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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十八話 凶獣協奏曲(34)
しおりを挟む「よし!」
その成果にアルフレッドは思わず声を上げた。
やったぞ、そんな異国の戦士達の心の声も下から響いた。
「デュランさん!」
そんな声の中でベアトリスはデュランの名を叫んだ。
彼の安全な着地をもってようやく成功、喜ぶのはその後、そんな思いが含まれていた。
確かにその通りだ、アルフレッドはそんな同意の声を響かせながらデュランを見上げた。
やはり危険な高さ、それは間違い無かった。
自分でも無傷ですむかどうか怪しい高度。
だからアルフレッドは叫んだ。
「頼むベアトリス!」
頼まれるまでも無く、すでにベアトリスは槍を上に構えていた。
意識が交錯し、デュランが大剣を下に構える。
そしてベアトリスの槍先がデュランの重心をとらえた瞬間、
(ここだぁっ!)
ベアトリスは槍先を輝かせた。
閃光がデュランを下から突き上げ、落下速度を殺す。
しかしその閃光はすぐに細まり、そして掻き消えた。
(ゴメン、魔力切れ!)
ベアトリスのその心の叫びが響くと同時にアルフレッドは両手を上に向けた。
狙いを定め、光弾を連射開始。
アルフレッドの光弾に重心を正確に狙えるほどの精度は無かった。
だが、今は少々弾いてもいい、それよりも落下速度を少しでも落とすことのほうが重要、アルフレッドはそう判断した。
光弾が次々とデュランの大剣に着弾する。
が、
「――ッ! くそっ!」
歯を食いしばりながら連射していたアルフレッドであったが、その連射は自分への悪態と共に中断された。
地を蹴り、その場から離れる。
デュランが真上に降ってきたからだ。
もう限界、離れなければ潰される。
そんな思いと共にアルフレッドが地を蹴る音を響かせた直後、デュランは輝く左手を下に突き出した。
その手から防御魔法が展開される。
デュランは突き出した勢いのままに、光の傘を真下に投げるように切り離した。
投げられた防御魔法が平屋根に叩きつけられる。
そしてデュランはその光の傘の中心に向かって光る大剣を、
「シィッヤァッ!」
突き立てた。
光る刃が光の傘を貫き、屋根に深々と突き刺さる。
「ミシリ」という音と共に、突き刺した箇所からひび割れが走り、伸び広がる。
次の瞬間、貫かれた光の傘は白いカマイタチに転じた。
白い刃が裂け目を食い破り、押し広げる。
ひび割れはさらに複雑に広がり、そして崩壊した。
屋根に穴が開き、崩落音と共にデュランの姿が下に消える。
「デュランさん!」
大丈夫ですか?! という思いを込めてアルフレッドが穴から呼び声を響かせる。
覗き込むと、目が合った。
転がって受け身を取ったらしく、デュランは三階の床にうずくまっていた。
デュランは目を合わせたまま立ち上がり、答えた。
「俺は大丈夫だ。だが――」
答えながらデュランは視線を下に向けた。
だが? その答えは視線の先にあった。
デュランの右手にある剣は中ほどで折れていた。
しかし、綺麗に折れていてくれればまだ使えるはず。
アルフレッドはそんな期待を抱いたが、直後のデュランの言葉がそれを否定した。
「こいつはダメだった」
よく見ると、刀身全体に亀裂が走っていた。
これでは魔力を通せない。もしも通せば亀裂から爆発するように砕けてしまう。
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