先生、マグロは好きですか？

先生、マグロは好きですか？2017

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　兵庫県某所の家電量販店ムラタの、棚卸しお疲れ会兼ハロウィンパーティーが行われた10月から遡ること２年、2017年のお話。


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　家電量販店ムラタにおいて管理職の肩書を冠する者は多数あれど、『所長』の肩書を有する者は法人事業部の長ただひとり。

　顧客は民間企業から市役所等の官公庁まで幅広く、売上額もピンキリだ。

　ホテル会社が新館をオープンした時は部屋数分の家電の受注が舞い込むし、反対にインク１つからでも配達に伺って御用聞きをする。


　手練れの嘱託や中途の年配の社員割合が高いが、ここ本店においてその所長職に就くのは9年目・28歳の清里きよさと潤じゅんである。

　身長は167センチ、法人担当は店内でも制服ではなくスーツを着用しているため、スレンダーな体型が際立って美しい。

　改めて言及しておくと、清里は女性だ。

　トップにボリュームを持たせたワンレンのショートヘアーをセンターで分けて、横顔ではその前髪が邪魔をして見えないがキリッとした二重の目元と右の目尻下にある泣き黒子が色っぽい。

　出身は北海道で数回の転勤があり今の店舗へ配属され、転勤してきて２ヶ月目に前所長の転勤が決まった。

　その際に部内で唯一の正社員だった潤が新所長に任命されたという訳だ。

　２回り以上年上の、潤からみれば父親くらいの年長者を束ねなければならず、それも本人志願や推薦ならまだしも消去法。

　しばしば「やり辛い」と同僚にこぼしている。

　オジサマ達は良くも悪くも自主性が強いので、個別でサクサクと受注を取ってくるが本部の指針は聞きゃしない。

　所長は外回りもなくカウンターに常駐、そして会議&会議である。

　手当が増える分は有り難いが、率先して引き受けたい仕事量ではなかった。
　

　そして管理職ではないが、敬称を受ける者がひとり…パソコン教室の講師はスタッフから『先生』と呼ばれている。

　法人カウンターの隣にはほとんどの社員が関わることのない未知の空間、外部委託の業者が仕切るパソコン教室がある。

　壁沿いに細長い8畳分ほどの部屋にはパソコンが4台、月額制と講座別料金で、高齢者をはじめとした常連生徒がポツポツと通っている。

　売り場への相談のうち、ソフトの使い方や文書作成方法など、営業担当の範囲外の作業にはこの教室を紹介するのだ。

　正直繁盛はしていないが、売り場の負担を分散すること・新たな購買を生むこと・地域連携なども目的としているので、現状で大丈夫と言えば大丈夫らしかった。


　そのスクールの講師、古賀こが飛鳥あすかはスクールの存在以上に未知の存在である。

　ウェーブかかったミディアムロングの髪を低い位置でゆるく纏め、身長は175センチくらいの痩せ型、服装は常に長袖でスリムなパンツスタイルが多い。

　そして季節を問わずマスクをして目元しか見えず、彫りが深そうで瞳の色素が薄く、声は澄んだ男声、ともすればしゃがれた女声にも聞こえる。

　骨格からすると男性なのだが、ひとつひとつの所作がしなやかで女性的なので、トランスジェンダーの男性かなと周辺のスタッフは感じることもあった。

　態々言及して他社との要らぬ諍いを起こす理由もないし、クレームや実害があるわけでもないので、誰もその事には触れない。

　なんせ離れた売り場のスタッフは、露出の少ない飛鳥の存在すら知らないとくるのだから。