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しおりを挟む「ふー…まだ夜は寒みぃな」
「うん、寒い」
「ごめんって…」
ウールでもカシミヤでもない化繊のニットは風通しも良い。
辛うじて乳首が透けないことに安堵しつつ遥は肩を震わせて手を差し出す。
「…手、繋いで」
「ん……なんだろ…緊張すんな…」
「腕組んだりボディータッチは山ほどしてきたじゃない」
「そうだけど…」
手を取りぎゅうと握ればそれは小さくて、長岡は護られる遥に対しての優越感というか不思議な気持ちを纏った。
ケルホイに凄んだ時のような、シェアハウスの住人に啖呵を切った時のような、遥の生理用品を会計してもらっている時のような…彼女を従える自分を誇示する、安っぽい騎士道のような。
街中を女性連れで歩く男は皆こんな自信に満ちた顔をしていたか。それは他者へのアピールであり自己顕示の最たる物であると長岡は心底嫌悪の対象としていたものだ。
それがどうしたことか今の自分はまさにそれ、どれにしようかとメニューと睨めっこしていたカフェのカップルと同じだ。「やれやれ、ゆっくり頼めよ」と慈悲深い眼差しを恋人へ向ける自分に酔う…まさにそれだった。
そうかしかしならばやはりあの嫌悪感の正体は僻み妬みだったのか。だって今の自分は他者に見られてもないのにこんなに堂々としていて…自己顕示というよりは本当に隣を歩くこの女性といられることを誇らしく感じているのだ。
「初エッチが控えてるから?」
「いや…初恋だから…かな」
「……ふぅん」
「これが…ときめきってのなんだろうな…よくよく考えりゃ…ハルカのこと可愛いって思ったり…嫉妬したり…」
「嫉妬してたの?いつ?」
「…黙秘…」
それもおいおい話そうか、長岡は
「もぉ…ケチ」
と文句を垂れる遥の揺れる胸を肘で突いた。
「きゃん」
「ふは………頭でっかち…なんだな、俺は割と自分では順応性があったり悟ってると自己評価してたんだけど…全然…マニュアル人間だった」
「そうだね、でも完璧な人なんていないしー」
「…こだわりってわけじゃねぇんだけどよ、はっきり区切っときてぇんだよな」
「うん?」
コンビニの駐車場に入ると長岡は外灯の下で足を止め、繋いだ手を組み替えて遥に向き合う。
「…ハルカ、」
「うん?」
そして
「……好きだ、何がとかどこがってのは分かんねぇ。でも…好きだ」
と告げて目元を擦る。
「……あ、私も……守ったり世話焼いてくれて…前も言ったけど…信頼してるの、好き」
「やっぱお前、男の趣味悪りぃな、」
「うん、」
「馬鹿だな」
「バカだよ、」
互いの気持ちを伝えあった二人は仲良くコンビニへと入った。
「…ハルカ、先にメシ選んでて」
「うん?……あ、直樹ゴム買うの?」
「うるせぇな、見るなよ」
先日買った遥の生理用品と同じ棚、長岡はしゃがんでコンドームを選ぶ。
「持ってるんでしょ?」
「…風俗用に買ったやつだから………新品のがいいだろ…」
「誠意?」
「そうだよ……どれがいいと思う?」
これまではコストパフォーマンス重視で選んでいたが薄さにこだわった方がいいのだろうか。
また女性側からするとどうなのか、長岡は素直に指示を仰いだ。
「直樹は長く保つタイプ?」
「…いや…」
「じゃあ厚めなのにしよ、ね」
「ん……下手でも…笑ったりすんなよ」
「しないよ、マナーだよ」
「……メシ選ぼう、俺ももうちょっと食いてぇ」
夕飯とおやつと飲み物と、コンドームを覆う程の食料を買い込んで二人はコンビニを出る。
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