俺はこの顔で愛を釣る

あかね

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10・悠一side・変態で堪忍よ*

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「デザート、どれにします?これ食べて帰りましょう」

「うん。俺はこっち」

「はい、送信っと…」

肝の据わった子だな、キスをされて胸を触られて体を求められ幼女趣味を告白されてもなお俺と食事を続けてくれるなんて。

 もしかして変な子なのかな、俺は迫っておいて彼女の地雷臭に少々怯えた。

 しかし互いに身元は知れてるしこちらは親の顔だって住所だって知っている。

 下手なことはしないだろうし最悪そうでも1回くらい味見してみたい、そう思い俺は珍しく自分からアプローチする。

香澄かすみちゃんさぁ、マジで俺…タイプやから。彼氏とかおれへんやろ?俺と付き合わへん?」

「いえ、セフレを沢山お持ちの方とは人間の根本の部分が相容れないです」

「はぁ…そう」

沢山と言ってもマッチングアプリ経由で遊んだ女は3人だけだ。

 その内ひとりはワンナイトだけだったしもうひとりは大阪で追っかけすると音信不通になったし、残りのひとりは俺の個人情報を探ろうとしたので連絡を絶った。

 香澄ちゃんは俺を相当な遊び人と思っているのだからイメージ通り振る舞ってやろうかな、その先に何があるかなんて考えても仕方ないし外見がタイプ過ぎるし。

 そしてそれは彼女からしても同じことだろう。

 俺の見た目に惹かれてカッコいいだのなんだのこちらをその気にさせたのだ。

 正確にはそれをバラしたのは彼女の親父さんだが…俺はまだ少し被害者の心理で揺さぶってみることにした。

「どうしたら俺の人柄が分かってもらえるやろか」

「分からなくていいです…ナリさんと同じなんでしょう?」

「ネタしか知らんくせに…ふん、ほなええよ、グッズ代貰うてサイナラしよか」

「…だから、不要な分はお返ししますから…っと…」


 カーテンが開いて期間限定のさくらチョコレートパフェとレギュラーメニューの抹茶パフェがテーブルに置かれて、香澄ちゃんは仏頂面からじわじわ乙女の顔になりはにかんで、いそいそスマートフォンで撮影してからスプーンを握る。

 不機嫌だったのに映えは気にするのかと女子らしいというか浅い感じが窺えて、俺もニタニタ笑ってスプーンで真ん中のアイスクリームを削った。

「美味い?」

「…美味しい…です…」

「えかったねぇ」

「……成田さんって…なんなんですか」

「成田さんやがな」

 これは甘味に救われたかな、美味しいものを食べながらだと怒気はそこまで続かないようだ。

 香澄ちゃんはピンクのチョコレートソースのかかったアイスクリームを崩して口へ運んでは微笑んだり目線を泳がせたりとせわしない。

 少なくともがっついて片付けて飛び出したりする気は無いようだ。

 まぁ奢ると宣言したここの勘定が挟んである伝票バインダーは俺の足元だし、落ち着いて俺を懐柔しようと考えてくれているならそれも良いだろう。

「…変な…軟派な人だと思うてるんですけど…職場での雰囲気と違い過ぎて…混乱してます」

「そらぁ仕事中はキャラ隠してるもんよ」

「……変なの」

「どっちがええ?」

「は………私は…仕事中の成田さんがカッコいいと思いました…」

「そう」

カッコいいことは決定事項なのだ、少なくとも彼女は俺のビジュアルには好意を抱いている。

 他で評価を落とそうともその事実があれば俺は満足だ。



「香澄チャン」

 見た目が好み同士で仲良くしようじゃないか、桜色の白玉を彼女が口へ入れたのを見計らい顔を覗き込み…きな粉の付いた口でキスをした。

「ンっ」

「(白玉ちょうだいな、香澄ちゃん…ほれ、)」

「やッ…ム、」

「ん、んふ」

奪取した白玉団子は味までは桜ではなかったようで、彼女の口内で温まった唾液味というかほんのりチョコレート味。

 俺は2回噛んですぐ喉へ落とす。

「な、なに…」

「お代を貰うてるだけやって、グッズの」

「だから、現金で…」

「レアやん、ほんまにオークション出したらどないな金額になるやろか」

「……」


 既に譲渡しているのだからこれは恐喝とか強請ゆすたかりなのに彼女は不安そうに眉尻を下げて悲しい顔になっていた。

 俺は申し訳ないなぁと毛ほどは思うので細い背中を摩って冷えた身体を温めにかかった。

 肌触りの良いカーディガンの下は春らしい小花柄のブラウス、さっき手を入れたから裾はスカートのウエストからぺろんとはみ出していて、これも直さないことには外に出られないだろう。

「なぁ、香澄チャン♡お兄さんと遊ばへん?」

「嫌です…他の幼女を当たってください」

「幼女は犯罪やん」

「少女でも成人相手でも無理やりは犯罪です」

「あぁそう…堪忍よ、変態で」

 顔を傾けて弟の様に笑う、元々俺の癖でもあるのだがやはり萌えるのだろうか香澄ちゃんは「ぐぬぬ」と悔しそうに目線を逸らした。



 そうこうしているうちにパフェを食べ切って、俺は伝票を持ち先に勘定口へと進む。

 彼女は「え、待って」と声を出していたが、ブーティーのファスナーが上手く閉まらず立つことができなかった。

 そんなことも見越していた俺はまとめて会計してもらい…さらなる金銭的な借りを作ってしまった彼女は絶望的な顔で店員に見送られる。


「…あの、成田さん…ここは私が出すって」

「せやったっけー?ふふ…ほな次のデートで補填して貰おかな」

「そんなこと言って…同じこと繰り返すんじゃ…」

「まぁそうなるやろね、女の子に食事代なんか払わされへん」

「……なんなんですかぁ…」

 変な人に捕まってしまった、しかし忌々しく俺を睨むその目は迫力に欠ける。

 どんぐりみたいな丸っこい目、黒目がちでつぶらな瞳、ちょっと眉をしかめたところで恐さなど感じるはずが無い。


 むしろジト目が可愛いな、駐車場へ出て最後にもう一発いっとくかと頬に手を添えたら、彼女は体重を乗せたボディーブローを見事俺の鳩尾みぞおちへヒットさせた。
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