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しおりを挟む郊外から田舎の方へ少し走って人気の隠れ家的カフェへランチをしに向かえば、駐車場に待機列がはみ出すほど客が溢れていた。
「……おい、これに並ぶ気か?」
「うん、話しながら待とう」
「え…そうまでしてここのランチが食いてぇの?」
「来てみたかったんだもん。お洒落ランチ♡」
「オシャレで腹が膨れるのかい?」、長岡は遥と列をなす客どもへ言ってやりたかったが雰囲気に負けて諦める。 前後のカップルはキャッキャウフフと歯が浮くような会話を繰り出しては、この待ち時間さえもデートの一環として楽しんでいるようだった。
「(…寒みぃ…来る途中にあったラーメン食いてぇ…まじリア充爆発しろよ…)」
遥を見れば周りの空気に当てられたのか長岡の腕に顔を寄せて手を絡ませてくる始末。
男は「げぇ」と気味の悪さを感じながらも30分は踏ん張る。
そしてやっと席に案内されてメニューを開くも、値段の割に量が少ない写真を見て長岡はがっくりと肩を落とした。
「なぁ、これで腹が…」
「ん?なぁに?」
「……いや……決まったら教えて…」
「うん、迷っちゃうね」
ニコニコとページを前後しながら昼食を選ぶ遥の姿を見ればさすがに無粋なことも言えず…両隣のカップルの女性も同様の仕草を見せていて、長岡は「これが作法なのか?」とレモン風味のお冷やを口にする。
「うん、決めた、これにする」
「ん、すみませーん」
長岡が手を挙げると店員が素早くオーダーを取りに来てくれて、
「これと、これをひとつずつお願いします」
と男はさらりと注文して会釈で返した。
「……直樹って、結構物怖じしないのね」
「お前さ、俺を何だと思ってんの?腐っても社会人よ?」
「うん…あのね、店員さんに横柄な人もいるじゃない?敬語も使えないような人。そんなんじゃないのね」
「普段どんな男と付き合ってんだよ……それくらいの躾は受けてるわ」
「そう…」
当たり前だけどできない人もいる挨拶やマナー。二人きりだと文句ばかりなのに人前ではキチンとしてくれる、遥は長岡の対外スキルに心を揺さぶられる。
「…高いスーツ着ていい車乗っててもさ、そういうところに人柄って出るだろ。俺らみたいに…手ぇ汚して仕事してる人間にさ、理不尽に偉そうに言ってくる客とか見ると…つくづく金じゃねぇなって思うよ」
「うん…」
「お前は玉の輿希望だもんな、頑張って少しでも好条件の男を見つけろや」
「……うん」
5分ほどすると注文したランチが運ばれてきて、鮮やかな蒸し野菜や五穀米、豆のスープとグリルチキンが載ったプレートが遥の前へ置かれた。
長岡のプレートはチキンではなく小さなコロッケが2つで、置かれれば彼はコロッケを指して
「要るか?」
と遥へ伺いを立てる。
「え、いいの?」
「いいよ、チキン半分寄越せよ」
「うん……ふふ、カップルみたいね」
「今だけな」
二人はおかずを交換してゆっくりと食後のコーヒーまで楽しんだ。
「ん…ゆっくり食うと満腹になるもんだな」
「本当ね、デザートは3時にしよっか」
「ん…伝票貸して。トイレ済ませとけよ」
「ハイ、大丈夫」
長岡は勘定書を持ってレジへと向かう。
この日の朝、遥は銀行の封筒を長岡に差し出して
「はいコレ、今日のデート資金と直樹のお手当ね」
と伝えていた。
中身は万札が5枚、長岡は確認して絶句したものの有り難く財布へと収める。
「ディナーは2万くらいそこから飛ぶからね。直樹の日当が1万円くらいかな、だから残りの1万円でランチとおやつね、よろしくぅ」
「あとの1万は?」
「ガソリン代とか…迷惑料的なやつよ」
「あぁそう」
ならば安い昼飯と観光でもしてデート代を浮かせるか、長岡はルートを考え始めるものの、
「ランチは決めてあるから。大人気の映えるところ、あとねぇ、」
と丸々遥の方でプランは練ってあった。
面倒なことだと思ったが金を受け取ってしまったので仕方ない、人生に一度はこんなクリスマスも悪くないだろうと長岡は覚悟を決める。
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