56 / 100
第三章
そしてテープは回り始める 12
しおりを挟む
両の掌から放たれる包帯を振り回して、向かってくる影の群れを薙ぎ払う。ダメージになっているのかいないのか、それさえわからないが、影の群れは意に介した様子もなく煌津に迫る。
「このっ!」
影の群れは壁のようになって、煌津の侵攻を防いでいた。その奥に、白い腕に憑りつかれた柳田先生の体が浮かんでいる。
「先生……!」
包帯攻撃だけでは埒が明かない。何かほかの攻撃方法がないと……!
「いや待て……確か」
煌津は訓練場での光景を思い出す。あの時の包帯のヒトガタの攻撃。巨大な爪のような――
「うまく、造り出すんだ。あの爪――」
鋭い影の一撃を何とか躱す。隙が見えた。今、ここで切り込めれば!
思わず腕を横薙ぎにすると、まるで獣が切り裂いたかのように、影が無残に散った。
気が付けば、煌津の両手は幾重もの包帯が巻き付き、鋭い爪を形成していた。
「俺が思い描けば、その通りに動くのか!」
――カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。
近付いてくる影を煌津は勢い爪で一突きにする。喉が潰れたような声を上げて、影が霧散していく。だが、影の壁はまだ高い。それに囲まれたら、今の煌津は一瞬で終わりだろう。
「もっと、何か違うものがいる。攻撃だけじゃない、もっと違う要素が……」
下腹部に出現したビデオデッキに目をやる。【再生】ボタン以外にも色々とあるが、どういう機能を持つかはわからない。
――ヒュッ! 影が前方から背後から、双方向から迫ってくる。戦いは考える暇を与えてはくれない。長い爪で双方の影を打ち払う。その瞬間、全く別の方向から、三本目の影が煌津の首を狙ってきた。
「やばい!」
咄嗟に、ビデオデッキのどこかのボタンを押した。
【早送り】
ビデオデッキが、またも言葉を発した。
次の瞬間、煌津は自分の知覚が引き伸ばされるような感覚に陥った。周囲の動作が極端に遅くなり、自分の動きだけがそのままであるかのような感覚。首に迫ってきた影を爪の横薙ぎでぶった切り、勢いそのまま三つの影の根元を蹴り飛ばす。思考よりも早く体が動き、本能的に影で形作られた壁の中へと飛び込み、爪でその根元を抉り、蹴り飛ばし、ガラス片のように飛び散る影の破片を視界の端に認めながら、次々と叩き壊していく。ただ影の群れを蹴散らすためだけに、再び地面に下りると、柳田先生に憑りつく白い腕の根元まで駆け寄る。
「ははっ――!」
笑いが止まらない。自分の中にこれほどの破壊欲求が潜んでいたのかと驚くほど、手早く、力強く影を蹴散らしていく。
【停止】
ビデオデッキの声が、無慈悲に脳内に響く。
その瞬間、煌津は影の群れの真ん中に立ち尽くしていた。急激に酷使された筋肉は、千切れんばかりに悲鳴を上げ、そこから一歩も動く事は出来そうにない。
「このっ!」
影の群れは壁のようになって、煌津の侵攻を防いでいた。その奥に、白い腕に憑りつかれた柳田先生の体が浮かんでいる。
「先生……!」
包帯攻撃だけでは埒が明かない。何かほかの攻撃方法がないと……!
「いや待て……確か」
煌津は訓練場での光景を思い出す。あの時の包帯のヒトガタの攻撃。巨大な爪のような――
「うまく、造り出すんだ。あの爪――」
鋭い影の一撃を何とか躱す。隙が見えた。今、ここで切り込めれば!
思わず腕を横薙ぎにすると、まるで獣が切り裂いたかのように、影が無残に散った。
気が付けば、煌津の両手は幾重もの包帯が巻き付き、鋭い爪を形成していた。
「俺が思い描けば、その通りに動くのか!」
――カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。
近付いてくる影を煌津は勢い爪で一突きにする。喉が潰れたような声を上げて、影が霧散していく。だが、影の壁はまだ高い。それに囲まれたら、今の煌津は一瞬で終わりだろう。
「もっと、何か違うものがいる。攻撃だけじゃない、もっと違う要素が……」
下腹部に出現したビデオデッキに目をやる。【再生】ボタン以外にも色々とあるが、どういう機能を持つかはわからない。
――ヒュッ! 影が前方から背後から、双方向から迫ってくる。戦いは考える暇を与えてはくれない。長い爪で双方の影を打ち払う。その瞬間、全く別の方向から、三本目の影が煌津の首を狙ってきた。
「やばい!」
咄嗟に、ビデオデッキのどこかのボタンを押した。
【早送り】
ビデオデッキが、またも言葉を発した。
次の瞬間、煌津は自分の知覚が引き伸ばされるような感覚に陥った。周囲の動作が極端に遅くなり、自分の動きだけがそのままであるかのような感覚。首に迫ってきた影を爪の横薙ぎでぶった切り、勢いそのまま三つの影の根元を蹴り飛ばす。思考よりも早く体が動き、本能的に影で形作られた壁の中へと飛び込み、爪でその根元を抉り、蹴り飛ばし、ガラス片のように飛び散る影の破片を視界の端に認めながら、次々と叩き壊していく。ただ影の群れを蹴散らすためだけに、再び地面に下りると、柳田先生に憑りつく白い腕の根元まで駆け寄る。
「ははっ――!」
笑いが止まらない。自分の中にこれほどの破壊欲求が潜んでいたのかと驚くほど、手早く、力強く影を蹴散らしていく。
【停止】
ビデオデッキの声が、無慈悲に脳内に響く。
その瞬間、煌津は影の群れの真ん中に立ち尽くしていた。急激に酷使された筋肉は、千切れんばかりに悲鳴を上げ、そこから一歩も動く事は出来そうにない。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
バリキャリオトメとボロボロの座敷わらし
春日あざみ
キャラ文芸
山奥の旅館「三枝荘」の皐月の間には、願いを叶える座敷わらし、ハルキがいた。
しかし彼は、あとひとつ願いを叶えれば消える運命にあった。最後の皐月の間の客は、若手起業家の横小路悦子。
悦子は三枝荘に「自分を心から愛してくれる結婚相手」を望んでやってきていた。しかしハルキが身を犠牲にして願いを叶えることを知り、願いを断念する。個性的な彼女に惹かれたハルキは、力を使わずに結婚相手探しを手伝うことを条件に、悦子の家に転がり込む。
ハルキは街で出会ったあやかし仲間の力を借り、悦子の婚活を手伝いつつも、悦子の気を引こうと奮闘する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる