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しおりを挟む「ほーんと、くたくたのシャツと破れたジーパンだけって…ダサいのね」
「…ビンテージもある…結構値段すんだぞ…」
クリスマスを目前に控えた平日の昼間。遥企画のデートはいつも通り色気の無い会話から始まっていた。
「ジャケットの1着も持ってないとか…マジモテないわ」
「着ねぇもんを持ってたって…いや、スーツは持ってるわ」
「あれ礼服でしょ、秋花ちゃんばりのセンスね」
彼らの同僚・守谷秋花も確かに「デートに何を着て行けばいいか分からない」とヘルプコールをしてきたことがあった。彼女も冠婚葬祭用しかスカートを所持していなかったのだ。
「あー……守谷は…順調なんだろうな、車崎さんと同棲も始めたし…アイツ気さくでいいヤツだよな、うまくいきそう」
「直樹、デートなんだから他の女の子のこと褒めないでよ」
運転席の長岡へ遥がそう言い頬を膨らませると、
「ハァ?そこまで厳密にやんの?」
と男は涙袋をひくつかせる。
「そりゃそうだよ…あ、でもね、秋花ちゃんも結構乙女なんだよ、下着とかピンクなの。萌えるよね♡」
「お前さぁ……守谷が俺らの更衣室で着替えてんの知ってんだろ?想像しちまうぞ」
整備士の紅一点である秋花は「臭い」などと事務のお局に意地悪を言われて女子更衣室に居づらくなり、代わりに男子更衣室の端に専用スペースを作ってもらっているのだ。男子のロッカーを並べて壁としているため、彼女が着替えている時は隣接するロッカーの男性陣はそれなりに緊張するらしい。
「あ、ダメよ、秋花ちゃんは車崎さんのものー」
「じゃあ言うなって………………ピンクか…」
ボーイッシュな印象の同僚も中身はそうなのか、長岡は特に意識したわけでもないのだがやはり脳内で合成してしまった。
本日のテーマは遥曰く『リア充デート』で、長岡の車はとりあえず市内のお洒落なカフェを目指して走っている。
「さぞかし頭の沸いたシャレオツなカップルで溢れてんだろうなぁ…」
「私たちもオシャレだよ、直樹、シュッとしてカッコいいよ」
「煽てんなよ」
昨夜から泊まり込んだ遥は朝イチでまず長岡のスタイリングを始め、くりくりの髪をヘアワックスでふんわりと盛り上げた。普段は帽子で潰しているが前髪を少し後ろへ流せば綺麗な額の形をしていて、眉も整えれば洗練された若者の顔になる。
洋服は自前のシャツに遥が買ってきたテーラードジャケットにチェスターコート、下はチノパンを合わせて狙い通りのきれい目カジュアルな男子に誂えた。
「素材がいいんだよ、服じゃなくてね、直樹の。顔も整ってるし背も高いし…リーズナブルな服だけど高見えするね、良かった♡」
「え、なんか下心でもあんの?俺を煽てて何か得があんのか?」
「別にぃ、並んで歩くならカッコいいほうがいいじゃん」
「まぁ、そうか…」
正直着飾ったりするのは好きではないが今日の服は体型に合ってると思う。長岡も満更でもない様子ではにかむ。
ちなみにこれだけ服を揃えればさすがに高すぎると長岡は恐縮してしまったが、3点でも1万円を切っていると聞いたので遠慮なくいただくことにした。
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