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33 とある男

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▫︎◇▫︎


 暗殺者の人生は孤独で、単調で、心底つまらない。
 闇に生きて闇に死ぬ社会に光なんていうものは存在していなくて、暗殺者の人生はすぐに終焉を迎えることとなる。


 ———ひゅっ、


 鋭い風切り音と共に漆黒の磨き抜かれた刀身が宙を舞い、壁に貼られた1枚の絵の中央を貫く。
 その様を見た黒衣の男は、にやっと口の端を上げ嘲笑う。


「ぁぁ!ぁあ!ああ!なんてっ!!なんって美しいッ………!!」


 絵が己の放ったナイフによって中央を引き裂かれた瞬間、男の脳内には鮮血の花が咲き誇った。
 途方もない自分の美学に準ずる美しさに心底惚れ惚れとしている男は、行儀悪く足を組み、狂ったように両手を宙に浮かべ、夢見心地で叫び続ける。

 光の当たらないジメジメとした地下室。
 ぱちぱちと鳴る火花の音には誰も反応しない。


「殺さなくては、殺さなくては、殺さなくては殺さなくては殺さなくては殺さなくては殺さなくてはッ………!!」


 絶叫のような裏返った叫び声を上げた男は、1枚の古びた紙を握りしめていた。
 ぼろぼろに破け、血糊が固まり、経年劣化によって用紙が変色したメモ書きには、走り書きの真っ赤な文字で己の信念を表す言葉が刻まれている。


「許さない、許さない許さない許さない、許さない許さない許さない許さない許さない………!!」


 ルビー、否、ガーネットのような深みのある瞳を持つ男は、焦茶の髪がなくなってしまいそうなぐらいに激しく頭を掻きむしり、血走った目開き切った瞬間、「うーひひひひひっ!!」という不気味な声を上げベロンと舌を出す。


「ぁぁ!ぁあ!ああっ!殺さなくては!洗わなくては!この穢れた血を!!穢れた世界をっ!!」


 永遠とも呼べるような時間を笑い続けた男を、まだ誰も知らない。


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読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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