どこまでも玩具

片桐瑠衣

文字の大きさ
上 下
163 / 206
立たされた境地

12

しおりを挟む

 翌日、篠田が言った。
「保健の類沢先生が暫く休暇をとりました。具合悪くなったら職員室に来てください。代わりの先生は来週から来ます」
 すぐに廊下に飛び出し、篠田を追った。
 ガッと肩を掴む。
「類沢っ先生、どこに行ったんすか!」
 まだ、廊下に生徒はいない。
 篠田は真剣な顔をした。
「……お前が当事者だと思っていたがな。類沢に裁判所から呼び出しがかかったんだ。このまま免許剥奪もありうると校長は言っていた」
「は……はあ?」
 俺は息が上手く出来なかった。
 篠田が去っていく。
 待て。
 待てよ。
 あんたも当事者だろっ。
 そう叫びたくなる。
 嘘だろ。
 世界においていかれてる。
 俺だけ。
 あの男のせいか。
 西のせいか。
 もう一度篠田を止める。
「なんの裁判なんですかっ」
「知らないんだ、誰も」
「先生……辞めるの?」
 小声で尋ねた俺を笑う。
「良かったじゃないか」
 思考が止まる。
「望んでいたことだろう?」
 息が、出来ない。
「瑞希!」
「どした?」
 金原とアカが走って来た。
 篠田は俺の頭をポンと叩いて職員室に入って行ってしまった。
 残された。
 ふざけんな。
 あんたは説明していけよ。
 視線が定まらない。
「みぃずき、なにがあった?」
「また篠田に因縁つけられたのか」
 二人が顔を覗く。
 あぁ、表情が作れない。
 二人が強張る。
 動けない俺を引っ張って、部室に連れていく。
 授業は自習。
 サボってもバレない。
 でも、そんなことどうでもいい。

 バタン。
 部室の扉が閉まる音にハッとする。
 金原が肩を揺さぶっていた。
「どうしたんだよ!」
「あ……」
 アカは椅子に座って笑った。
「喜ぶことじゃん、みぃずき」
「喜ぶ?」
「類沢がいなくなるんだよ? これでみぃずきの願いは叶うんだ」
 願い? 
 俺の願いなの?
 類沢がいなくなんのが、俺の願い?
 金原がアカを睨む。
「やっとだよ! 受験にだって集中できるんだしさ」
「ちょっと黙れ、アカ」
しおりを挟む

処理中です...