな時にも味方になり、えー…貴女を助け、千鶴を妻として、生涯愛し続け、幸せにすることを誓います」
「私は、貴方の実直なところ、純真なところ、仕事に一所懸命なところに惹かれました。私は貴方のそばにいて貴方を支え、貴方渉を夫として生涯愛し続け幸せにすることを誓います」
「平成20年10月19日…刈田渉」
「千鶴」
 皆の前で愛を誓い指輪を交換して、賛同を得て、祝福されて、今日この良き日にひと組の若い夫婦が誕生する。
 当初の予定では三三九度も考えていたのだが、匂いで酔ってしまう渉にもしものことがあってはとそれ自体を取りやめた。若干の肩透かし感はあるものの伝統と新しさの混じったコンパクトな式次第であった。
 式のクライマックスの新郎謝辞では渉は噛み噛みで会社従業員からヤジが飛び、酔った剛がお膳をひっくり返したり渉が庭の池に落とされたりと大騒ぎ。

 皆が帰り着付けを解いた時には千鶴はくったりとしてベッドへ倒れ込んだ。
「ちーちゃん、大丈夫?」
控え室として部屋を提供してくれた美月は、普段着に着替えた背中をすりすりと摩る。
「うん…頭も重くって…」
「すっごくキレイだったよ、お兄ちゃんにはもったいないくらい」
「ありがと…はぁ……美月ちゃんも、いつかこうやってお嫁さんになるんだよ」
 16歳になった美月は「うーん」と少し考え込んで、
「あたしは、洋装がいいかな」
と兄そっくりな二重の目を細めて笑った。
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