どこまでも玩具

片桐瑠衣

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立たされた境地

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 ベッドに寝転がる。
 そういえば、なんで類沢は今日に限って放課後来なかったんだろう。
 来れば良かったのに。
 そしたら、西に会わずに済んだ。
 あれ。
 会いたくなかった?
 ああ。
 会いたくはなかった。
 あんなこと聞くつもりは無かった。
 類沢を訴える?
 馬鹿みたいな話。
「……訴える?」
 俺は天井からタンスに目を移した。
 それから、いつかのビニール袋に。
 見たくない玩具が詰まった袋に。
 俺は、類沢を訴えたかったんじゃなかったっけ。
 許さないって。
 保健室ってワードすら拒絶反応出てさ。
「そうだよ」
 体を起こす。
 嬉しいことじゃん。
 西と一緒に裁判に出る。
 証拠はそろえてるって云ってた。
 絶対有罪じゃん。
 これで、二度と……
「……顔見なくて済む」
 ボフン。
 布団にうずくまる。
 違う。
 ギュッと握る。
 違うよ。
 そんなの望んでない。
 つい前までは嫌だったのに。
 篠田もろとも殺してやりたかったのに。
 離れたくない。
 二度と会えないなんて最悪だ。
 類沢の声が脳裏を侵す。
―馬鹿だね―
 本当に酷い男。
 酷い男だ。
 訴えたくなる男。
 なのに……
 ミシ。
 ベッドが軋む。
 俺は布団を抱えて転がった。
「なんで来なかったんだよ」
 記憶の中の類沢を睨む。
 原因は一つしかない。
 西雅樹。
 なぁ。
 あんたにとって、西雅樹はなんだ。
 そんなに気にする存在か。
 それとも、俺みたいに、玩具としか思ってないのか。
 訊きたい。
 聞きたい。
 知りたい。
「くそっ」
 枕を壁に投げる。
 バウンドして転がった。
 冷気が体を撫でる。
 もう、深夜だ。
 寒い。

 ストーブを求めて一階に降りる。
 簡易タイプを手にした時、テーブルに目が止まった。
―手伝わせてくれないかな―
 類沢が手料理を作ってくれたあの日が蘇る。
 呼び止めたんだよな。
 行って欲しくなくて。
 そばにいて欲しくて。
 一人が怖くて。
 類沢先生、訪ねて来てよ。
 来てよ、今すぐ。
 あの日みたいにさ。
 今度は素直に入れるから。
 ストーブの重みが手にかかる。
 今にもチャイムが鳴る気がして。
 裸足が冷たくなるまで玄関を見ていた。
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