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終章:極彩色の旅人
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「螢ちゃん! 信乃くん! 二人共お帰りー!」
気がつくと二人は地上にいた。二人に気付いたキヨは勢いよく抱きついた。キヨが唐突に抱きついた為、バランスが取れず三人は一緒に倒れこんでしまう。
キヨとアリサはかすり傷は多少あるものの、無事だった。
信乃はそういえば、自分も螢も怪我をしたはずと掌を見ると、火傷は綺麗に消えている。キヨにギュウギュウと抱きしめられている螢を見ても自分と同じく怪我が消えているように見える。
螢は喪失感に目の前が涙滲むが直ぐに拭い、キヨに鏡を渡した。
「……そうだ、キヨちゃん! 鏡、ありがとう」
「ふふ、ちゃーんと封印出来たのね。で、何があったの?」
螢と信乃はキヨとアリサに井戸での出来事を話す。
「そんな事が……。何にせよお疲れ様、二人とも」
「アタシ達の方も色々あってさ~」
キヨが言うには、戦っている最中に何故か水無月が来て一掃したかと思えば、井戸に手を入れ、そのまま神社へ帰って行ったと。その後影は現れる事はなく、二人が元凶を倒せたと気付いた。
説明が終わるとキヨは立ち上がる。
「さて、この鏡は祠に戻しておいて、と。さあ帰りましょう。多分貴方達は直ぐにでも元の世界に帰れるわ」
祠へ鏡を戻したキヨはさっさと神社に向かって歩き出した。
「早く行きましょう」
アリサに促され二人は足早について行った。
境内に着くと、今日であった皆が待っていてくれた。菊鯉が飛びはねながら手を振っている。黒兎もぼんやりと手を振っている。
「お疲れ様でした。四人とも……。では螢さん、信乃くん、早速ですがこれからお二人を現世へと帰還させます。そうなると、もう二度とここへはこれません。何があっても……。やり残した事はありませんか?」
黒曜が優しく聞いた。二人は一度顔を見合わせ頷くと、信乃が代表するように水無月に会いたいと告げる。
その言葉を告げた数舜後、水無月がいつの間にか狛犬の側に立っていた。
「無事の帰還何より。して儂に話とは何だ?」
螢と信乃はキヨとアリサに話した様に水無月にも井戸での話をした。
昊に取り憑いた影がなぜああなってしまったのか、それを聞いた水無月は辛そうに顔を歪めた。
「人間が皆さんに必要だっていう事は分かります」
「でも……どうか苦しめないで下さい!」
二人はそろって頭を下げる。
水無月は人間味のない顔をわずかにしかめる。
「あいわかった。まったく情けない──そんな事、今まで気にも止めなかった……改定だな」
水無月はパンッと手を鳴らす。すると空気が変わる。あの一瞬で魂の残痕を消したという。「これで彼等は大丈夫なのか」と水無月は一人納得した様子だった。
「ありがとうございます」
──これで良かったのだろう。
黒曜は他にやり残した事はないかと聞くと、二人は「もうない」と答える。
「分かりました。では、帰りの説明をします。ここの鳥居から出て下さい。そして真っ直ぐ行けば駅に着きます。電車が来ますからそれに乗って下さい。それで向こうの世界へと帰れます」
意外にもあっさり帰れる事に驚いた。もっと契約みたいなモノを想像していた。それに気付いた雨女はクスリと笑う。
「まぁー驚きだよねー、僕も普通に出られるとは思わなかったー……」
「そう、だね。でも僕たちももう少し何か出来れば良かった、ね」
黒兎と白兎は「ねー」とお互いに言っていた。自分達が余り活躍出来なかったのが悔しいとも言っている。
「俺達は楽しかったよ、お前達と話せて」
螢も頷く。信乃の言葉に兎耳の少年達は気を良くしたらしく、嬉しそうにお互いの手を繋ぐとぶんぶん振った。
そんな彼等を少し疲れた様に笑ったのが鯉乃進だった。鯉乃進が言うには、螢と信乃が井戸で戦っている時、町中の影が暴れ出したらしい。その時、兎耳の二人がアグレッシブにも鯉達の任せられた範囲の任務も容赦なく片付けたそうだ。
