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2.山道でのトラブル
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ぼくらを乗せたバスは、高速道路をひた走る。
組の順番に一列になってバスは進んでいる。
ぼくたち三組は、列のちょうど真ん中のバスだ。
気持ちよく晴れているから、外の景色を見ているだけであきない。
高速に乗ってすぐはビルやカンバンしか見えなかったけれど、時間がたつにつれて遠くのほうに山が見えてきたときは思わず「わあっ!」と声をあげてしまった。
ガイドのおばさ……お姉さんはずっとニコニコしていて、クラスの全員で遊べるゲームをいくつも教えてくれた。
やおやさんゲームはむずかしかったなぁ。
歌に合わせて八百屋で売っている野菜を一人ひとつずつあげていくんだけれど、人数がふえると野菜の種類がどんどんふえていくから、覚えられなかったりダブっていってしまったり。
みんなもよかったらやってみてよ。
そうそう、食料――おかしなんだけれど、後ろの席のサツキが通路から交換をもちかけてきたんだ。
正しくは「シェアしよう」っていってたっけ?
駄菓子つめ合わせに入っているラムネ、キャンデー、ガム、グミの四種類をコーンスナック、ラーメンスナック、のしイカの三種類と交換しないか、って。
種類だけ見るとひとつ少なくなってしまうけれど、分量はコーンスナックがだんぜん多いし、何よりサツキがほしがっているおかしはどれもすっぱい系で、ぼくの苦手なものだった。
グミだけは本当はちょっと食べたかったけれど、悪くない条件。
ぼくはそれで手を打った。こうしょう成立!
駄菓子つめ合わせ三セット分がぼくのものになったから、リュックに入らなくなっちゃった。
だから今、コーンスナックを一ふくろ、となりのドクやケンと食べているところなんだ。
お腹が少し落ち着くと、バスのゆれが気持ちよくてねむたくなってくる。
山中湖に着く予定の時間までは、まだ三十分あった。
ふと横を見ると、ドクも首がときどきガクッとなっていて、今にも寝てしまいそうだ。
ぼくも昼からのハイキングに備えて、少し眠ることにした。
ここ一番というときに備えて体力を残しておくのは、ぼうけんに必要なスキルだからね。
「さあ、みなさん! 山中湖に着きましたよ!」
元気いっぱい、テンション高めなガイドさんの声で目ざめる……はずだった。
ところが現実は、バス車内のざわめきと、なんだかふつうじゃない雰囲気に起こされたんだ。
バスはいま、山道の途中で路肩に寄せて停車している。
運転手さんはガイドさんと無線機にむかって真剣な顔つきでなにかを話していた。
石原先生が後ろの席から通路を小走りに運転手さんたちと合流したタイミングで、どうやらこれが夢ではないとわかった。
クラスのみんなは予想外の展開に、ワクワクしながらヒソヒソと話しあっている。
ぼくも正直なところ、ワクワクしていなかったと言ったらウソになるかな。
班のメンバーと、これからどうなるのか話しながら、耳だけはすませて先生たちの話を聞きとろうとがんばった。
しばらくすると運転手さん、ガイドさん、先生の三人はバスを降りて、進行方向を何度も指差しながら話している。
先生はリュックからスマートフォンを取り出してなにかを確認し、首を横にふった。
「もしかすると、道に迷ったのかもしれないねぇ」
ドクがぽつりとつぶやき、ぼくもそんな気がしてきた。
でもサツキは納得行かないようだった。
「カーナビついてるのに?」
言われて見ると、運転席の横には確かに小さいテレビのような装置がついていた。
くわしいしくみはわからないけれど、地球のまわりを飛んでいる人工衛星からの情報で、自分が今どこにいるのかがわかるんだって、お父さんに聞いたことがある。
「カーナビがあっても、山のなかだと正確な位置情報をつかめなくなる場合があるよ。道の上にいるはずなのに、川のなかにいることになっていたりね」
ドクがさらに専門的な解説をつけたしてくれた。
「じゃあさ、Uターンして、きた道を戻ればいいんじゃないか?」
最高のアイデアを思いついた……とでもいうように、ケンが鼻の穴をふくらませていった。
「……ずいぶんと細くて曲がりくねった道みたいだけど……こんなところでバスの向きを変えられるのかな……?」
