ほたる祭りと2人の怪奇

飴之ゆう

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6章:永き夢想の果て

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螢と信乃は深い井戸を底へ底へと落ちている。四方が壁で上も下も真っ暗で先が見えずとても不安になるが、戦っている二人の為にも早く決着を付けなければ、と気をもちなおした。

「螢、もう上は見えないか?」
「うん、音ももう聞こえないね……大丈夫かな」
「俺達は信じるしかないし、やれることをやろう」
「そうだね……」

螢は頷くと胸に抱えている鏡をぎゅっと抱きしめる。鏡がじんわりと温かくなった気がした。
しばらくすると、先行く信乃が地面に着地したらしい。落ちた距離のわりに静かな着地音が聞こえてくる。しかし、鏡に気を取られていた螢は気がつくのが遅れてしまった。

「おわ!螢、気をっグェ!!」
「へぶっ!……あたた、ここって」
「とりあえず……どいてくれ、指が折れ……る……」
「ご、ごめん!」

信乃の上に着地してしまった螢は慌てておりる。
いてて…と立ち上がった信乃をよそに、当たりを見渡した螢はあることに気付いた。ここは夢の中で見た『真っ暗な空間』と同じようだった。暖かくも寒くもない。しかし今回はお互いがしっかり見えている。何かあるのだろうか?
信乃にその事を伝えると、信乃は「このまま進んでみよう」と言い螢の手を取り暗闇の空間を歩き出した。

注意深くあたりを見ながら歩いていると、何かが足にあたる。手に取ってみるとそれは一メートル程の木の枝だった。なぜこんなものが転がっているのか不思議に思っていると、今度は『黒い液体』が湧いてくる。その液体は足首を浸す程だったが、泥のように足に纏わり付きぬかるんでいた。
信乃がぬかるみに足を取られとっさに持っていた枝に力を入れると、その枝は見た目に反して軽々、バキリと音を立て折れてしまう。枝の内部は腐っていたらしく、ボロボロと手から崩れ落ちていった。二人はそれを見て先程、四人で考察したことは合っていたと確信する。

「信乃……この液体って元は普通の水だったはず、なんだよね……」
「あぁ。『ホタルは綺麗な川に生息する』っていうから、さっきアリサが言った、『汚染された水』で合ってるんだろうな……」

信乃は小さな声で答えた。ホタルは水が綺麗で自然環境が保全されている場所でしか生きられない性質だ。時代が発展するに連れ、環境はどんどん変わって行く。それは仕方のないことだと分かっているが──。

「悲しいよね。……でもこれを生み出したのは君達人間だ」

足元を見つめていると、進行方向から突如氷の様に冷たく鋭い声が聞こえた。バッと前を見ると、いつの間に現れたのだろう、螢が話したホタルの妖怪が夢のままの姿で佇んでいた。

「君達は、どう責任を取るのかな……」
 
前髪から覗く瞳は禍々しく、赤く濁っている。

「貴方は誰!? どうして昊に……」

すると昊の顔はみるみる歪んでいき、どろどろと融けるように歪み、おぞましい顔となり、鯉乃進達と会った時の様な人型の影となった。鈍く濁る赤い目は、反らされる事はなくこちらを見ている。
殺気で身体がすくむ。もはや記憶の中の優しい妖怪ではなくなっている。

「何、無残にも消えそうであったから我が力を与えたまで」

影は嘲笑う。

「小娘、貴様の問いに答えてやろう。我は誰か?ク、クク我は貴様らと同じ、『人間』だ」
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