「アノ二人ハ、何ト言イマスカ……比較的新参者ナノニ、アンナニモ強引ト言ウカ、大胆ト言ウカ……。ソレハ、ソレトシテ御無事デ良カッタデス」
「寂シイヨー……デモ仕方ナイカー……」
菊鯉がしょんぼりとしながら螢と信乃の手を握る。
「コレバッカハ仕方ネーヨ、ソーユー決マリダカラナ。最初二会ッタ頃ヨリ顔ツキモ頼モシクナッタシ、向コウデモ大丈夫ダロ」
菊鯉の頭をぽんぽん優しく叩きながら緋鯉は言った。
最初は不安で仕方ありません、と言った顔をしていたが、それでも戦って根性を見せた二人を結構気に入っていた。今の人間がここまでやるとは思ってもいなかったのだ。
鯉達も影を片付けるため、駆け回っていた。地上でそんな事が起こっていたとは知らなかった二人は皆にお礼を言う。
「そなたは何も無いのか?最初に会ったくせに」
「くせにって……。ええ、何もないわ。ただ帰ってくれるのであれば何より。私から言うことはありません」
「ほー。お前も人間が好きだな」
茶化された雨女は水無月をじとりと睨む。しかし彼女の言葉は本心だった。幽明ヶ原で誰よりもずっと心配していたのが雨女だった。顔にも出さない、行動は悟られないよう隠す。徹底したものだ。
彼女も根底では人間が好きだ。雨女自身、過去とある人間に助けられた。あの時の礼はその人間が死ぬ間際にしか言えなかったが、それでも覚えていてくれた。人間はどうしようもなく愚かしい行為をするがその人間がいなければ存在すらかなわなかったのが妖怪だ。たとえ、どんなに憎んだとしても本質はくつがえる事がなかった。
それでも、螢と信乃は目が合った時「あの時声をかけてくれてありがとう」と言った。
「なんの事かしら。そんな事はいいから早く行きなさい」
和傘で顔を隠し、帰路へと促す。
顔を見合わせ笑った螢と信乃は鳥居の近くまで歩くと振り返った。
「皆さん今までお世話になりました!」
「お元気で」
二人は一礼し、軽やかに鳥居をくぐり石段を降りていった。
気がつくと二人は地上にいた。二人に気付いたキヨは勢いよく抱きついた。キヨが唐突に抱きついた為、バランスが取れず三人は一緒に倒れこんでしまう。
キヨとアリサはかすり傷は多少あるものの、無事だった。
信乃はそういえば、自分も螢も怪我をしたはずと掌を見ると、火傷は綺麗に消えている。キヨにギュウギュウと抱きしめられている螢を見ても自分と同じく怪我が消えているように見える。
螢は喪失感に目の前が涙滲むが直ぐに拭い、キヨに鏡を渡した。
「……そうだ、キヨちゃん! 鏡、ありがとう」
「ふふ、ちゃーんと封印出来たのね。で、何があったの?」
螢と信乃はキヨとアリサに井戸での出来事を話す。
「そんな事が……。何にせよお疲れ様、二人とも」
「アタシ達の方も色々あってさ~」
キヨが言うには、戦っている最中に何故か水無月が来て一掃したかと思えば、井戸に手を入れ、そのまま神社へ帰って行ったと。その後影は現れる事はなく、二人が元凶を倒せたと気付いた。
説明が終わるとキヨは立ち上がる。
「さて、この鏡は祠に戻しておいて、と。さあ帰りましょう。多分貴方達は直ぐにでも元の世界に帰れるわ」
祠へ鏡を戻したキヨはさっさと神社に向かって歩き出した。
「早く行きましょう」
アリサに促され二人は足早について行った。
境内に着くと、今日であった皆が待っていてくれた。菊鯉が飛びはねながら手を振っている。黒兎もぼんやりと手を振っている。
「お疲れ様でした。四人とも……。では螢さん、信乃くん、早速ですがこれからお二人を現世へと帰還させます。そうなると、もう二度とここへはこれません。何があっても……。やり残した事はありませんか?」
黒曜が優しく聞いた。二人は一度顔を見合わせ頷くと、信乃が代表するように水無月に会いたいと告げる。
その言葉を告げた数舜後、水無月がいつの間にか狛犬の側に立っていた。
