馬鹿でミーハーな女の添い寝フレンドになってしまった俺の話。

茜琉ぴーたん

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 帰宅すると当たり前だが部屋は無人、明かりをつけてシンク下の物入れからストックのカップ麺を取り出す。遥が寄るようになって健康的な食事が増えていたが基本はこれ、吹き出物ができたと思えば野菜を増やしたり風邪をひいたと思えば肉を増やしたりしていた。
 最低限の生活、またここから始めてたまに風俗に行って性欲を発散して…死ぬまでギリギリ生きていられればいい乃だ、ヤカンを火にかけて着替えに入る。
「ハルカ…モテてるかな」
 精液をかけて台無しにしてしまったが今日のメイクは可愛かった。彼的にはすっぴんの方が好みだが自信を持ってキメた遥の顔だって当然魅力的だった。
 馬鹿で寛容な彼女でもさすがに今回の仕打ちは腹立たしく感じただろう。
 長岡は最悪訴訟も念頭に置いてカップ麺のフタを剥がし湯を注ぐ。

「はぁ…」
 座卓の前で腫れた目を閉じて3分待つ、まぶたが重く落ちそうになった時、鍵が鍵穴に挿さる音がしてシリンダーがカチャンと回った。
「……ハルカ?」
「………開けてよ」
チェーンまで掛けていたため開扉できず、数センチ開いた隙間から覗いた目はギンと長岡を睨んでいる。
「悪い…帰って来ねぇかと思って掛けちまった……ん、」
「…帰って来るよ………直樹、話がある。今日のあれ、何のつもり?」
「ん、悪かった…いたずらが過ぎた」
「いたずらぁ?私を困らすためにしたの⁉︎」
 恐い顔だが化粧は元に…ふんわりとした二日酔いメイクとやらに戻っていて、長岡はこんな時でさえ「やっぱ顔は悪くねぇ」と生唾を飲んだ。
「ごめん…目に入ったりしたか?それより合コンは」
「どうでもいいよ‼︎私が聞いてんのは、何で私を置いて帰ったかってこと‼︎」
「は?」
 遥は荷物をドサっと床に下ろし定位置へ座り、座卓へ頬杖をついて片手を振りながら話を続ける。
「トイレから出たら直樹いなくて探しちゃった!あんなに汚しておいて私をひとりにするとか何考えてんの⁉︎捕まりたいの⁉︎」
「いや、怒ってるだろうし…ごめん、逃げた…」
「逃げるくらいなら、最初からあんなことしないでよ‼︎」
「はい、はい…」
 元の位置へ戻り正座する長岡を睨みながら鼻頭をひくつかせながら、遥は
「ったく……合コンは…行ったけど…見覚えある顔が見えたからすぐ帰った、『今日は銀行マンなんですか』って言い捨ててね!」
とオーバーリアクションでそれも言い捨てた。
「は、またケルホイ?」
「そーよ‼︎なんなの?呪われてんの⁉︎なんで私の周りってこんな男ばっかなの⁉︎」
「ぷふ」
「笑ってんじゃないわよ!嘘つき野郎とかヤリ捨て野郎とか…精液ぶっかけて逃げる野郎とか!」
「ウン」
どうにも可笑おかしくて堪らない。
 失うのは惜しいほど可愛い女性なのに変わらず不幸な目に遭ってるのが面白くて…長岡は遥の男運の悪さに笑いが込み上げる。少なくとも一番大切に想っている彼女の不幸さえいまだ蜜の味がする、そんな底意地の悪い男を頼りにしている遥が滑稽こっけいでならない。
「マジさいあく!もう怒った、通報されたくなかったら言うこと聞きなさいよ」
「なによ」
「抱いて、今すぐ」
「いや、だから」
「無理なら私が抱く。私がヤリ捨ててやる」
 遥は合コン用に着替えた薄手のニットを脱いでスカートも下ろす。
 今日の脚はパンティーストッキングではなくニーハイ丈だった。
「なんでだよ…おい、」
「あんた、ひとりで生きていくのに職まで失っていいの?私の証言次第で性犯罪者になるんだよ?」
「いや、勘弁して…」
 重ね着用のキャミソールとショーツとニーハイ、遥はいつでも始められる格好になり
「脱いで、ゴム持ってる?」
かかとでぐりぐりと長岡の股間を踏みつける。
「あるけど…いや、ハルカ、」
「出して、私がやるから。デリヘルとおんなじだよ、」
「プロとお前は違うだろ」
「じゃあいつかあげたお金、あれでチャラでしょう?早く脱いで」
 痺れを切らした遥は正座の上に跨って正面から直視するも、
「…無理、勃たねぇ」
と長岡は情けなく目元を隠した。
「失礼ね…マジ意気地なし、包茎、」
「包茎は関係ねぇだろっ」
「舐めたら勃つ?」
「いや、無理…恐えぇんだもん…責任取れねぇし」
 部屋着のパーカーのファスナーをジジジと下へ引いていく、インナーのキャラクターTシャツにくすりと笑った遥は顔を上げ、そして長岡の目を見てある事に気付く。
「…直樹、泣いたの?」
「!……いや、」
「赤くなってんじゃん…私にあんなことして、罪悪感とかあったの?それとも悲しかった?」
「……いや…」
「ねぇ、なんで泣いたの?」
 温かい指でじんじんうずく瞼を触ればそこだけ熱を帯びていて、恥ずかしそうに目線を合わせない瞳を捕まえて遥は更に尋問にかけた。
「……ハルカに…嫌われたと…思っ…て…」
「ふぅん…ねぇ直樹、私を失うの、嫌でしょう?」  
「…嫌じゃねぇよ…別に…」
「あぁそう、じゃあ通報だね」
「いや、待っ…」
 パーカーのファスナーは裾まで下されて、長岡はされるがままに腕を抜く。
 小さな体は膝の上にちょこんと腰を下ろすと、男のTシャツの胸に頬を寄せた。
 先ほどまでの勢いは少し弱まって大人しくなって、伏し目がちな目元と薄紅色のチークが本当にほろ酔いの時の彼女の表情に見えて…長岡は僅かばかりになる。
「ねぇ直樹、ちゃんと考えて?私のこと…好きじゃない?」
「…一緒に居て情はある、でも好きとか…いや、妹みてぇな…そういう…好き、だよ…」
「ふーん…恋とは違うって言いたいの、まだ分かんないんだ」
遥は肌で感じる盛り上がりを察知して顔を離し、改めて泳ぐ長岡の目を直視して追い詰める。
 これは情欲、恋愛感情のたかぶりじゃないだろう。
 ぴくぴく脈打つ股間から意識を逸らそうと長岡は眉間にシワを寄せ、
「だって……恋って……その、急にドキッて胸が高鳴ったり痛くなったりすんじゃねぇのか」
と自分が思う恋愛の定義を垂れ始めた。
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