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一章 大川

第10話

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 203号室は、あのクソガキが住んでいる部屋だ。中からは相変わらず腐臭がする。よくこんな場所で生活できるよな。正気の沙汰とは思えないぜ。俺が軽くドアをノックすると、すぐにクソガキが出てきた。

「...おじさん。また何かくれるの?」

「俺をお土産屋か何かと勘違いしてないか?おまえ...」

 とりあえず用意していたパスタ缶を手渡し、情報を交換する。彼女はこの家周辺のコンビニやスーパーなどから食料を調達しているようだ。中学生とは思えないレベルの行動力だな。

「...最近はドラッグストアとかが狙い目。めっちゃ食料が置いてある」

「ああ。最近のドラッグストアは冷凍食品とか野菜も売ってるんだっけか。もうスーパーの完全上位互換だよな」

 彼女の話によると、もはやこの周辺では貨幣制度というものは完全に崩壊しているようだ。どこに行っても100%セール状態らしい。ある意味天国かもしれないな。

 それから適当に世間話をして、適当に分かれた。


 パンデミックの日から7日目。

 この日、俺は部屋で昼飯を作っていた。ちなみに電気はまだ使えているが、ガスは止まってしまった。用意しておいたカセットコンロを使い、軽い料理を作るつもりだ。

 作っているのはレトルトカレーと豚汁だ。ジャガイモや玉ねぎなども加熱して投入しているのでかなり体に良い食事になっていると個人的には思う。健康的な食事はマジで重要だからな。しっかりと食べて、免疫力を付けなければいけない。

 調理中に喉が渇いたので、冷蔵庫からエナジードリンクを取り出し、ゴクゴクと飲み干す。この大量のエナジードリンクはパンデミック前に箱買いしていたものだ。死ぬほど余っているので、ちょっとぐらい贅沢に使っても問題ないだろう。

「んああ!やっぱ炭酸飲料は定期的に飲みたくなるよなぁ!!」

 ...最近独り言が増えてきたきた気がする。まあこんな異常な世界なんだ。別におかしな事じゃないだろう。

 完成したレトルトカレーと豚汁をもしゃもしゃと食べながら、ボーと今後の事を考える。どれも漠然とした夢のような想像ばかりで、とても実行する気にはならなかった。

 食事も終わった事だし、昼寝をすることにした。無駄に動き回るよりも家で寝てた方が安全だ。

 夜になった。テレビを付けて見るが、どの局も映らない。ついに報道機関もダメになってしまったようだ。ちょっとだけだが気持ちが落ち込んでしまった。

(...ラジオならいけるか?)

 こういう場合、個人でやっているラジオの電波などはまだ拾えるかもしれない。ラジオの電源を入れてみた。どうやらラジオに関しては、まだ定期的な時間にやっている人が居るようだ。今後はこっちが主な情報源になりそうだな。

「これを聞いている人がいるかどうか分からないが、こっちは酷い状況だよ。特に病院や飲食店なんかはゾンビよりも人間の方が怖い。最近じゃ自警団なんていう怪しい組織が作られてるみたいだしな。...ほんと、日本はもうダメかもしれないな」
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