18 / 586
第二章 これより立ち塞がるは更なる強敵。もはやディーノに頼るだけでは勝機は無い
第七話 閃光の魔法使い(1)
しおりを挟む◆◆◆
閃光の魔法使い
◆◆◆
ガストン将軍を倒したカルロは、そのまま東の平原へ侵攻を開始した。
現在、北の前線への補給線はカルロの城から伸びる一本しか存在しない。それも、いつ敵に封鎖されてもおかしくない状況である。平原を奪い返せば、南の都市からの補給線を回復させることが出来る。そして、それが無くては北の前線を支え続けることは不可能に近いのだ。
北へ行ったアランの事が気にならないわけでは無かった。クリス達を救ったという情報はまだカルロの耳に入っていなかった。
しかし、今は平原を奪い返す事のほうが重要であった。そう分かっていても、カルロの胸中にある不穏なざわつきは止まらなかった。
平原を攻めながら、カルロはある事が気になっていた。
それはかつて戦った強い力を持つ精鋭魔道士達のことであった。
カルロが瀕死になるまで追い詰められたあの戦い、その時に見た精鋭格の者達の姿は平原には無かった。
あの時、半分は確実に殺した。しかし、仕留め損なった残りの半分は今どうしているのか。その内の二人はあのディーノという無能力者が倒したと聞いたが。
仕留め損なった者達も決して無傷というわけではないはずだ。相打ちのような形になった者もいる。もしかしたら、その時の傷が原因でまだ戦場に出てこられないのかもしれない。
……情報が無い以上、いくら考えても無駄なことだ、カルロはそう考えて目の前の戦いに集中しようとしたが、胸中のざわつきはやはり止まらなかった。
カルロの不安は当たっていた。それはまさしく虫の知らせであった。
その精鋭の一人が、アランのいるクリスの城へと向かっていたのだ。
◆◆◆
「今日からここの指揮を任された精鋭魔道士のジェイクだ。これからは私の指示に従ってもらう」
クリスの城に最も近い位置にある陣、そこへ兵士達を引き連れてやってきた男、ジェイクは、隊長格の人間を集めてそう言い放った。
率直だが高圧的な言い方であった。集められた人間はこれに不快感を抱いたが、相手は精鋭魔道士であるという事実が彼らの口を固くさせた。
対し、ジェイクは彼らの沈黙を別の意味で受け取った。
「どうした? 私の指示に従えない問題でもあるのか?」
ジェイクは至って真面目にそう尋ねていた。部隊に何か問題が発生しているから、すぐには動けないと、ジェイクはそう考えていた。
これにある一人が答えた。
「いえ、特に何か問題があるわけでは……強いて言えば、我々は先の戦いで指揮官を失ったばかりで、皆それを引き摺っており、戸惑っているくらいかと……」
「ならば何も問題は無いな。君たちを指揮するために私が来たのだから」
兵達の心的問題は、何も問題では無いと、ジェイクはそう言った。
これに当然のように別の一人が口を開いた。
「ですが、兵達の士気は低く、このままでは戦いに支障が出ると……」
ジェイクは手をかざして、その者の口を閉ざした。
「それは問題では無いと言っている」
だから、それは何故なのか。隊長達はジェイクの次の言葉を待った。
「兵達の士気は次の戦いで勝って取り戻す」
この言葉に、隊長達は呆気に取られた。矛盾している。そう思えた。
だが、ジェイクはやはり真面目にそう言っているらしく、次のように言い放った。
「それでは早速出陣するぞ。戦いの準備をしてくれ」
隊長達は呆気に取られたまま、口を開いた。
「……今から、ですか?」
「そう聞こえなかったか? すぐに行動を開始してくれ。何事も速く、それが私の信条だ」
そう言いながら立ち上がるジェイクに、隊長達は慌てながら起立した。
◆◆◆
「クリス様! 敵襲です!」
突然部屋に飛び込んできた臣下ハンスの報告に、クリスは椅子から飛び上がるように立ち上がった。
「前回の戦いから二月も経っていないぞ! 敵はもう次の攻撃の準備を整えたのか!」
戦装束に袖を通しながら、クリスは再び尋ねた。
「敵の規模は?」
「物見の報告によると、前回の攻撃と比べて半数未満だと」
この情報はクリスの心を少しだけ安堵させた。
「半数か。やはり前回の敗北がこたえているようだな。たった二ヶ月では重傷を負った兵士が回復するはずはないからな」
そんなクリスに対し、ハンスは不穏な情報を口に出した。
「ですが、敵の中にこれまで見たことが無い軍旗を掲げる部隊があったと」
これにクリスは一応の警戒を示した。
「敵の増援部隊か」
ハンスは頷きを返しながら、更なる情報を出した。
「そうだと思われます。そして、その部隊が軍を率いている様子」
「ということは、その部隊の長は、将軍格の人間か」
クリスは「油断は出来ないな」と言葉を続けながら、マントを羽織った。
そのマントには剣に炎が纏わりついている様を描いたみごとな刺繍が施されていた。
それは、カルロを長とする「炎の一族」のシンボルであり、軍旗にもなっていた。
クリスはその決して軽くないマントの重みを感じた後、ハンスに向かって声を上げた。
「兵達に伝えろ! 出陣だ!」
◆◆◆
北から進軍してきたジェイクの軍を、クリスは城を南に背負う形で迎え撃った。
双方の陣容を見比べると、数はクリスのほうが圧倒的であった。兵力差は二倍近くあるように見えた。
そして両軍の陣形は同じであった。総大将の部隊を中央に置いた横一列であり、ディーノはアランの部隊では無く、クリスの部隊に配置されていた。そしてアランの部隊はクリスの部隊の左隣に配されていた。
そんな中、ジェイクはとても目立っていた。最前列に出ている上に、煌びやかな甲冑に身を包んでいたからだ。
顔は鉄仮面に覆われており、その表情は窺い知れなかったが、その顔はクリスの部隊の方に向いていた。
「ジェイク様、あの大きな武器を持った男に御注意下さい」
その時、ジェイクの傍にいる一人の部下がディーノを指しながらそう言った。
そして、ジェイクの目は部下に言われるよりも速く、ディーノの姿を視界の中央に捉えていた。
「あれがディーノか。話に聞いた事がある。精鋭であるカミラとダグラスを倒した者らしいな」
頷きを返す部下に対し、ジェイクは言葉を続けた。
「だが、それは私にとって脅威では無い。何故なら、私はカミラとダグラスは精鋭にはふさわしくないと常々思っていたからだ。ただ硬い壁を張れるだけの者が、どうして精鋭として扱われていたのか、理解に苦しむ」
どう反応すれば分からない、という様子を見せる部下に対し、ジェイクはこう言った。
「本当に強い者に弱点や欠点など存在しないのだ。むしろ、強者とはそうであるべきなのだ」
ジェイクの傲慢とも取れる態度は、決して虚勢などでは無い。彼はカルロと正面から戦って生き延びた者の一人なのだ。
◆◆◆
一方、アランの部隊にいるクラウスもまた、ある男に注目していた。
じっと見つめるその様が気になったのか、アランはクラウスに声を掛けた。
「どうした、クラウス?」
「あの甲冑に身を包んだ男、見覚えがあるような……いえ、気のせいかもしれません」
正確には気のせいであって欲しい、であった。クラウスとジェイクはこれが初対面では無い。
だが甲冑に身を包んで戦いに出る者は珍しくはない。あの者がそうであるとは限らない。そんな希望的予測がクラウスの口を重くしていた。
◆◆◆
両軍は睨み合いながらゆっくりと距離を縮めていった。
そして、先に動いたのはジェイクの方であった。
ジェイクの部隊から楽器の音が勇ましく鳴り響く。それと同時に、ジェイクの部隊は突撃を開始した。
だが、勢いよく走り出したのはジェイクの部隊だけであった。他の部隊の進軍速度は遅く、結果としてジェイクの部隊だけが突出する形となった。
そして、ジェイクの部隊は真っ直ぐに、クリスの元へと向かっていた。
重い甲冑に身を包んでいるにも拘らず、その勢いは鋭く、精強であった。厚みのあるマントを風になびかせながら駆けるその姿は、威圧感があった。
それを見たクリスはすかさず声を上げた。
「こちらに突っ込んでくるぞ! 大盾兵を正面に集めて、防御の陣形を敷け!」
ジェイクが放つ威圧感はクリスの部隊に緊張を与えていた。事実、クリスの指示に対する兵士達の反応は、普段より良くなっているように見えた。
瞬く間にクリスの正面に厚い兵士の壁が作られる。その中にはディーノの姿があった。
「大盾兵は身を低くして敵の攻撃に備えろ! 魔法使い達は敵を射程に捕らえると同時に一斉射撃!」
大盾兵達は屈み、ディーノも大型の丸盾を構えながらそれに習った。
魔法使い達が手のひらを正面に突き出し、ジェイクに向かって照準を合わせる。
だが、先に魔法を放ったのはジェイクの方であった。
それは明らかに遠かった。並みの魔法使いと比べると倍はあろうかという距離から、ジェイクは光弾を放った。
「!」
次の瞬間、クリスは息を呑んだ。
ジェイクの放った光弾、それは尋常では無かった。
まず、速い。とにかく速かった。そしてそれは速いだけでは無かった。
場に重い衝突音が響く。クリスがそちらへ顔を向けると、大盾兵が倒れている姿が目に入った。
光弾は距離が遠くなるにつれ威力が減衰する。それは間違いない。しかし、ジェイクの光弾は、この遠距離からでも大盾兵を押し倒す威力を有していた。
このままでは遠距離から一方的に攻撃を受け続けるだけである。クリスは声を上げた。
「全軍前進! 間合いを詰めて攻撃を仕掛けろ!」
クリスの指示に、大盾兵達は立ち上がり、走り始めた。
そんな中、足の速いディーノはすぐに先頭に出た。
ディーノはどんどん前へ行き、ジェイクのように一人突出する形になった。それはディーノがジェイクに対し一騎打ちを仕掛けているようにも見えた。
大盾兵と足並みが揃っていない事は分かっていた。しかし、ディーノは速度を落とそうとはしなかった。
寄って槍斧を振るう、ディーノにはそれしか無いのだ。
◆◆◆
ジェイクの放った凄まじい光弾と、突撃するディーノの姿を見て、クラウスは声を上げた。
「まずい! ディーノ殿を止めないと!」
