58 / 64
大人編
52
しおりを挟む秋、祝言の日は朝から生憎の雨。
しかし花山家から刈田家までの100数メートルの花嫁道中はご近所さんがわざわざ出て来て写真を撮ったり声援をくれたりと、多くの祝福を受けることができた。
「千鶴ちゃん、行ってらっしゃい」
「お幸せに」
「綺麗なお嫁さんじゃわ」
昔だったら「あぁ恥ずかしい、目立ちたくない」と顔を伏せていただろうが今は違う。傘の下で千鶴は誇らしげに微笑み、そこには覚悟と自信が感じられる。
せっかくの角隠しに打掛は少し濡れてしまったが仕方ない、千鶴は裾をしっかり持ち上げてしゃなりしゃなりと刈田家母屋の門をくぐった。
「いらっしゃい、上がって」
「失礼します」
由恵も今日は久々に黒留袖を着て姑らしく言葉少なで、しかし千鶴を仏間へ通し後ろをついて来た美恵子と手を合わせれば涙目になる。
「美恵ちゃん、おめでとうね」
「よっちゃん、良くしてやってね、千鶴をお願いね、」
母組は静かに祝い合い、目を腫らした文雄も招き入れてこれで役者が揃った。
「チィ…キレイなのう」
「ありがと」
「緊張しとるんか」
「少しね」
和装の人前式は渉の希望で、代々そうだし千鶴は着物が似合うからとそれくらいの理由で決めたのだが…近所へのお披露目にもなるし美人の嫁を見せびらかせるとあって、渉は実に満足げに高砂にて笑う。
仲人は無しで列席者が証人、二間続きの広い仏間は親族と会社関係者で溢れた。
「えー…私は、貴女の真面目なところ、私を叱ってくれるところ、可憐なところに惹かれました。どんな時にも味方になり、えー…貴女を助け、千鶴を妻として、生涯愛し続け、幸せにすることを誓います」
「私は、貴方の実直なところ、純真なところ、仕事に一所懸命なところに惹かれました。私は貴方のそばにいて貴方を支え、貴方渉を夫として生涯愛し続け幸せにすることを誓います」
「平成20年10月19日…刈田渉」
「千鶴」
皆の前で愛を誓い指輪を交換して、賛同を得て、祝福されて、今日この良き日にひと組の若い夫婦が誕生する。
当初の予定では三三九度も考えていたのだが、匂いで酔ってしまう渉にもしものことがあってはとそれ自体を取りやめた。若干の肩透かし感はあるものの伝統と新しさの混じったコンパクトな式次第であった。
式のクライマックスの新郎謝辞では渉は噛み噛みで会社従業員からヤジが飛び、酔った剛がお膳をひっくり返したり渉が庭の池に落とされたりと大騒ぎ。
皆が帰り着付けを解いた時には千鶴はくったりとしてベッドへ倒れ込んだ。
「ちーちゃん、大丈夫?」
控え室として部屋を提供してくれた美月は、普段着に着替えた背中をすりすりと摩る。
「うん…頭も重くって…」
「すっごくキレイだったよ、お兄ちゃんにはもったいないくらい」
「ありがと…はぁ……美月ちゃんも、いつかこうやってお嫁さんになるんだよ」
16歳になった美月は「うーん」と少し考え込んで、
「あたしは、洋装がいいかな」
と兄そっくりな二重の目を細めて笑った。
0
あなたにおすすめの小説
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる