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第三章
そしてテープは回り始める 10
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「ノウマクサンマンダバサラダンセンダンマカロシャダヤソハタヤウンタラタカンマン」
真言を唱え、引き金を引く。少しでも浄力を付与するためだ。那美は店の外に飛び出していた。外では腹部から飛び出した白い腕が、樹の根のように支えとなり、空中に浮かんだ柳田先生の姿があった。
「何で見ている人がいるのかなああああああああ」
先日と同じように、スーツの悪霊は再び巨大な顔面の悪霊へと変化した。呪力が供給されている。あの時それなりに削り飛ばしたはずなのに。やはり、これは間違いなく。
「裏に誰かいる、か」
言いながらも、那美はリボルバーをぶっぱなし、跳躍する。あと少しのところで那美を掴み損ねた白い腕が、地面に激突する。
「あんたらを操っているのは誰だ? あいつか?」
答えが返ってくるはずもなく、多数の白い腕が迫ってくる。那美はシリンダー・ラッチを押す。イジェクター・ロッドを押し込んで排莢。同時に、ハゼランノヒメとフジバカマノヒメが那美の前に降り立ち、迫ってくる白い腕に対して、目にも止まらぬスピードで無数の矢を斉射する。
装填を終えると同時に、矢によって制圧された白い腕が折り重なって地面に落ちた。
「神の御息は我が息、我が息は神の御息なり。御息を以て吹けば穢れは在らじ。残らじ。阿那清々し、阿那清々し」
伊吹法の詞を唱え、リボルバーに息を吹きかける。浄力が高められたリボルバーが白く輝き、那美は素早く引き金を引いた。白い腕を形成する呪力が、那美の浄力によってゼロとなり、消し飛ばされていく。
かなり呪力を削ったはずだが、柳田先生の憑依はまだ解けていなかった。それに、さっきから戦闘に参加せず、不気味にこちらを見つめる巨大な顔……。
「あんたは何故動かない。私を倒す絶好の機会じゃないか」
巨大な顔面はにたりと笑う。
「何で見ている人がいるの――」
「猿芝居はよせ。見ているんだろう、その男の目を通して」
リボルバーの銃口を向ける。
巨大な顔面は口の端をつり上げて笑っていた。
「正体を見せないのなら――」
那美が引き金を引こうとしたその瞬間、手首に黒い影が絡み付いた。
「っ!?」
黒い影が那美の足元から吞み込もうとするかのように絡み付いていく。フジバカマノヒメとハゼランノヒメも同様だった。すでに緋袴のほとんどがコールタールのような影に吞まれ、那美はたまらず膝を突く。素早く左手の人差し指と親指を銜え、指笛を吹く。式神の術を解き、フジバカマノヒメとハゼランノヒメの体が、枯れ葉のように崩れ去る。そうこうしている間に、黒い影が背筋を這い上ってきていた。
――カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。
――カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。
金属を打ち合わせるかのような、固く軽い音が聞こえる。
「っ……この音は」
やはり、この悪霊たちを操っているのは……。
「あがぁっ!」
黒い影が体を締め付ける。巨顔はにたにたと笑ったままその様子を見ている。このままでは取り込まれる。
「あっあっああっああ」
巨大な顔面が、間近で那美を見下ろしている。渦のような呪力が自分を吞み込もうとしているのを感じる――……このままでは!
