馬鹿でミーハーな女の添い寝フレンドになってしまった俺の話。

茜琉ぴーたん

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 ショッピングモールに着いたら遥はあちこちと歩き回り、長岡は後を追いながら次第にげんなりとしていく。


「うーん…あんまりかな…よし、あっちの店も見てみよ」

「え…こんだけ悩んだのに買わねぇの…?今までのは何の時間だったんだよ…」

 クリスマスセールでは冬服がかなり値引きされていて、しかし質とデザインを吟味する遥は洋服を手に取っては「うーん」と棚に返すのを繰り返していた。

「悩むための時間だよ、ほらあっち、」

「買わねぇなら見るなよ…」

「見て悩んで選ぶのが楽しいんじゃん。ね、」

 着たい服がある程度定まっている長岡は店頭でそれほど悩んだりしないしなんならネットで買うこともしばしば、遥のように服の選定自体を楽しむなんて頭がはなから無いのだ。


 ジャケットの袖を引いて次へ次へと店を回り、結局遥は最初に入った店まで戻って

「これにする、直樹、これ買って♡」

とニットを手に取り無邪気に笑った。

「お前…あんだけ回ったのは何だったんだよ…」

「色々見た上でのこれだもん」

「はぁ……これが、へぇ、」

 なんてことないボトルネックのセーター、編み模様も色も普遍的で流行に左右されずいつでも着られるような…今日でなくても買えるように長岡には感じられる。

 しかし選び直されても困るのでレジへ向かい、カフェ同様に長岡の財布から数千円が旅立って行った。


「ふふ♡」

 ショッパーを胸に抱く遥は新しい洋服を得たことと恋人に買ってもらったという満足感で足取りも軽やかになり、

「直樹、ありがと♡」

と微笑むと長岡も満更でもない様子で

「どういたしまして」

と返す。

 何もかも仮初かりそめだというのにこんなにはしゃいで不憫ふびんな奴。

 そうは思いながらも男は3時のコーヒーを求めて彼女を伴いモール内のカフェへと歩いた。


「どう?リア充デート」

 カフェの期間限定ラテで白い口髭を作った遥がそう問えば、

「ん?んー…時間の無駄が多いな…並んだりウロウロしたり」

とシンプルなブレンドを飲む長岡はすっぱり斬る。

「それが楽しいんじゃん」

「まぁそうなんだろうけど…」

「回転速いご飯屋で食べて服もちゃっちゃと買って、余った時間はどうすんの?」

「……映画とか?」

「それもいいけど、そういうのはひとりの時にするからいいの。彼氏と一緒の時は無駄な時間を過ごしたいの」

 まつげを伏して唇の上をペロリと舐め上げる、最終的に指で白い泡を拭き取った遥の仕草は案外にさっぱりしていた。

「はぁ…まぁ時給があるから好きにしろよ」

「うん。この後はジュエリーと下着とバッグね」

「…全部買うのか?」

「ううん、見るだけ。付き合ってね」

「げー」

買うならまだしもまた無駄な時間…それなりに場に合わせたたたずまいをと配慮する長岡は凝った肩をぐりぐりと拳で押す。

 見渡す限り席を埋め尽くすのはクリスマスの空気に浮かれるカップルたち、そして自分もぱっと見は遥と恋人に見えるのか、そんなの何とも思わない。

 けれどBGMのせいか飾り付けと雰囲気のせいか、長岡も妙に高揚してしまった。
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