398 / 586
第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十六話 暴風が如く(10)
しおりを挟む
「!」
そして直後、リックの背中に悪寒が走った。
その原因は既に視界の中にあった。
拘束されている左腕をへし折らんと、女の左掌底打ちが迫ってきている。
これをリックは同じ形で、右掌底で迎え撃った。
双方の輝く手の平がぶつかり合い、光の粒子が散る。
防御魔法のぶつけ合いのように、互いの魔力が競り合う。
最後に母とこのような競り合いをした時はどちらに軍配が上がったのか、それを思い出したリックは、即座に両足の中で星を輝かせた。
後方に全力で跳んでこの拘束を強引に解除する、リックはそう考えたのだが、
「っ!」
直後、思わず歯を食いしばる痛みが左爪先から走った。
女の輝く右足に踏まれたのだ。
そして、女が右足を振り下ろしたがゆえに、この時点で拘束は解除。
しかし、リックの両足は既に後ろに跳ぼうと踏ん張り始めている。力の向きに前に変えられない。拳を差し込むための前傾姿勢が取れない。
ならば、と、リックは左拳に込めていた魔力で光弾を形成しようとした。
しかし直後、女はそれに反応し、動いた。
飛び道具を放とうとしているリックの左腕を右手で押しのけながら、踏みつける右足はそのままに、左足を使って半歩踏み込む。
射線を完全に外し、安全を確保したと同時に、右手を前に。
そして女は掌底打ちの要領でリックの肩を押すと同時に、襟を掴んだ。
女が、偉大なる者が見せようとしている技、それは失われた技術の一つ。柔術に属するもの。
確かに、防御魔法で簡単に拘束を外せる魔法使い相手には難しい。
しかしそれはあくまでも長く拘束する場合に限る話。
相手の重心を崩す、支点を制御するために一瞬押す、という手は普通に通じる。
だが、相手を掴む、相手に手を伸ばして触れるのであれば、掴むよりも魔力を込めた一撃を叩き込んだほうが有利になることの方が多い。
なれど、魔力が使えない、魔力を拳に込めるのが間に合わないという場面では依然有効なのだ。
そして、柔術とはすなわち力学である。
その基本となるものは有名な「てこの原理」から容易に理解出来る。
「てこの原理」とは棒を使って重いものを軽く動かすための技術。
やり方は単純。まず長さと強度のある棒を動かす対象の下に差し込む。例えば岩とすると、地面との隙間に差し込めばいい。これが力がかかる場所、「作用点」となる。
次にその作用点の出来るだけ近く、棒を支えるように下に硬いものを設置する。これが「支点」となる。
そして最後に、作用点とは反対側の棒の末端を手で握り、下に力を加える。ここが「力点」となり、これで「てこの原理」は成立する。
重要なのは各点間の距離である。力点に加えた力が作用点にどのように伝わるのか、どれだけの力が作用点に加わるのかは、この距離関係によって決まり、それは比例関係になる。
例えば、支点から作用点までの長さが1、支点から力点までの長さが6であった場合、作用点に加わる力は力点に加えた力の6倍となる。
「作用点」、「支点」、そして「力点」、これがまず第一に意識すべきもの。
そしてもう一つ重要なのは、支点を軸として力の向きを変えることが出来る、すなわち回転させられるということ。
女は、偉大なる者は、その関係を経験でよく知っていた。
どうすれば簡単に相手を回転させられるのか、ということを良く知っていた。
作用点は掴んでいる襟。支点は競り合っている左手と踏みつけている足。そして力点は自身の体重を最もかけやすい箇所、すなわち重心。我々が知る柔道では支点は袖を掴む引き手となることが多い。
そして支点が安定せずとも、作用点から力点までの距離が長いほどに単純に有利になる。だから女は、偉大なる大魔道士は勢い良く腕を伸ばして突き飛ばすと同時に、掴んだのだ。
そして直後、偉大なる者はその技を見せた。
まるで背後にある見えない椅子に座ろうとするかのように腰を落としたと同時に、踏んでいる足を離し、リックの体を引き込む。
支点から感じる力の向き、それが上向いたのと同時に、相手を肩の上に担ぐように上半身を捻る。
「!?」
突如身を包んだ無重力感にリックの目が見開く。
しかしリックの本能もまた、ただならぬものであった。
リックの本能は一瞬で支点制御が重要であることを理解し、競り合いをしている手を振りほどいた。
だが、既に手遅れ。
もはやその支点が無くとも、投げ飛ばせるほどの勢いがついている。
だが、今の女に「投げ飛ばしてあげる」などという優しい考えは無かった。
女の意思は襟を掴む手から伝わり、「受身も取れないように――」という文面から始まった。
無重力感と共にリックの視界が上昇し、女の背中を、肩を越える。
そして感覚が落下に変わった直後、襟から先の言葉の続きが響いた。
「――脳天から地面に叩きつける」、と。
そして直後、リックの背中に悪寒が走った。
その原因は既に視界の中にあった。
拘束されている左腕をへし折らんと、女の左掌底打ちが迫ってきている。
これをリックは同じ形で、右掌底で迎え撃った。
双方の輝く手の平がぶつかり合い、光の粒子が散る。
防御魔法のぶつけ合いのように、互いの魔力が競り合う。
最後に母とこのような競り合いをした時はどちらに軍配が上がったのか、それを思い出したリックは、即座に両足の中で星を輝かせた。
後方に全力で跳んでこの拘束を強引に解除する、リックはそう考えたのだが、