「おぉおおおおお――っ!」
雄叫びとともに、強力な魔力の塊が接近してくるのを那美は感じ取った。
黒いマントをはためかせ、包帯姿の男が巨大な顔面を蹴り飛ばした。ぐらりと揺らめいた巨大な顔面に向かって包帯男が手をかざすと、掌から幾条もの包帯が射出される。包帯男は顔面の周囲を飛び回って周回し、巨大な顔面の両目をぐるぐる巻きにして塞いでしまう。
「九宇時さん!」
着地した赤い髪の包帯男が、那美の名前を呼んだ。その腕には、フードを被った少女を抱えている。
「穂結……君?」
真言を唱え、引き金を引く。少しでも浄力を付与するためだ。那美は店の外に飛び出していた。外では腹部から飛び出した白い腕が、樹の根のように支えとなり、空中に浮かんだ柳田先生の姿があった。
「何で見ている人がいるのかなああああああああ」
先日と同じように、スーツの悪霊は再び巨大な顔面の悪霊へと変化した。呪力が供給されている。あの時それなりに削り飛ばしたはずなのに。やはり、これは間違いなく。
「裏に誰かいる、か」
言いながらも、那美はリボルバーをぶっぱなし、跳躍する。あと少しのところで那美を掴み損ねた白い腕が、地面に激突する。
「あんたらを操っているのは誰だ? あいつか?」
答えが返ってくるはずもなく、多数の白い腕が迫ってくる。那美はシリンダー・ラッチを押す。イジェクター・ロッドを押し込んで排莢。同時に、ハゼランノヒメとフジバカマノヒメが那美の前に降り立ち、迫ってくる白い腕に対して、目にも止まらぬスピードで無数の矢を斉射する。
装填を終えると同時に、矢によって制圧された白い腕が折り重なって地面に落ちた。
「神の御息は我が息、我が息は神の御息なり。御息を以て吹けば穢れは在らじ。残らじ。阿那清々し、阿那清々し」
伊吹法の詞を唱え、リボルバーに息を吹きかける。浄力が高められたリボルバーが白く輝き、那美は素早く引き金を引いた。白い腕を形成する呪力が、那美の浄力によってゼロとなり、消し飛ばされていく。
かなり呪力を削ったはずだが、柳田先生の憑依はまだ解けていなかった。それに、さっきから戦闘に参加せず、不気味にこちらを見つめる巨大な顔……。
「あんたは何故動かない。私を倒す絶好の機会じゃないか」
巨大な顔面はにたりと笑う。
「何で見ている人がいるの――」
「猿芝居はよせ。見ているんだろう、その男の目を通して」
リボルバーの銃口を向ける。
巨大な顔面は口の端をつり上げて笑っていた。
「正体を見せないのなら――」
那美が引き金を引こうとしたその瞬間、手首に黒い影が絡み付いた。
「っ!?」
黒い影が那美の足元から吞み込もうとするかのように絡み付いていく。フジバカマノヒメとハゼランノヒメも同様だった。すでに緋袴のほとんどがコールタールのような影に吞まれ、那美はたまらず膝を突く。素早く左手の人差し指と親指を銜え、指笛を吹く。式神の術を解き、フジバカマノヒメとハゼランノヒメの体が、枯れ葉のように崩れ去る。そうこうしている間に、黒い影が背筋を這い上ってきていた。
――カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。
――カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。
金属を打ち合わせるかのような、固く軽い音が聞こえる。
「っ……この音は」
やはり、この悪霊たちを操っているのは……。
「あがぁっ!」
黒い影が体を締め付ける。巨顔はにたにたと笑ったままその様子を見ている。このままでは取り込まれる。
「あっあっああっああ」
巨大な顔面が、間近で那美を見下ろしている。渦のような呪力が自分を吞み込もうとしているのを感じる――……このままでは!
「おぉおおおおお――っ!」
雄叫びとともに、強力な魔力の塊が接近してくるのを那美は感じ取った。
黒いマントをはためかせ、包帯姿の男が巨大な顔面を蹴り飛ばした。ぐらりと揺らめいた巨大な顔面に向かって包帯男が手をかざすと、掌から幾条もの包帯が射出される。包帯男は顔面の周囲を飛び回って周回し、巨大な顔面の両目をぐるぐる巻きにして塞いでしまう。
「九宇時さん!」
着地した赤い髪の包帯男が、那美の名前を呼んだ。その腕には、フードを被った少女を抱えている。
「穂結……君?」
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