Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第二章 アリスは不思議の国にて待つ

第十四話 奇妙な再戦(1)

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   ◆◆◆

  奇妙な再戦

   ◆◆◆

 シャロン軍と魔王軍は同時に動き出したように見えた。
 正確にはシャロン軍が先であった。
 しかし魔王軍はシャロン軍の部隊編成の動きを即座に察知し、対応した。
 ゆえに同時に見えるほどの速さ。
 魔王軍は持ち前の機動力を活かし、部隊が完全に編成される前に襲撃しようとした。
 が、シャロン軍の手際はそれ以上であった。
 小部隊では奇襲が困難なほどの中隊を、即座に各地で編成したのだ。
 そしてシャロン軍は合流に向けて移動を開始。
 これを阻止しようと魔王軍の前線部隊は攻撃をしかけたが、短時間の足止めにしかならなかった。
 その部隊の中にはオレグもいた。にもかかわらずだ。
 オレグの戦闘力をもってしても少数では大した成果を得られなかった。被害のほうが大きいほどであった。
 それには理由があった。
 その理由も即座に全体に周知された。
 が、魔王軍はそれに対して有効な対策を立てることが出来なかった。時間が無かった。
 だから魔王軍は待ち受けることにした。
 大編成の部隊が通れるような道は閉鎖している。要塞を築いている。
 その要塞に魔王軍は部隊を集めた。
 そして両軍はその要塞で相対することになった。

   ◆◆◆

「「「……」」」

 魔王軍の兵士達は息を潜めて戦いの始まりを待っていた。
 兵士達は要塞の窓から遠くに展開しているシャロン達の様子を見つめていた。
 近づいて来い、兵士達はみなそう思っていた。
 兵士達はみな要塞の防御に自信を持っていた。
 道をふさぐ壁のような形であり、三階建て。
 屋上には大砲が並んでおり、その高さによる射程の有利を活かした先制攻撃が可能。
 一階と二階では窓から魔法使い達がにらみをきかせている。
 ほとんどが銃を装備している。魔法の威力と射程に自信があるものだけが素手だ。
 右は崖のような岩棚、左は木が密集した斜面、要塞自体もこの斜面の上にある。
 待ち受けるには最適と呼べる地形。
 岩棚の上にも要塞の延長のような建造物があり、そこにも大砲が並んでいる。
 まさに鉄壁と呼べる防御陣地。
 正面から挑むこと自体が愚か者の証明、そう思えるほど。
 魔王でも正面からは突破出来ないように作り上げた要塞。
 だから魔王軍の兵士達は自信を持っていた。
 しかし不気味でもあった。
 こんな要塞に相手が正面から堂々と来たこと自体がそうであったが、なにより相手が一向に攻めてこないのがなお不気味であった。
 何かを待っている? ある一人がそう思った直後、別の一人が声を上げた。

「何だあれは!」

 それはシャロン達の後方から現れた。
 そしてそれがなんなのかは、見れば一目瞭然の代物だった。
 だが信じたく無かった。自分の目を疑いたかった。だから「なんだあれは」と叫んだ。
 しかしその者の目が正常であることは、直後の叫びで明らかになった。

「ばかでかい大砲だ!」

 魔王軍の大砲の数倍、いや、五倍はある代物。
 引っ張って運んでいる家畜と人が哀れに見えるほどであった。

 その設計思想は至極単純であった。
 火薬量と弾丸の重量を増やして威力を上げつつ、砲身をできるだけ長くして弾丸の加速時間を増やし、射程を伸ばす。ただそれだけ。
 それは後にこの世界で「スーパーガン」と呼ばれる巨大大砲の先駆けと呼べる代物であった。

 そんな大砲が五門ならんでいるその様は、まさに威容であった。
 見た目も奇妙。
 砲身が長すぎるゆえ、それを支えるために足のような台座が一定間隔ごとに複数ついている。
 まるでムカデのよう。
 そしてその奇妙で異常な大砲は、シャロン達の後方で止まった。
 なぜそこで止まったのか、その理由は考えずとも分かることであったが、誰も言葉にはしようとしなかった。
 こちらは射程外の距離だからだ。反撃できないからだ。
 もしもそれを言葉にすればたちまち現実になってしまう、そんな子供じみた恐怖がみなの口を閉ざしていた。
 が、

「撃ってくるぞ!」

 我慢できなくなったある者がついにそれを叫んでしまった。
 直後にそれは現実になった。
 五門の巨大大砲が一斉に火を吹く。
 普通の砲台の数倍はあると思える轟音と共に、弾丸が発射される。

「……!」

 そして一人の感知能力者は高速演算による緩慢とした時間の中で見てしまった。
 飛来する弾丸を目で追えてしまった。
 だから気付いてしまった。直撃することに。
 近場の物陰に隠れても助からない威力、そこまで理解できてしまった。
 ゆえにその緩慢な時間は最期の時間であったのだが、かみ締めるには短すぎた。
 唯一できたことは、

「「「ぅあああぁっ!」」」

 他の者と同じような悲鳴を上げることだけだったが、それすらも直撃の轟音にかきけされてしまった。
 そしてこの第一斉射だけで、要塞は壁の役目を果たせないほどに風通しがよくなってしまった。
 その威力に動揺の声が上がり始めた直後に、二度目の一斉射撃。

「「「―――っ!」」」

 今度は悲鳴も上がらなかった。
 みな自分の身を守ることで精一杯であった。
 みなどうしたらいいのかわからなくなっていた。
 だが、冷静なある一人が叫んだ。

「このままじゃ撃たれっぱなしだ! こっちから――っ!?」

 こっちから近づかないと。肝心なその台詞を言い切ることはできなかった。その声は轟音の中に魂ごと消えた。
 射程で負けているのだから接近するしか無い、それは言われずとも普通はわかることであったが、場には恐怖と混乱しか無かった。
 誰かが統率して部隊を再編し、要塞から討って出なければならない。
 みな、そんな勇気ある誰かの声を待っていた。みな、恐怖のせいで受身になっていた。
 しかしそんな勇気ある声はどれだけ待っても上がらなかった。
 響くのは耳に痛い轟音のみ。
 瓦礫の下敷きになって命が次々と消えていき、恐怖が感染するように広がって増幅する。

「……」

 巨大大砲の技術者であり、指揮官でもあるルイスは満足した様子でそれを感じ取っていた。
 そして岩棚の上の砲台まですべて破壊されたのを感じ取ったルイスは、

「もう十分だ。撃ち方やめ」

 巨大大砲の射撃を中止し、

「前二列の部隊は突撃を開始。通常の大砲部隊も追従し、歩兵を援護しろ」

 制圧前進を開始させた。
 そしてしばらくして通常の砲撃音と、銃撃の音が場に響き始めた。
 しかしその音はどれもこちらの攻撃音ばかり。
 必死の抵抗の銃撃もあったが、悲鳴のほうがはるかに大きい有様。
 既に魔王軍は壊走を始めている。戦いは既に一方的だ。

「……」

 総大将であるシャロンはその様子を冷めた目で見ていた。
 こんなにもあっけないものなのか、そんな落胆の色がその目には滲んでいた。
 しかしそれだけが理由では無かった。
 シャロンはロマンチストであり、それを自覚している。
 だからであった。
 これからの時代、戦場からロマンは消えていくのだろう、そんな思いがシャロンの中に生まれていた。
 強力な兵器を撃ち合うだけ。それで戦いはほぼ決着し、歩兵の仕事はゴミ掃除のような最後の制圧のみ。
 戦いとは相対した時点で勝敗が決していると言うが、こういう形でその言葉が表現される未来は望んでいなかった。

「……」

 だからシャロンは勝利の余韻に浸ることは出来なかった。

 シャロンは間違っていた。
 ロマンはまだ消えていないのだ。
 後に「死神部隊」や「地獄の壁」などと呼ばれる歩兵部隊や、「魔弾の使い手」などと呼ばれる狙撃主が誕生するのだ。
 それは少し未来の話であるが、現在にもロマンを生み出せる怪物は揃っている。
 次の戦いで、そのうちの一人にそのロマンを魅せつけられることになるとは、このときのシャロンは予想だにもしていないのであった。
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