「無事の帰還何より。して儂に話とは何だ?」
螢と信乃はキヨとアリサに話した様に水無月にも井戸での話をした。
昊に取り憑いた影がなぜああなってしまったのか、それを聞いた水無月は辛そうに顔を歪めた。
「人間が皆さんに必要だっていう事は分かります」
「でも……どうか苦しめないで下さい!」
二人はそろって頭を下げる。
水無月は人間味のない顔をわずかにしかめる。
「あいわかった。まったく情けない──そんな事、今まで気にも止めなかった……改定だな」
水無月はパンッと手を鳴らす。すると空気が変わる。あの一瞬で魂の残痕を消したという。「これで彼等は大丈夫なのか」と水無月は一人納得した様子だった。
「ありがとうございます」
──これで良かったのだろう。
黒曜は他にやり残した事はないかと聞くと、二人は「もうない」と答える。
「分かりました。では、帰りの説明をします。ここの鳥居から出て下さい。そして真っ直ぐ行けば駅に着きます。電車が来ますからそれに乗って下さい。それで向こうの世界へと帰れます」
意外にもあっさり帰れる事に驚いた。もっと契約みたいなモノを想像していた。それに気付いた雨女はクスリと笑う。
「まぁー驚きだよねー、僕も普通に出られるとは思わなかったー……」
「そう、だね。でも僕たちももう少し何か出来れば良かった、ね」
黒兎と白兎は「ねー」とお互いに言っていた。自分達が余り活躍出来なかったのが悔しいとも言っている。
「俺達は楽しかったよ、お前達と話せて」
螢も頷く。信乃の言葉に兎耳の少年達は気を良くしたらしく、嬉しそうにお互いの手を繋ぐとぶんぶん振った。
そんな彼等を少し疲れた様に笑ったのが鯉乃進だった。鯉乃進が言うには、螢と信乃が井戸で戦っている時、町中の影が暴れ出したらしい。その時、兎耳の二人がアグレッシブにも鯉達の任せられた範囲の任務も容赦なく片付けたそうだ。
「アノ二人ハ、何ト言イマスカ……比較的新参者ナノニ、アンナニモ強引ト言ウカ、大胆ト言ウカ……。ソレハ、ソレトシテ御無事デ良カッタデス」
「寂シイヨー……デモ仕方ナイカー……」
菊鯉がしょんぼりとしながら螢と信乃の手を握る。
「コレバッカハ仕方ネーヨ、ソーユー決マリダカラナ。最初二会ッタ頃ヨリ顔ツキモ頼モシクナッタシ、向コウデモ大丈夫ダロ」
菊鯉の頭をぽんぽん優しく叩きながら緋鯉は言った。
最初は不安で仕方ありません、と言った顔をしていたが、それでも戦って根性を見せた二人を結構気に入っていた。今の人間がここまでやるとは思ってもいなかったのだ。
鯉達も影を片付けるため、駆け回っていた。地上でそんな事が起こっていたとは知らなかった二人は皆にお礼を言う。
「そなたは何も無いのか?最初に会ったくせに」
「くせにって……。ええ、何もないわ。ただ帰ってくれるのであれば何より。私から言うことはありません」
「ほー。お前も人間が好きだな」
茶化された雨女は水無月をじとりと睨む。しかし彼女の言葉は本心だった。幽明ヶ原で誰よりもずっと心配していたのが雨女だった。顔にも出さない、行動は悟られないよう隠す。徹底したものだ。
彼女も根底では人間が好きだ。雨女自身、過去とある人間に助けられた。あの時の礼はその人間が死ぬ間際にしか言えなかったが、それでも覚えていてくれた。人間はどうしようもなく愚かしい行為をするがその人間がいなければ存在すらかなわなかったのが妖怪だ。たとえ、どんなに憎んだとしても本質はくつがえる事がなかった。
それでも、螢と信乃は目が合った時「あの時声をかけてくれてありがとう」と言った。
「なんの事かしら。そんな事はいいから早く行きなさい」
和傘で顔を隠し、帰路へと促す。
顔を見合わせ笑った螢と信乃は鳥居の近くまで歩くと振り返った。
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「お元気で」
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