「っ!」
直後、思わず歯を食いしばる痛みが左爪先から走った。
女の輝く右足に踏まれたのだ。
そして、女が右足を振り下ろしたがゆえに、この時点で拘束は解除。
しかし、リックの両足は既に後ろに跳ぼうと踏ん張り始めている。力の向きに前に変えられない。拳を差し込むための前傾姿勢が取れない。
ならば、と、リックは左拳に込めていた魔力で光弾を形成しようとした。
しかし直後、女はそれに反応し、動いた。
飛び道具を放とうとしているリックの左腕を右手で押しのけながら、踏みつける右足はそのままに、左足を使って半歩踏み込む。
射線を完全に外し、安全を確保したと同時に、右手を前に。
そして女は掌底打ちの要領でリックの肩を押すと同時に、襟を掴んだ。
女が、偉大なる者が見せようとしている技、それは失われた技術の一つ。柔術に属するもの。
確かに、防御魔法で簡単に拘束を外せる魔法使い相手には難しい。
しかしそれはあくまでも長く拘束する場合に限る話。
相手の重心を崩す、支点を制御するために一瞬押す、という手は普通に通じる。
だが、相手を掴む、相手に手を伸ばして触れるのであれば、掴むよりも魔力を込めた一撃を叩き込んだほうが有利になることの方が多い。
なれど、魔力が使えない、魔力を拳に込めるのが間に合わないという場面では依然有効なのだ。
そして、柔術とはすなわち力学である。
その基本となるものは有名な「てこの原理」から容易に理解出来る。
「てこの原理」とは棒を使って重いものを軽く動かすための技術。
やり方は単純。まず長さと強度のある棒を動かす対象の下に差し込む。例えば岩とすると、地面との隙間に差し込めばいい。これが力がかかる場所、「作用点」となる。
次にその作用点の出来るだけ近く、棒を支えるように下に硬いものを設置する。これが「支点」となる。
そして最後に、作用点とは反対側の棒の末端を手で握り、下に力を加える。ここが「力点」となり、これで「てこの原理」は成立する。
重要なのは各点間の距離である。力点に加えた力が作用点にどのように伝わるのか、どれだけの力が作用点に加わるのかは、この距離関係によって決まり、それは比例関係になる。
例えば、支点から作用点までの長さが1、支点から力点までの長さが6であった場合、作用点に加わる力は力点に加えた力の6倍となる。
「作用点」、「支点」、そして「力点」、これがまず第一に意識すべきもの。
そしてもう一つ重要なのは、支点を軸として力の向きを変えることが出来る、すなわち回転させられるということ。
女は、偉大なる者は、その関係を経験でよく知っていた。
どうすれば簡単に相手を回転させられるのか、ということを良く知っていた。
作用点は掴んでいる襟。支点は競り合っている左手と踏みつけている足。そして力点は自身の体重を最もかけやすい箇所、すなわち重心。我々が知る柔道では支点は袖を掴む引き手となることが多い。
そして支点が安定せずとも、作用点から力点までの距離が長いほどに単純に有利になる。だから女は、偉大なる大魔道士は勢い良く腕を伸ばして突き飛ばすと同時に、掴んだのだ。
そして直後、偉大なる者はその技を見せた。
まるで背後にある見えない椅子に座ろうとするかのように腰を落としたと同時に、踏んでいる足を離し、リックの体を引き込む。
支点から感じる力の向き、それが上向いたのと同時に、相手を肩の上に担ぐように上半身を捻る。
「!?」
突如身を包んだ無重力感にリックの目が見開く。
しかしリックの本能もまた、ただならぬものであった。
リックの本能は一瞬で支点制御が重要であることを理解し、競り合いをしている手を振りほどいた。
だが、既に手遅れ。
もはやその支点が無くとも、投げ飛ばせるほどの勢いがついている。
だが、今の女に「投げ飛ばしてあげる」などという優しい考えは無かった。
女の意思は襟を掴む手から伝わり、「受身も取れないように――」という文面から始まった。
無重力感と共にリックの視界が上昇し、女の背中を、肩を越える。
そして感覚が落下に変わった直後、襟から先の言葉の続きが響いた。
「――脳天から地面に叩きつける」、と。
0
あなたにおすすめの小説
慈愛と復讐の間
レクフル
ファンタジー
とある国に二人の赤子が生まれた。
一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。
慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。
これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。
だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。
大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。
そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。
そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。
慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。
想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる