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6章:永き夢想の果て
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「気付いた頃には全部遅かったんだ。破壊し尽くした人間は、ようやく自分達がしてきた事の重大さに気付いた。けれど、僕は何も人間に期待することは無くなっていた。でも──」
昊は泣いていた。大丈夫だと思っていた、きっと好きでいられると。彼が絶望したのは人間だけでなく、自分に対してもだった。そこから心が軋んで、消えてしまいたいと、思いながら過ごしていた、と。
しかし、一人の少女が見つけてくれた。誰にも見つけられず消えゆくモノなのかと思い続ける日々だったが、少女と出会った事で、かつてお爺さんと交わした言葉を思い出した。
「螢。僕は君と出会えて本当に良かった……君のおかげで、僕は救われた。……君の記憶を消したのは、あの時僕が影に話を持ちかけられていたからなんだ。これ以上僕と関わり続ければ、螢が殺されてしまう。だから記憶を消して、新たな土地で生活していれば、問題ないかと思ったんだけど……甘かった」
螢と別れた後、影に身体を渡した。取り憑かれた昊は影と共に幽明ヶ原へと渡った。その後は、螢と信乃が会った通りだそうだ。
「昊、アンタは今人間の事をどう思っている?」
信乃はそこが気になっていた。救われたと言ったのは本心だろう。だが、人間に対しての事は何も言っていない。昊は肩を竦めて笑った。
「そうだね。あんなにも憎くて嫌いだったけど、それは一部に対してだからね……。それに、全部が嫌な思い出ではなかった。楽しかった。うん、僕はやっぱり最後まで心から嫌いになれなかったみたい」
その言葉を聞いた時螢は、本当に救われたのだと思った。あの時、自分が気づけていればと、何度も思っていたが、自分の存在が知らず昊を救っていたと知る。
「お爺さんの言った通り、守ろうと尽力してくれた人も確かにいたんだ」
「人間も捨てたもんじゃないだろ?」
「ああ」
一通り話が終わると、昊は「帰る時間だ」と言った。さきほどの影が封印されたことによって地上の影達も消えているらしい。
「この鏡、何も映らなくなっちゃったんだけど……。どうすればいいのかな……」
「元々あった祠にちゃんと返せば、大丈夫だよ」
そういえば、と不安そうに鏡を見つめる螢に優しく告げる昊の上から、突如一条の光がまるで流れ星の様に降ってきた。その光は輝きを増し当たりをどんどん白く染めて行く。
「これ、最初に見た夢と同じ……って身体が」
「浮いて行く……?おい昊、どういう事……昊お前! 消えて……」
驚く二人に仕方ないことだと告げる。元より死期が近い事を分かっていた。そして今回依り代にされた事で更に生命力が失われ消滅も時間の問題であったと言う。昊の身体は景色を透過し消えて行く。
「待ってよ……やっと思い出したのに……お願い、行かないで!辰野に一緒に帰ろう!?」
「本当に、ごめんね。僕は行けない……」
螢は声の震えを堪えながら手を必死に伸ばす。しかし昊は手を取ろうとしなかった。
一匹の紫の蝶が飛んでくる。蝶は静かに羽を休めるように昊の肩に止まった。彼はなにかをこらえるように一度目を閉じ、そして開いた。
蝶は肩から離れ、小さな光になって消える。
「最後になるけど……。螢、ありがとう。君のおかげで、良い最後を迎えられた。楽しかったよ。信乃、願わくば、これからも螢の側にいて欲しい。二人とも──、元気で、ね」
視界が真っ白な光に包まれ見えなくなる。身体が急速浮上して行く。涙が零れ落ち、震えも止まらなかった。
「昊!」と大きく叫んだ瞬間に微かに感じる。
彼は晴れやかな笑顔と共に、消滅した。
昊は泣いていた。大丈夫だと思っていた、きっと好きでいられると。彼が絶望したのは人間だけでなく、自分に対してもだった。そこから心が軋んで、消えてしまいたいと、思いながら過ごしていた、と。
しかし、一人の少女が見つけてくれた。誰にも見つけられず消えゆくモノなのかと思い続ける日々だったが、少女と出会った事で、かつてお爺さんと交わした言葉を思い出した。
「螢。僕は君と出会えて本当に良かった……君のおかげで、僕は救われた。……君の記憶を消したのは、あの時僕が影に話を持ちかけられていたからなんだ。これ以上僕と関わり続ければ、螢が殺されてしまう。だから記憶を消して、新たな土地で生活していれば、問題ないかと思ったんだけど……甘かった」
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「昊、アンタは今人間の事をどう思っている?」
信乃はそこが気になっていた。救われたと言ったのは本心だろう。だが、人間に対しての事は何も言っていない。昊は肩を竦めて笑った。
「そうだね。あんなにも憎くて嫌いだったけど、それは一部に対してだからね……。それに、全部が嫌な思い出ではなかった。楽しかった。うん、僕はやっぱり最後まで心から嫌いになれなかったみたい」
その言葉を聞いた時螢は、本当に救われたのだと思った。あの時、自分が気づけていればと、何度も思っていたが、自分の存在が知らず昊を救っていたと知る。
「お爺さんの言った通り、守ろうと尽力してくれた人も確かにいたんだ」
「人間も捨てたもんじゃないだろ?」
「ああ」
一通り話が終わると、昊は「帰る時間だ」と言った。さきほどの影が封印されたことによって地上の影達も消えているらしい。
「この鏡、何も映らなくなっちゃったんだけど……。どうすればいいのかな……」
「元々あった祠にちゃんと返せば、大丈夫だよ」
そういえば、と不安そうに鏡を見つめる螢に優しく告げる昊の上から、突如一条の光がまるで流れ星の様に降ってきた。その光は輝きを増し当たりをどんどん白く染めて行く。
「これ、最初に見た夢と同じ……って身体が」
「浮いて行く……?おい昊、どういう事……昊お前! 消えて……」
驚く二人に仕方ないことだと告げる。元より死期が近い事を分かっていた。そして今回依り代にされた事で更に生命力が失われ消滅も時間の問題であったと言う。昊の身体は景色を透過し消えて行く。
「待ってよ……やっと思い出したのに……お願い、行かないで!辰野に一緒に帰ろう!?」
「本当に、ごめんね。僕は行けない……」
螢は声の震えを堪えながら手を必死に伸ばす。しかし昊は手を取ろうとしなかった。
一匹の紫の蝶が飛んでくる。蝶は静かに羽を休めるように昊の肩に止まった。彼はなにかをこらえるように一度目を閉じ、そして開いた。
蝶は肩から離れ、小さな光になって消える。
「最後になるけど……。螢、ありがとう。君のおかげで、良い最後を迎えられた。楽しかったよ。信乃、願わくば、これからも螢の側にいて欲しい。二人とも──、元気で、ね」
視界が真っ白な光に包まれ見えなくなる。身体が急速浮上して行く。涙が零れ落ち、震えも止まらなかった。
「昊!」と大きく叫んだ瞬間に微かに感じる。
彼は晴れやかな笑顔と共に、消滅した。
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