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11・香澄side・見た目好みマッチング
しおりを挟む「ぐへっ⁉︎……いッでェ!」
「……」
格闘技なんて習ったことはない。
でも哀しいかな変質者に遭うことは結構あって、護身術モドキみたいなことは前々から勉強はしていた。
移動は車がほとんどだし夜道を歩くなんてことも無いし、どうしても体格の良い男性と対面すればビビってしまい体が竦んでしまうのだろうと思っていたが…案外簡単に腹を殴ることができて私は驚いている。
「香澄ちゃん…ひでぇ…」
「あ、あんまり人のこと馬鹿にするから…」
「おえ……イッテ…血ぃ出たやん」
「え⁉︎うそ、ごめんなさ」
「嘘や」
仏心を出したのは私の心根の弱さというかむしろ育ちの良さとでも言おうか。
車の陰にしゃがみ込んだ成田さんは、私の顔が近付くと食虫植物のように身体を絡め取りきつく抱き締めた。
「あ」
「暴行も追加やな…マジで責任とってくれや」
「私のは正当防衛です、体に触ろうとした成田さんが悪いんです」
「挨拶やんか、サヨナラの」
「やめて下さい…グッズも返します」
隣に停めた私の車を開錠しようとするも彼は離してくれなくて、すんすんと首筋の匂いを嗅いでいるのか鼻先がちょんちょんと当たってはぞくぞくと背筋に快感の波が走る。
「感じてんの?」
「違う、くすぐったいんです…あの、お世話になった方を前科者にしたないので…離して下さい」
「ぶはっ!おもろいこと言うなぁ…あぁそう、俺の身を案じてくれてんのか…そりゃどうも」
「……」
正直、全く、完全に、100パーセント嫌かと聞かれればそうでもない。
なんせ顔が好みでグイグイ来るオレ様系、しかも私の顔が好みと言ってくれるのだから実質両想いみたいなものだ。
しかしてビジュアルが好みとされるとそれを失った時にその想いはどうなるのか。
自分のことは棚に上げておくが、私が年老いたら冷たくされるんじゃないかとか考えると簡単に誘いに乗る訳にはいかなかった。
しかもこんなに易々と手を出すのだから相当慣れているのだろう。
絶賛処女街道まっしぐらな私には手に余るし満足させてあげられそうにない。
「あの、なんか…好意を持っていただけるのはありがたいんですけど、こうもグイグイ来られると嫌な感じします」
「そう?身持ち硬いね」
「……か、彼氏居たこと無いんで…」
「あれ…そう♡」
成田さんは今日イチの笑みを見せてくれて、それは推しのナリにも見たことのない表情で。
涙袋がぷっくり浮いて目尻が下がって、でもすぐに片目が歪んで意地悪そうな顔になる。
「なのでその…揶揄うんやめて下さい、本気にしてまいます」
「本気にしてぇな、好みや言うてるやん」
「こ、好み好みって…外見の好みだけで好かれても嬉しないんですよ、私を見てくれな…意味無いです!」
ちょっと青臭いセリフだったけどそれが本心、これこそ笑われるかと思ったが成田さんは表情を失い黙り込んだ。
「(…私も成田さんにナリを見てる感はあるけど…)」
「…香澄ちゃんさぁ、」
「ハイ」
「中身知ったら…付き合うてくれる?」
「ハ?」
もうあなたの本性は知れてますけど、まだ隠し球があるのかな、キョドっていると成田さんはゆらりと立ち上がり追って立つ私を見下ろす。
「俺の外見は好みやんな?」
「まぁ、はい」
「そのアドバンテージはあんねん、それと性格やんな」
どんなに聖人でもロリコンが出た時点でマイナスなんですけどね、しかし見た目故に自分を好いてくれるのならば互いの趣向はこれ以上なくマッチしているということだ。
「はぁ」
「マジでさぁ…付き合わへん?ナリがどうとか関係あれへん、欲しいならサインくらいは貰うたるけど」
「いえ、そういうのは要らないです」
「なぁ…香澄ちゃん。これもひとつの出逢いやろ」
「ソウデスケド」
『出逢いは家電量販店、お互いビビッと来た二人は惹かれあって連絡をとるうちに仲良くなって…?』とドラマのあらすじならこんな感じだろうか。
飛び抜けて美人とかでもない自分の外見がこれほど好みだと言ってくれる存在はなかなか稀有、多少の性格の相違にも目をつぶってくれそうな期待もある。
「もうキスしてもうてるし乳首も触ってもうたし」
「それが問題でして」
「…香澄ちゃん、普通なぁ、普通の女の子は、キスされた時点で張り倒して帰ってんねん。最悪通報よ、それを悠長にこない駄弁ってさ、危機感もそないあれへんねやろ?合うてるよ、俺ら」
「………そんなそんな」
確かにそうなのだ、唇を奪われるばかりかボディータッチを許してしまっているこの不思議な関係性。
まるで夫婦漫才の如くつらつら重なる言葉の応酬、これが相性なのか、それとも。
「香澄ちゃん、割と本気で…考えてくれへん?」
「へ、あの、」
「好みやねん」
「好みと好きは違うでしょう」
「好きになりたいからや、色んな香澄ちゃんを見してよ」
「んー…」
「もっぺんキスすんで、嫌なら本気で逃げや」
「え、あ、」
ずんずん近付いてくるもはや見慣れた顔、あぁやっぱり好みだし垂涎ものに心が躍る。
しかし女遊びのメンバーのひとりになんて成り下がりたくない、私は後ずさりして自分の車を開錠した。
そして素早く運転席へ乗り込むとロックをかけてエンジンを起動させる。
「あの、今回の話は無かったことに!さようなら!」
轢かないようにソロソロと発車して車道へと出て、だくだくと高鳴る心臓の鼓動を感じつつ私は自宅へと急いだ。
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