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一章 大川

第20話 外伝 壊れた世界の日常②

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「...ダルい」

 2人の死体を処理しながら、少女は反省していた。少女の性格はかなり内向的であり、積極的に人間を襲うようなタイプではない。それでも命を懸けなければいけない場面では別だ。そんな時、少女は頭の中のスイッチを意図的に切り替えるようにしている。殺すか、殺さないか。その2つに選択を絞る事によって、少女はここまで生き延びて来たのだ。

 少女の本音を言えば、正直死体の処理などしたくはない。だがしかし、これを放置すると大量のゾンビがこの家に集まってくる危険がある。奴らは血の匂いに敏感なのだ。

 そして、2人の死体を片付けている最中に、少女は別の不安に襲われていた。そうだ。食料が残り少ないのだ。ペットボトルに入った水が数個と、缶詰が1週間分程度。これでは全然足りない。

「...そういえば、あの女の人のバッグがあるはず」

 返り血が付着したバッグの中をガサゴソと漁ると、食料を発見した。

「缶詰3つに、バナナが1つ」

 確かに食料は増えた。これ自体は喜ばしい事だ。だが持って数日分の食料。不安の種を払拭する事はできなかった。こうなると、本格的に食料を調達しなければヤバいと、少女は外出する覚悟を決めた。

 家の外の安全を確認し、倉庫に隠しておいた軽自動車に乗り込む。後ろのスペースが広いタイプの普通の車だ。車の調達自体はそんなに難しい事じゃない。道路の端や民家などを探せばいくらでも転がっている。鍵を回し、エンジンを始動させる。目的地に向かって少女は車を走らせた。


 目的地のコンビニに到着する。車を駐車し、店に近づいた。

「...バイク?」

 店のすぐそばに、大型のバイクが停車していた。車体は全体的に緑色で、かなりの大きさだ。それと、サイド部分に大小様々なバッグが装備されている。

(...誰かが先にコンビニを漁っているとか?)

 一度車に戻り、念の為に持ってきていた拳銃と山刀を装備する。少女は不安を押し殺しながら店内へと入った。足音をなるべく消しながら店内に進むと、やはり先客がいた。そこそこ大きな身長をした、20歳くらいの青年だ。少女は銃を両手にしっかりと構えながら、警告をする。

「動かないで!!」

「......」

 青年の頭が、ゆっくりとこちらに振り向いた。

「...止めとけ。撃ったら大変な事になるぞ」

 青年がそう発言した。銃を向けられているというのに、少しも焦っているようには見えない。非常に落ち着いた反応だ。そして、青年の濁った目がこちらをじっと観察している事に少女は気が付いた。少女は本能的に目の前の青年の危険性を認識した。この男は何かがおかしい。...殺られる前に、殺らなければいけない。少女は覚悟を決めた。

「っ!!」

 青年の足を狙い、拳銃を発砲する。だがしかし、確実に当たるはずだった銃弾を、その青年は恐るべき速さで躱した。

「え!?」

 驚愕の言葉が少女の口から洩れる。早い。あまりにも早すぎる動きだ。少女が引き金を引く前には、青年は行動していたのだ。

「...ふぅ。___50%解放」

 青年が何事かを口にした後、カウンターから天井へと跳躍し、壁に張り付いた。青年の想像を超えた人外の如き動きに、少女の思考は追いつかなくなっていた。

「...夢?」

 あまりにも非現実な光景に、彼女の脳は早速逃避を始めていた。それを何とか振り払い、少女は必死に現実を認識しようとした。拳銃による初弾を避けられたのだ。今度はこちらの命が危ない。

「おらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 青年を壁を蹴り、恐ろしい速度でこちらに向かって来る。その異様な光景が原因で、少女が持つ銃の狙いはなかなか定まらない。だがそれでも、かろうじて少女の体は反応する事に成功した。

「...っ!!」

 パァン!パァン!パァン!パァン!と、乾いた音が4回連続で響き渡る。装填していた弾薬を全弾発射したのだ。だが、そのどれもがまったく当たらなかった。少女の銃を撃つセンスはけっして悪くはない。だがそれでも、青年の動きが早すぎるのだ。俊敏な猫のような動きで四方の壁を蹴り、高速で移動をしている。明らかに人間の限界を超えた動きだ。

「い、意味が分からない!!」

「ふっ!!」

「きゃあ!?」

 体の右側に強力な衝撃を感じ、少女は商品棚まで吹っ飛ばされる。あまりにも暴力的な一撃だ。意識が一瞬で飛びそうになる。

「...やっべえなこれ。ほんとにスーパーマンにでもなった気分だぜ」

「...ぐぅ」

 体がフラフラと揺れて、目の前の光景が白くチカチカしている。少女の意識と肉体は限界のサインを出し続けていた。

「まあ、自業自得ってやつだな」

 青年のその声を聞いた後、少女はそのまま意識を失った。
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