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一章 大川

第9話

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「おう。まあお互い何とか無事だったようだな。ほれ。こいつをやるよ」

「...これは、フルーツの缶詰?...おじさん本当に変わってるよね」

「何を言ってやがるんだか。これからそういう食料は貴重になってくるぞ。有難く食べるんだな」

「...ん。有難く貰っておく」

 それからはお互い無言で別れた。俺には俺のやり方が、あいつにはあいつのやり方があるという事だ。お節介はこんな程度でいいだろう。


 パンデミックの日から、4日が経過した。
 あれだけ騒がしかったサイレンの音や喧騒は聞こえなくなった。テレビの情報によると、学校や市役所などが緊急の避難場所になっているらしい。俺もそこに移動しようかとも悩んだが、やはり集団生活は苦手だ。とりあえず食料が完全に尽きるまではここで籠城生活を送るつもりだ。

 窓の外を見てみると、ゾンビがフラフラと歩いている。ここ4日間ですっかりと見慣れた光景になってしまった。

 ___ゴン!ゴン!

 部屋のドアに体当たりをする音が聞こえてくる。何故かドアに定期的にぶつかってくるゾンビだ。奴が原因でうかつに外に出る事ができない。声の感じから、4日前に噛まれた隣人だと俺は判断している。とりあえずこいつをどうにかしないといけない。俺は4日振りに外出をする覚悟を決めた。

 シャベルを片手に構えながら、左手でドアを少し開ける。居た。階段の手すり付近に男がいる。俺は全力で男の場所に走った。

「...あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 その顔を用心深く観察する。白目、骨の露出、血塗れの腕、青白い顔。確実にゾンビだ。シャベルを右斜めに振り上げて、男の顔面に振り下ろす!!

「おらああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 グチャッとした手ごたえの後、ゾンビがよろよろと後退を始める。フラフラと階段の手すり付近を彷徨い、落下した。周囲を確認したが、男以外のゾンビはいないようだ。これはチャンスかもしれない。

(...とりあえず、各部屋を探索してみるか?)

 俺の部屋は奥部屋の206号室だ。この階層にはあと5部屋ある。ゾンビがいるのかどうかだけでも確認した方がいいだろう。

「...行くか」

 201号室から順に、205号室まで確認した。203号室以外は全て施錠されていて中には入れなかった。誰かがまだ居るという可能性も考えられたので、無理やり侵入するという手段は取らなかった。
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