Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十八話 凶獣協奏曲(36)

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 自分のほうに意識が向いていることを感じ取っていたゆえに、ベアトリスは即座に返事を返せた。

「ええ、いいですよ。ちょっと待ってくださいね。外しますので」
 
 装備の解除はすぐに終わった。

「どうぞ」

 ベアトリスが投げるような仕草をすると、髪と果実で出来たその奇妙な装備はその大きさに似合わず軽やかに、ふわりと宙を舞った。
 まるで意思を持った巨大なマントが主人の背に羽織ろうとするかのように、キーラの背に舞い降りる。

「装着完了。初期調整開始」

 装備から機械的な声が響き、キーラの感覚に変化が起き始める。
 射撃に関する感覚が調整され、補正され、研ぎ澄まされていく。
 さらに、装備はキーラの能力に合わせて変化を始めた。

「光魔法以外の魔法が使用可能であることを検知……炎魔法を確認……電撃魔法を確認……冷却魔法を確認。各種魔法に合わせて機能を拡張開始」

 そして装備はより深くキーラと繋がり始めた。
 キーラの頭に絡みついていた髪が、その触手をより深く中にもぐりこませる。
 触手は広く、根を張るように広がり、キーラの顔にまで及んだ。
 感知能力者にはそれはまるで、太い血管が浮き出ているように見えた。

「射手の得意魔法をもとに砲身の基礎理念を構築……完了……図面の作成を開始……完了……完成した図面をもとに展開開始」

 そして装備は変形を始めた。
 それは髪を糸として織物のようであった。
 髪が絡まり、編まれ、形作る。
 その髪の中にはキーラの両手の平から伸びた電撃魔法の糸も混じっていた。
 そしてその形は直前の言葉のとおり、砲身であった。
 キーラの目の前に筒が編まれていく。
 太く、そして長い。
 その砲身にはたくさんの付属品がついていた。
 電撃魔法の糸を何重にも重ねた太い巻き線。
 その何に使うのかわからぬ付属品は砲身の表面にびっしりと、先端までついていた。 
 わからぬのはそれだけでは無かった。
 手元側、特に砲身の根元付近はただの筒では無く、起伏の激しい複雑な形状に変化し始めた。
 複雑な魔力の回路が組まれていることが感じ取れる。
 しかしそれ以上のことはわからぬまま、砲身は変化を終えた。

「展開完了。初期調整も終了。魔力蓄積中……」

 装備に魔力が満ち、淡く光り始める。
 その光が強まり、目に少し痛いほどになった瞬間、

「魔力蓄積率、九割を突破。発射準備完了」

 完了の声が響き、キーラは両手を雲に向かって突き出し、構えた。
 砲身は腕と一体化しているらしく、連動して同じ方向に向いた。
 間も無く、キーラの両手から一つの赤い球が、爆発魔法が産み出された。
 その球には、電撃魔法の線が巻き付いていた。
 球は膨らみ、あっという間に砲身の口径と同じ大きさになった。
 同時に、砲身内の魔力にも動きがあった。
 魔力回路が切り替わり、接続され、キーラの手元に光が集まり始めた。
 何が起きているのか、それを唯一理解しているキーラは、その感覚の力強さから声を上げた。

「良い感じだわ。一撃目から派手にいくわよ!」

 そして言葉通りそれを派手に、爆発音と共に発射した。 

「!」

 瞬間、アルフレッドは感じ取った。
 この爆発は球を勢いよく発射するためのもの。
 そしてその発射の爆発と同時に、手元に集まっていた魔力が防御魔法を自動で展開し、その手を衝撃から守ったのを。
 さらに驚いたのはそれだけでは無かった。
 砲身の付属品が作動し、巻き線から力場が生じたのだ。
、球に巻き付いている線からも同じ力場が放たれており、同じ力であるゆえに双方はぶつかり合い、その押し合いの反動によって球はさらに加速した。
 付属品の巻き線は砲身内を走る球を追いかけるように次々と連続して作動し、球に後方から力を与え続けた。
 そしてその速度が、およそ人の手だけでは成しえないものに達した瞬間、球は砲身から飛び出した。
 凄まじい速度。瞬く間に視界の中で点になる。
 そして雲に吸い込まれそうになった瞬間、それは弾けた。
 そして生じたのは赤い槍。
 一点に収束された爆発の力が、まさしく槍のように雲に突き刺さる。
 数瞬、雲は槍に吸い込まれるようにねじれる動きを見せたあと、赤い光と共に吹き飛んだ。

「「「っ!」」」

 轟音が天を揺らし、地上にいるアルフッド達の耳を打つ。
 そしてあとには大穴が残った。
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