馬鹿でミーハーな女の添い寝フレンドになってしまった俺の話。

茜琉ぴーたん

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「!……うん、」
「見てるだけで楽しくて、会えたら嬉しくて…いいこと共有したり悲しみ分け合ったり」
「うんうん、」
「いてもたってもいられなくなって…叫びたい衝動に駆られたり…」
 まるで中高生の様な恋愛観、その高き理想とおママゴトの様な綺麗事に思わず遥が
「…直樹、恋愛にすごい夢見てたんだね」
と口を添えると
「…‼︎」
長岡は愕然として押し黙り、ぶわぁと頬から耳まで真っ赤になる。
 恋に溺れる男女を見ては無様だと笑い、言動も思考さえも相手に染まってしまうそれに必要性など感じず馬鹿馬鹿しいと思っていた。しかし長岡はその本質どころか上澄みさえも理解できていなかった。
「一緒にいて気が休まる、そんなのも恋愛だよ。直樹、私は直樹といて安心したり落ち着いたりしたよ」
車崎くるまざきさんもんなこと言ってたけど……あ、あ…」
「私がシェアハウスから逃げてきた時も抱き締めてくれたでしょ、『胸が痛んだ』って言ってた、私の悲しみを共有してくれたじゃない」
「あ、あれが…そう?」
 理解できないから知りたいと思っていたが、そもそも彼が想像していた「恋愛感情」はドラマや映画やフィクションのそれの受け売り、実情が分からないのだから実感など湧きようがなかったのだ。
「そうだよ、そんな雷に打たれるみたいな恋…もあるのかもしれないけどね、どっちかが告白して、みたいなキッカケがあればそこがドキドキポイントかもしれないけど…気付いたら好きで、仲良くなってて、隣に居るのが当たり前になっちゃったら…そんなにドキドキはしないかもしれないね」
「だろ、俺は…」
「でも、それが愛なのかもしれないね」
「……あい、」
 とっくにそれは体感できていた。その気持ちは…帰宅すると温かいご飯と遥の笑顔が待っている、寄り添うだけで朝までぐっすり眠れる、並んで座って肩が触れ合うだけで独りじゃないと心が安らぐ。
 フェラチオをさせた時は「可愛い」と思った。店の嬢に抱くものよりももっと桃色で…支配感とか征服感もあるがもっと違う、「俺のために尽くしてくれて嬉しい」とも感じた。
 そこにいてくれる、逃げないという信頼感が何より自信となって誇りとなる…見返りを求めない「愛情」、それがそうなのか。
「お、お前はそんなの望んでねぇだろ、ときめいてドキドキして…」
「何回も助けてくれた、ドキドキしてたよ」
「お、俺は好かれるようなことしてねぇ…馬鹿なやつだって、それしか…いや、」
「バカにされるのも慣れたよ、実際バカだもん。最初はマジでムカついたけどね、なんだかんだ直樹ってば優しいんだもん…」
「……でも、合コン…」
「行っていいって言うんだから行くよ。引き止めてくれたら行かなかった。必要とされないならここに居たって仕方ないもん」
 長い首に腕を絡ませてすりすりと擦って、ここぞのアプローチを仕掛ければ長岡は覚悟したように遥の肩を掴んだ。
「……ハルカ」
「なーに、」
「麺、伸びる」
「はぁ⁉︎」
 座卓の上のカップ麺を指して、長岡は卑怯にエスケープすることに成功する。



「ムカつくー…本当だったら今頃お洒落なバーで銀行マンとしっぽりしてたかもしれないのにぃ」
「だな、服着ろよ」
長岡は遥をかたわらに置いたままズルズルと縮れ麺をすすり、潤みかけていた目も垂れかけていた鼻水も温度差のせいにしようと不必要に湯気を浴びる。
「…直樹ぃ、食べ終わったら…続き、聞かせてよ?」
「なんの」
「きー‼︎」
「分かった、分かった…考えてるから待ってくれ」
「…本能に任せればいいじゃん」
 Tシャツの上から乳首を爪の先で擦れば振動が下半身にも伝わり、そこを触ろうとした遥の手を長岡は片手で制した。
「責任を伴うんだよ…そこは俺の誠意だと思ってくれ、ワンナイトなんかしたくねぇんだ」
「ふーん………ふぅ…私もお腹空いちゃった…コンビニ行って来る」
「歩く気か、危ねぇ」
「…じゃあ一緒に来てよ」
「ん、」
カップの底に少し麺を残して立ち上がり、長岡はパーカーの袖に腕を通して鍵を握る。
 そしてのそのそと服を着た遥に
「…ハルカ、せっかくだから下着取って行けよ」
とおかしな提案をしてみた。
 断るだろう?断れよ、口をへの字に曲げた遥を見つめれば、彼女はニットをもう一度脱いで長岡へ背中を向ける。
「…?」
「直樹が外して、」
「…やんのかよ」
「やるよ、バカだから。直樹、こんなことで私を試すのやめて?私、なんでもしちゃうよ……バカだからさ」
「……パンツは自分で脱いでくれ…」

 もたもたと両手で外せば巻き髪を掻き分けた隙間に覗く首筋が白くて綺麗で、男は緊張で腹に入れたばかりの麺を吐き戻しそうになった。
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