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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十八話 凶獣協奏曲(35)
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そして不運はさらに続いた。
「すまない。よくない知らせだ」
突如心に響いたのはあの男の声。
なんですか? とアルフレッドが聞き返すより早く、男は答えた。
「雲が再生を始めている」
なんだって? あの大被害でまだ活動できる? 男の声が信じられなかったアルフレッドは思わず見上げた。
それは本当だった。雲は腕を伸ばし、落ちた自身の破片を、雹を回収し始めていた。
なんてタフなやつだ、アルフレッドがそう思った直後、同意を示すかのように男の声が再び響いた。
「おそらくあいつ自身は大した攻撃能力を持たないが、そのかわり使役と修復能力に長けているのだろう」
男はそう言ったあと、少し間を置いてからアルフレッドに尋ねた。
「もう一度さっきの攻撃をやれるか?」
アルフレッドには即答できなかった。
デュランさんの大剣にはもう頼れない。
代わりになる武器を探す? しかしいつ見つかるのか、そもそもこの街にあるかどうかもわからない。
ならば、もっとも射程のあるベアトリスを上に飛ばす?
だが、何をやるにしても時間がいる。魔力と魂をもう一度貯めなければならない。
だからアルフレッドは、
「……わからない」
と答えた。
時間をくれとは言えなかった。次の攻撃の成功の自信が無かったからだ。
男はアルフレッドのこの返事を「できない可能性が高い」と受け取った。
だから男は即座に作戦を切り替えた。
「わかった。こちらは地上の敵の殲滅に移行――っ?!」
が、その指示を全体に伝える前に男は言葉を閉ざした。
なぜなら、
(この気配は!?)
ある大きな存在の気配を感じたからだ。
雲のような化け物では無い。
しかしある意味で怪物の気配。
遠くからでもはっきりわかる、圧倒的魔力の気配。
これは?! まさか!?
男が、アルフレッドが、場にいる全員がそう思った直後、
「困っているようだから、助けてあげるわ」
その者の心の声が届いた。
それは間違いなく、知っている者の声だった。
だからアルフレッドはその者の名を響かせた。
「キーラさん!?」
魔王、とは呼ばなかった。
だが、異国の戦士達はみな知っていた。
だから男は言った。
「まさか、魔王が救援に駆けつけてくれるとはな。意外だがありがたい」
しかしキーラはその言葉に反応を示さず、淡々と声を響かせた。
「適当に蹴散らしながらそっちに向かうわ。少し待ってて」
適当に蹴散らす、その言葉の通りのことが直後に始まった。
次々と爆音が響き始める。
爆発魔法の炸裂音。
その音は一直線に迫るように、連続で響き続けた。
爆発音と共に家屋が崩れていく。
進行上にいる邪魔者を建物ごと吹き飛ばしながらキーラはほぼ一直線に走っていた。
まさに言葉の通り、適当に蹴散らしながら、という感じであった。
自分たちがあれほど慎重に、遮蔽を活かしながら戦っていたのが馬鹿らしく思えるほど。
後方にキーラの部下らしき部隊の気配が感じられるが、キーラを追ってくる気配が無い。
一人でいい、ということなのだろうか。
しばらくして、キーラは一度も立ち止まらずに、アルフレッドのもとにたどり着いた。
アルフレッド達の時と同じように、階段を使わずに屋根上に跳び登る。
そしてキーラはアルフレッドの前に降り立った。
爆発の派手さで気づかなかったが、キーラは魔王らしいしもべを従えていた。
電撃魔法の糸で編まれた人形だ。
両肩にはカラスと思われる二羽の鳥型の獣が。
そして足元には二匹の狼の人形が主人を守るように付き従っていた。
アルフレッドがその魔王らしい立ち姿に目を奪われていると、キーラは口を開いた。
「ひさしぶりね。元気にしてた?」
それはこの状況では意外な、親しみを含んだ挨拶であった。
ゆえに、
「あ、はい。そちらもお変わり無さそうで何よりです」
アルフレッドは上手い返しが思いつかず、その返事は少しおかしなものになってしまった。
そのおかしさに、キーラは薄い笑みを浮かべながら口を開いた。
「フフ。ありがと」
挨拶をすませたキーラはベアトリスのほうに視線を移し、尋ねた。
「お嬢さん、ちょっとそれ、貸してくれないかしら?」
「すまない。よくない知らせだ」
突如心に響いたのはあの男の声。
なんですか? とアルフレッドが聞き返すより早く、男は答えた。
「雲が再生を始めている」
なんだって? あの大被害でまだ活動できる? 男の声が信じられなかったアルフレッドは思わず見上げた。
それは本当だった。雲は腕を伸ばし、落ちた自身の破片を、雹を回収し始めていた。
なんてタフなやつだ、アルフレッドがそう思った直後、同意を示すかのように男の声が再び響いた。
「おそらくあいつ自身は大した攻撃能力を持たないが、そのかわり使役と修復能力に長けているのだろう」
男はそう言ったあと、少し間を置いてからアルフレッドに尋ねた。
「もう一度さっきの攻撃をやれるか?」
アルフレッドには即答できなかった。
デュランさんの大剣にはもう頼れない。
代わりになる武器を探す? しかしいつ見つかるのか、そもそもこの街にあるかどうかもわからない。
ならば、もっとも射程のあるベアトリスを上に飛ばす?
だが、何をやるにしても時間がいる。魔力と魂をもう一度貯めなければならない。
だからアルフレッドは、
「……わからない」
と答えた。
時間をくれとは言えなかった。次の攻撃の成功の自信が無かったからだ。
男はアルフレッドのこの返事を「できない可能性が高い」と受け取った。
だから男は即座に作戦を切り替えた。
「わかった。こちらは地上の敵の殲滅に移行――っ?!」
が、その指示を全体に伝える前に男は言葉を閉ざした。
なぜなら、
(この気配は!?)
ある大きな存在の気配を感じたからだ。
雲のような化け物では無い。
しかしある意味で怪物の気配。
遠くからでもはっきりわかる、圧倒的魔力の気配。
これは?! まさか!?
男が、アルフレッドが、場にいる全員がそう思った直後、
「困っているようだから、助けてあげるわ」
その者の心の声が届いた。
それは間違いなく、知っている者の声だった。
だからアルフレッドはその者の名を響かせた。
「キーラさん!?」
魔王、とは呼ばなかった。
だが、異国の戦士達はみな知っていた。
だから男は言った。
「まさか、魔王が救援に駆けつけてくれるとはな。意外だがありがたい」
しかしキーラはその言葉に反応を示さず、淡々と声を響かせた。
「適当に蹴散らしながらそっちに向かうわ。少し待ってて」
適当に蹴散らす、その言葉の通りのことが直後に始まった。
次々と爆音が響き始める。
爆発魔法の炸裂音。
その音は一直線に迫るように、連続で響き続けた。
爆発音と共に家屋が崩れていく。
進行上にいる邪魔者を建物ごと吹き飛ばしながらキーラはほぼ一直線に走っていた。
まさに言葉の通り、適当に蹴散らしながら、という感じであった。
自分たちがあれほど慎重に、遮蔽を活かしながら戦っていたのが馬鹿らしく思えるほど。
後方にキーラの部下らしき部隊の気配が感じられるが、キーラを追ってくる気配が無い。
一人でいい、ということなのだろうか。
しばらくして、キーラは一度も立ち止まらずに、アルフレッドのもとにたどり着いた。
アルフレッド達の時と同じように、階段を使わずに屋根上に跳び登る。
そしてキーラはアルフレッドの前に降り立った。
爆発の派手さで気づかなかったが、キーラは魔王らしいしもべを従えていた。
電撃魔法の糸で編まれた人形だ。
両肩にはカラスと思われる二羽の鳥型の獣が。
そして足元には二匹の狼の人形が主人を守るように付き従っていた。
アルフレッドがその魔王らしい立ち姿に目を奪われていると、キーラは口を開いた。
「ひさしぶりね。元気にしてた?」
それはこの状況では意外な、親しみを含んだ挨拶であった。
ゆえに、
「あ、はい。そちらもお変わり無さそうで何よりです」
アルフレッドは上手い返しが思いつかず、その返事は少しおかしなものになってしまった。
そのおかしさに、キーラは薄い笑みを浮かべながら口を開いた。
「フフ。ありがと」
挨拶をすませたキーラはベアトリスのほうに視線を移し、尋ねた。
「お嬢さん、ちょっとそれ、貸してくれないかしら?」
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