Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第二章 これより立ち塞がるは更なる強敵。もはやディーノに頼るだけでは勝機は無い

第七話 閃光の魔法使い(1)

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   ◆◆◆

  閃光の魔法使い

   ◆◆◆

 ガストン将軍を倒したカルロは、そのまま東の平原へ侵攻を開始した。
  現在、北の前線への補給線はカルロの城から伸びる一本しか存在しない。それも、いつ敵に封鎖されてもおかしくない状況である。平原を奪い返せば、南の都市からの補給線を回復させることが出来る。そして、それが無くては北の前線を支え続けることは不可能に近いのだ。
  北へ行ったアランの事が気にならないわけでは無かった。クリス達を救ったという情報はまだカルロの耳に入っていなかった。
  しかし、今は平原を奪い返す事のほうが重要であった。そう分かっていても、カルロの胸中にある不穏なざわつきは止まらなかった。

  平原を攻めながら、カルロはある事が気になっていた。
  それはかつて戦った強い力を持つ精鋭魔道士達のことであった。
  カルロが瀕死になるまで追い詰められたあの戦い、その時に見た精鋭格の者達の姿は平原には無かった。
  あの時、半分は確実に殺した。しかし、仕留め損なった残りの半分は今どうしているのか。その内の二人はあのディーノという無能力者が倒したと聞いたが。
  仕留め損なった者達も決して無傷というわけではないはずだ。相打ちのような形になった者もいる。もしかしたら、その時の傷が原因でまだ戦場に出てこられないのかもしれない。
  ……情報が無い以上、いくら考えても無駄なことだ、カルロはそう考えて目の前の戦いに集中しようとしたが、胸中のざわつきはやはり止まらなかった。

  カルロの不安は当たっていた。それはまさしく虫の知らせであった。
  その精鋭の一人が、アランのいるクリスの城へと向かっていたのだ。

    ◆◆◆

「今日からここの指揮を任された精鋭魔道士のジェイクだ。これからは私の指示に従ってもらう」

  クリスの城に最も近い位置にある陣、そこへ兵士達を引き連れてやってきた男、ジェイクは、隊長格の人間を集めてそう言い放った。
  率直だが高圧的な言い方であった。集められた人間はこれに不快感を抱いたが、相手は精鋭魔道士であるという事実が彼らの口を固くさせた。
  対し、ジェイクは彼らの沈黙を別の意味で受け取った。

 「どうした? 私の指示に従えない問題でもあるのか?」

  ジェイクは至って真面目にそう尋ねていた。部隊に何か問題が発生しているから、すぐには動けないと、ジェイクはそう考えていた。
  これにある一人が答えた。

 「いえ、特に何か問題があるわけでは……強いて言えば、我々は先の戦いで指揮官を失ったばかりで、皆それを引き摺っており、戸惑っているくらいかと……」
 「ならば何も問題は無いな。君たちを指揮するために私が来たのだから」

  兵達の心的問題は、何も問題では無いと、ジェイクはそう言った。
  これに当然のように別の一人が口を開いた。

 「ですが、兵達の士気は低く、このままでは戦いに支障が出ると……」

  ジェイクは手をかざして、その者の口を閉ざした。

 「それは問題では無いと言っている」

  だから、それは何故なのか。隊長達はジェイクの次の言葉を待った。

 「兵達の士気は次の戦いで勝って取り戻す」

  この言葉に、隊長達は呆気に取られた。矛盾している。そう思えた。
  だが、ジェイクはやはり真面目にそう言っているらしく、次のように言い放った。

 「それでは早速出陣するぞ。戦いの準備をしてくれ」

  隊長達は呆気に取られたまま、口を開いた。

 「……今から、ですか?」
 「そう聞こえなかったか? すぐに行動を開始してくれ。何事も速く、それが私の信条だ」

  そう言いながら立ち上がるジェイクに、隊長達は慌てながら起立した。

    ◆◆◆

「クリス様! 敵襲です!」

  突然部屋に飛び込んできた臣下ハンスの報告に、クリスは椅子から飛び上がるように立ち上がった。

 「前回の戦いから二月も経っていないぞ! 敵はもう次の攻撃の準備を整えたのか!」

  戦装束に袖を通しながら、クリスは再び尋ねた。

 「敵の規模は?」
 「物見の報告によると、前回の攻撃と比べて半数未満だと」

  この情報はクリスの心を少しだけ安堵させた。

 「半数か。やはり前回の敗北がこたえているようだな。たった二ヶ月では重傷を負った兵士が回復するはずはないからな」

  そんなクリスに対し、ハンスは不穏な情報を口に出した。

 「ですが、敵の中にこれまで見たことが無い軍旗を掲げる部隊があったと」

  これにクリスは一応の警戒を示した。

 「敵の増援部隊か」

  ハンスは頷きを返しながら、更なる情報を出した。

 「そうだと思われます。そして、その部隊が軍を率いている様子」
 「ということは、その部隊の長は、将軍格の人間か」

  クリスは「油断は出来ないな」と言葉を続けながら、マントを羽織った。
  そのマントには剣に炎が纏わりついている様を描いたみごとな刺繍が施されていた。



  それは、カルロを長とする「炎の一族」のシンボルであり、軍旗にもなっていた。
  クリスはその決して軽くないマントの重みを感じた後、ハンスに向かって声を上げた。

 「兵達に伝えろ! 出陣だ!」

    ◆◆◆

 北から進軍してきたジェイクの軍を、クリスは城を南に背負う形で迎え撃った。
  双方の陣容を見比べると、数はクリスのほうが圧倒的であった。兵力差は二倍近くあるように見えた。
  そして両軍の陣形は同じであった。総大将の部隊を中央に置いた横一列であり、ディーノはアランの部隊では無く、クリスの部隊に配置されていた。そしてアランの部隊はクリスの部隊の左隣に配されていた。
  そんな中、ジェイクはとても目立っていた。最前列に出ている上に、煌びやかな甲冑に身を包んでいたからだ。