「どういうことだ、クラウス!」
尋ねるアランに、クラウスは早口ぎみに答えた。
「あやつに無策で近づいてはなりません! 光弾も脅威ですが、近距離においてはより強力な魔法があやつにはあるのです!」
これを聞いたアランは後方に控える兵士達の方に振り返り、声を上げた。
「全員聞いたな! これより我が隊はディーノの援護に向かう! 行くぞ!」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
蔑まされた没落貴族家の悪役令嬢ですが、この舞台の主役は私がやらせていただきます!
あぷりこっと
恋愛
「君の嫉妬深さにはもう辟易しているんだ」
婚約者のハイベルクにそう告げられた瞬間、レーウは確信した。
――計画通り。
何も知らない侯爵令嬢ランダ。王国最強と謳われた騎士団長ハイベルク。彼がその双剣を振るう相手を間違えた時、破滅のカウントダウンは始まった。
世間がレーウを嫉妬に狂った没落家の伯爵令嬢と蔑んでいる間、彼女は自警団と共に貴族院の秘密を暴き敵の逃げ場を奪い続けていた。
格安警備会社へのすり替え、配電盤の掌握、そして夜視の魔導具。
感情を切り捨て毒となった令嬢が公爵邸舞踏会を、社会的抹殺の舞台へと変える。
「不運と踊る?……いいえ。私に踊らされていたのだと、地獄で気づきなさい!!」
※ヒロインの活躍が凛々しいので応援してください♪
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
黄金の魔族姫
風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」
「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」
とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!
──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?
これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。
──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!
※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。
※表紙は自作ではありません。
ボンクラ王子の側近を任されました
里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。
義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。
王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?
「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。
秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。
「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」
第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。
着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。
「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。
行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。
「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」
「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」
氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。
一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。
慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。
しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。
「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」
これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる


