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第三章
そしてテープは回り始める 11
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「待って! 今それ引っぺがすから!」
言うが早いか、煌津の手が那美の体を締め付ける影を掴むと、ビリビリと紙でも破くかのように次々と剥がしていく。
「はあ、はあ、はあ……。無事? 九宇時さん」
「穂結君……どうして」
「ビデオだ。ビデオを体の中に入れたら――」
白い腕の群れが、煌津の後ろに迫っていた。
「穂結君!」
那美の声に反応した煌津が、千恵里を抱えてくるりと身を翻す。リボルバーが火を噴いた。白い腕が弾け飛ぶ。
「危ない、九宇時さん!」
背後に迫っていた影を煌津の放った包帯が切り裂く。同時に煌津の腕が那美を抱え、軽々と跳躍する。
中華料理屋の屋根に着地し、煌津は那美と千恵里を下ろす。
「穂結君、その姿は……」
「俺にもよくわからないんだ。何だか死にそうだったんだけど、ビデオデッキが体に出来たから、ビデオ入れてみたらこんな感じに」
「何を言っているんだか……」
もっと詳しく聞きたいところだったが、いかんせん今はタイミングが悪い。影の群れが屋根の上に這い上ってきている。その後ろに白い腕を伸ばし、触媒にされた柳田先生の体が浮かんでいる。巨大な顔面は、那美と煌津の側面を狙うかのように、中華料理屋の横から上がってきた。
千恵里が怯えながら、那美の後ろに隠れる。
「どうすればいい」
煌津の問いに、那美は一瞬判断を迷った。
いや、しかし。今は任せるしかない。
「――穂結君、時間を稼いで」
手早くリロードしながら、那美は言った。
「とにかく奴らの気を引けばいいって事?」
「そう。二種の我留羅に、邪念の群れ。一体一体を狙って祓っていたら、その間にやられてしまう。浄力を高めて、三つとも同時に祓うの」
銃を一度ホルスターに収めて、両手を空ける。
「この術は邪魔されたら完成しない。悪いけど、体張って頑張って。穂結君」
「……了解。とにかく、時間を稼ぐよ」
「よし」
バン! と那美は煌津の背中を叩いた。
「痛ぁっ!?」
「行け!」
泣きそうな目をしながらも、煌津は勢いそのまま黒い影の群れに飛び込んでいく。
「そのまま隠れていて。千恵里ちゃん」
那美の言葉に、足元で少女がこくりと頷き、その姿を消す。
巨大な顔面のにやにや笑いが、こちらに向けられている。だが、那美は気にしていなかった。祓いを行うのに、余計な気は不要だ。
右手の人差し指と中指を伸ばし、刀印を作る。深呼吸をして、晴明桔梗の形に空を切る。右手と左手を組み合わせて獨古印を作り、左足から前に踏み出す。
「臨――」
言うが早いか、煌津の手が那美の体を締め付ける影を掴むと、ビリビリと紙でも破くかのように次々と剥がしていく。
「はあ、はあ、はあ……。無事? 九宇時さん」
「穂結君……どうして」
「ビデオだ。ビデオを体の中に入れたら――」
白い腕の群れが、煌津の後ろに迫っていた。
「穂結君!」
那美の声に反応した煌津が、千恵里を抱えてくるりと身を翻す。リボルバーが火を噴いた。白い腕が弾け飛ぶ。
「危ない、九宇時さん!」
背後に迫っていた影を煌津の放った包帯が切り裂く。同時に煌津の腕が那美を抱え、軽々と跳躍する。
中華料理屋の屋根に着地し、煌津は那美と千恵里を下ろす。
「穂結君、その姿は……」
「俺にもよくわからないんだ。何だか死にそうだったんだけど、ビデオデッキが体に出来たから、ビデオ入れてみたらこんな感じに」
「何を言っているんだか……」
もっと詳しく聞きたいところだったが、いかんせん今はタイミングが悪い。影の群れが屋根の上に這い上ってきている。その後ろに白い腕を伸ばし、触媒にされた柳田先生の体が浮かんでいる。巨大な顔面は、那美と煌津の側面を狙うかのように、中華料理屋の横から上がってきた。
千恵里が怯えながら、那美の後ろに隠れる。
「どうすればいい」
煌津の問いに、那美は一瞬判断を迷った。
いや、しかし。今は任せるしかない。
「――穂結君、時間を稼いで」
手早くリロードしながら、那美は言った。
「とにかく奴らの気を引けばいいって事?」
「そう。二種の我留羅に、邪念の群れ。一体一体を狙って祓っていたら、その間にやられてしまう。浄力を高めて、三つとも同時に祓うの」
銃を一度ホルスターに収めて、両手を空ける。
「この術は邪魔されたら完成しない。悪いけど、体張って頑張って。穂結君」
「……了解。とにかく、時間を稼ぐよ」
「よし」
バン! と那美は煌津の背中を叩いた。
「痛ぁっ!?」
「行け!」
泣きそうな目をしながらも、煌津は勢いそのまま黒い影の群れに飛び込んでいく。
「そのまま隠れていて。千恵里ちゃん」
那美の言葉に、足元で少女がこくりと頷き、その姿を消す。
巨大な顔面のにやにや笑いが、こちらに向けられている。だが、那美は気にしていなかった。祓いを行うのに、余計な気は不要だ。
右手の人差し指と中指を伸ばし、刀印を作る。深呼吸をして、晴明桔梗の形に空を切る。右手と左手を組み合わせて獨古印を作り、左足から前に踏み出す。
「臨――」
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