  顔は鉄仮面に覆われており、その表情は窺い知れなかったが、その顔はクリスの部隊の方に向いていた。

 「ジェイク様、あの大きな武器を持った男に御注意下さい」

  その時、ジェイクの傍にいる一人の部下がディーノを指しながらそう言った。
  そして、ジェイクの目は部下に言われるよりも速く、ディーノの姿を視界の中央に捉えていた。

 「あれがディーノか。話に聞いた事がある。精鋭であるカミラとダグラスを倒した者らしいな」

  頷きを返す部下に対し、ジェイクは言葉を続けた。

 「だが、それは私にとって脅威では無い。何故なら、私はカミラとダグラスは精鋭にはふさわしくないと常々思っていたからだ。ただ硬い壁を張れるだけの者が、どうして精鋭として扱われていたのか、理解に苦しむ」

  どう反応すれば分からない、という様子を見せる部下に対し、ジェイクはこう言った。

 「本当に強い者に弱点や欠点など存在しないのだ。むしろ、強者とはそうであるべきなのだ」

  ジェイクの傲慢とも取れる態度は、決して虚勢などでは無い。彼はカルロと正面から戦って生き延びた者の一人なのだ。

    ◆◆◆

 一方、アランの部隊にいるクラウスもまた、ある男に注目していた。
  じっと見つめるその様が気になったのか、アランはクラウスに声を掛けた。

 「どうした、クラウス?」
 「あの甲冑に身を包んだ男、見覚えがあるような……いえ、気のせいかもしれません」

  正確には気のせいであって欲しい、であった。クラウスとジェイクはこれが初対面では無い。
  だが甲冑に身を包んで戦いに出る者は珍しくはない。あの者がそうであるとは限らない。そんな希望的予測がクラウスの口を重くしていた。

    ◆◆◆

 両軍は睨み合いながらゆっくりと距離を縮めていった。
  そして、先に動いたのはジェイクの方であった。
  ジェイクの部隊から楽器の音が勇ましく鳴り響く。それと同時に、ジェイクの部隊は突撃を開始した。
  だが、勢いよく走り出したのはジェイクの部隊だけであった。他の部隊の進軍速度は遅く、結果としてジェイクの部隊だけが突出する形となった。
  そして、ジェイクの部隊は真っ直ぐに、クリスの元へと向かっていた。
  重い甲冑に身を包んでいるにも拘らず、その勢いは鋭く、精強であった。厚みのあるマントを風になびかせながら駆けるその姿は、威圧感があった。
  それを見たクリスはすかさず声を上げた。

 「こちらに突っ込んでくるぞ! 大盾兵を正面に集めて、防御の陣形を敷け!」

  ジェイクが放つ威圧感はクリスの部隊に緊張を与えていた。事実、クリスの指示に対する兵士達の反応は、普段より良くなっているように見えた。
  瞬く間にクリスの正面に厚い兵士の壁が作られる。その中にはディーノの姿があった。

 「大盾兵は身を低くして敵の攻撃に備えろ! 魔法使い達は敵を射程に捕らえると同時に一斉射撃!」

  大盾兵達は屈み、ディーノも大型の丸盾を構えながらそれに習った。
  魔法使い達が手のひらを正面に突き出し、ジェイクに向かって照準を合わせる。
  だが、先に魔法を放ったのはジェイクの方であった。
  それは明らかに遠かった。並みの魔法使いと比べると倍はあろうかという距離から、ジェイクは光弾を放った。

 「!」

  次の瞬間、クリスは息を呑んだ。
  ジェイクの放った光弾、それは尋常では無かった。
  まず、速い。とにかく速かった。そしてそれは速いだけでは無かった。
  場に重い衝突音が響く。クリスがそちらへ顔を向けると、大盾兵が倒れている姿が目に入った。
  光弾は距離が遠くなるにつれ威力が減衰する。それは間違いない。しかし、ジェイクの光弾は、この遠距離からでも大盾兵を押し倒す威力を有していた。
  このままでは遠距離から一方的に攻撃を受け続けるだけである。クリスは声を上げた。

 「全軍前進! 間合いを詰めて攻撃を仕掛けろ!」

  クリスの指示に、大盾兵達は立ち上がり、走り始めた。
  そんな中、足の速いディーノはすぐに先頭に出た。
  ディーノはどんどん前へ行き、ジェイクのように一人突出する形になった。それはディーノがジェイクに対し一騎打ちを仕掛けているようにも見えた。
  大盾兵と足並みが揃っていない事は分かっていた。しかし、ディーノは速度を落とそうとはしなかった。
  寄って槍斧を振るう、ディーノにはそれしか無いのだ。

    ◆◆◆

 ジェイクの放った凄まじい光弾と、突撃するディーノの姿を見て、クラウスは声を上げた。

 「まずい! ディーノ殿を止めないと!」
 「どういうことだ、クラウス!」

  尋ねるアランに、クラウスは早口ぎみに答えた。

 「あやつに無策で近づいてはなりません! 光弾も脅威ですが、近距離においてはより強力な魔法があやつにはあるのです!」

  これを聞いたアランは後方に控える兵士達の方に振り返り、声を上げた。

 「全員聞いたな! これより我が隊はディーノの援護に向かう! 行くぞ!」
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