嫁が可愛いので今夜は寝ない

２月・嫁が可愛いので激務も乗り越えられる

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「ミラ、怒ってへん、落ち着け、」

「ごめん、なんやろ…は…あ、」

「オレや、息吸って、吐いて、」

自分を見る妻の目が怯えて涙で濡れている、守谷もりやは努めてゆっくりと話し深呼吸させる。

「なんぼか訂正したいよ、ミラ。勉強ばっかで話せてへんのは悪かった。焦ることはないんやけど、どうしても…新しいことできんのが楽しうてな…ワクワクしててん…すまん」

「う、ん…知らん事吸収するんは楽しいよな、ハルくんは向上心あるから…」

「それから…生理が遅れてたんは…言わな分からん。何べんもぬか喜びしてショックやったろうけど、カレンダーか何かに予定を書いてくれ、しやないともう覚えられん、すまん」

「うん…それもそやね」

「あと…『残念やな』言うたんはそういうことちゃう。その…妊娠とちゃうかったんは残念やなって…いや、言葉が足らへんかった。すまん…」

「うん…早とちりしてしもうて…ごめんなさい…」

「あとは…何やった、あ、養ってるからって毎晩抱くんは当たり前とちゃうからな！お前の父ちゃんが異常やねん、そんな奴隷みたいなことさせたないから。分かるやろ、」

もう守谷はオブラートに包みもしなくなった。

「うん…」

「いや、ミラちゃんなら毎晩抱けるけどな、うん…申し訳ないとか言うなって…エッチは事務作業とちゃう、好きで夫婦になってんから…はー…またイチから教えなあかんか…？」

　ハンドルに突っ伏してため息を吐く夫に、未来みらいはますます恐縮してしょんぼりとしてしまう。

「ごめんなさい…なんか…不安定で…普段思わへんこともごちゃごちゃ悲観的に考えてもうて…いろいろ…」

「もうええて…そんだけか？この際やから全部言うてまえや」

　伏したまま手の先で「来い来い」とジェスチャーするので、未来は

「んー………ええの？」

と応えたのだが夫には予想外だったらしい。

「あんの？ええよ、言うて」

守谷はがばと起き上がってぐぬぬと口を横に縛り、それなりの覚悟をしたようだった。

「んー、仕事と言えども朝帰りはやっぱり不愉快やったわ」

「すまん、でも朝とはちゃう」

「女性を家まで送るんも不愉快やな」

「こっちの土地勘無い言うから…タクシーやと金かかるし……一応女性やから…独身の和田わだに送らせるんは危険か思うて…」

　次第にトーンダウンする夫を、未来は吹き出すのを堪えながら眺めて次なる攻撃材料を探す。

「ナナさんのことちゃん付けで呼ぶんも不愉快やった」

「え、あかん？『おがさわら』って長いし…いや、」

「意識せぇへんやろうけど、嫁としては嫌やで。他の人が自分と同じようにちゃん付けされてんのは…まぁ、うちも仲良うなったから許すけど。ナナさんに関しては、やで。うちが知らん女の人をちゃん付けで呼ぶんはあかん」

「はい、仰せのままに」

確かに嫁が自分以外の男に「ミラちゃん」と呼ばれるのは気分が良くない…自分の身に置き換えてやっと分かる嫁のモヤモヤに、守谷は真摯に向き合う。


「…出世しても…変わらんとってほしい」

「え…オレ、変わった？」

「ギラギラしてんねん…野心に溢れてる感じ…それもカッコええけど…乱暴になったりキレたりせんとってほしい」

父のように、と付け足さなくても分かるだろうから未来は敢えて口には出さなかった。

「ならへんって…」

「エ、エッチの時は乱暴やんか…」

「あれも乱暴に入んの？ごっこやんか…悦んでるくせに…」

　組んだ腕をハンドルに置いたままニマーと意地悪そうに笑う夫の顔が好みで、未来は

「あほぉ……始めにチューしてくれるから…平気やねん…」

と顔を背けながら吐き捨てる。

「ん…さよか……帰ろか……ミラちゃん」

「うん、ハルくん」

　明日は週末掻き入れ時、仕事に支障が出てはいけないので一時休戦、走行車線へ戻って帰宅することにした。


　砂利を踏み鳴らしても母は気づかなかったのでセーフ、二人は勝手口から家へ入りコソ泥のように寝室へ急ぐ。

　ベッドでは手を繋いで体温と互いの存在を感じ合い、何度も何度もキスをして眠りについた。