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Ep.2 基地から回収された記録(10)

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 されどそこは暗闇。
 男は即座にライトを当てた。
 そこには、先に来た作業員が倒れていた。
 作業員は動いていた。
 上半身を起こして立ち上がろうとしている、その動作はそう見えた。
 が、直後に作業員の背中は床に落ちた。
 そして生じた音は先ほど聞こえたものと同じであった。
 即座に再び立ち上がろうとする作業員。
 その動きは先よりはマシなものに見えた。
 上半身を起こし、膝を曲げて踏ん張りながら立ち上がり始める。
 まるで生まれたばかりの子馬のような、危なっかしい動き。
 だから男は尋ねた。

「おい、大丈夫か?」
「……」

 だが作業員は答えない。
 立ち上がったが、その膝は震えている。

「頭でも打ったのか?」

 再びの呼びかけにも、

「……」

 やはり答えない。
 が、作業員はゆっくりと動き始めた。

「!」

 男は驚いたが、その動きの目的が自分で無い事がすぐに分かった。
 作業員用通路から出ようとしているかのように足を出す。
 そして作業員はドアの前で止まった。
 後はカードキーを認証装置にかざすだけ。
 であったが、

「……?!」

 なんと、作業員はドアに手をかけ、力ずくで開けようとした。
 だが、当然開くわけが無い。
 直後、男は恐ろしいことに気付いてしまった。
 こいつは開けようとしたのでは無く、開かないことを確認したかっただけなのでは、と。
 そしてそれは正解であるかのように、作業員はドアから手を離し、男のほうに向き直った。

「おい、待て」

 思わず男の口から言葉が出た。
 何を待って欲しかったのか、それは男にも分からなかった。
 そして、作業員はゆっくりと男のほうに近づき始めた。

「おい、やめろ!」

 何をやめてほしかったのか、やはり分からなかった。
 だがそれは、そのはっきりとしていない恐怖は、

「!」

 直後に現実のものとなった。
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