サツキの親友のユリはとてもひかえめで奥ゆかしい女の子だけれど、いざ口を開くときはいつだって、正しいことをズバリと言う。
今回もケンはダメージを受けたらしく、「ウッ」とうめいて自分の胸をおさえた。
「そういえば、ほかの車がぜんぜん通らないわね。それに、四組と五組のバスはあたしたちの後ろを走っていたはずでしょ? なんでいないんだろう」
ぼくらはハッとして振り返った。
うしろの窓のそとは道が広がるばかり。
道のずっと奥に目をこらしても、バスらしきものは見えない。
それどころか、停車してからもう十分以上はたっているはずなのに、車が一台も通らないじゃないか。
考えれば考えるほど様子がおかしい。
組の順番に一列になってバスは進んでいる。
ぼくたち三組は、列のちょうど真ん中のバスだ。
気持ちよく晴れているから、外の景色を見ているだけであきない。
高速に乗ってすぐはビルやカンバンしか見えなかったけれど、時間がたつにつれて遠くのほうに山が見えてきたときは思わず「わあっ!」と声をあげてしまった。
ガイドのおばさ……お姉さんはずっとニコニコしていて、クラスの全員で遊べるゲームをいくつも教えてくれた。
やおやさんゲームはむずかしかったなぁ。
歌に合わせて八百屋で売っている野菜を一人ひとつずつあげていくんだけれど、人数がふえると野菜の種類がどんどんふえていくから、覚えられなかったりダブっていってしまったり。
みんなもよかったらやってみてよ。
そうそう、食料――おかしなんだけれど、後ろの席のサツキが通路から交換をもちかけてきたんだ。
正しくは「シェアしよう」っていってたっけ?
駄菓子つめ合わせに入っているラムネ、キャンデー、ガム、グミの四種類をコーンスナック、ラーメンスナック、のしイカの三種類と交換しないか、って。
種類だけ見るとひとつ少なくなってしまうけれど、分量はコーンスナックがだんぜん多いし、何よりサツキがほしがっているおかしはどれもすっぱい系で、ぼくの苦手なものだった。
グミだけは本当はちょっと食べたかったけれど、悪くない条件。
ぼくはそれで手を打った。こうしょう成立!
駄菓子つめ合わせ三セット分がぼくのものになったから、リュックに入らなくなっちゃった。
だから今、コーンスナックを一ふくろ、となりのドクやケンと食べているところなんだ。
お腹が少し落ち着くと、バスのゆれが気持ちよくてねむたくなってくる。
山中湖に着く予定の時間までは、まだ三十分あった。
ふと横を見ると、ドクも首がときどきガクッとなっていて、今にも寝てしまいそうだ。
ぼくも昼からのハイキングに備えて、少し眠ることにした。
ここ一番というときに備えて体力を残しておくのは、ぼうけんに必要なスキルだからね。
「さあ、みなさん! 山中湖に着きましたよ!」
元気いっぱい、テンション高めなガイドさんの声で目ざめる……はずだった。
ところが現実は、バス車内のざわめきと、なんだかふつうじゃない雰囲気に起こされたんだ。
バスはいま、山道の途中で路肩に寄せて停車している。
運転手さんはガイドさんと無線機にむかって真剣な顔つきでなにかを話していた。
石原先生が後ろの席から通路を小走りに運転手さんたちと合流したタイミングで、どうやらこれが夢ではないとわかった。
クラスのみんなは予想外の展開に、ワクワクしながらヒソヒソと話しあっている。
ぼくも正直なところ、ワクワクしていなかったと言ったらウソになるかな。
班のメンバーと、これからどうなるのか話しながら、耳だけはすませて先生たちの話を聞きとろうとがんばった。
しばらくすると運転手さん、ガイドさん、先生の三人はバスを降りて、進行方向を何度も指差しながら話している。
先生はリュックからスマートフォンを取り出してなにかを確認し、首を横にふった。
「もしかすると、道に迷ったのかもしれないねぇ」
ドクがぽつりとつぶやき、ぼくもそんな気がしてきた。
でもサツキは納得行かないようだった。
「カーナビついてるのに?」
言われて見ると、運転席の横には確かに小さいテレビのような装置がついていた。
くわしいしくみはわからないけれど、地球のまわりを飛んでいる人工衛星からの情報で、自分が今どこにいるのかがわかるんだって、お父さんに聞いたことがある。
「カーナビがあっても、山のなかだと正確な位置情報をつかめなくなる場合があるよ。道の上にいるはずなのに、川のなかにいることになっていたりね」
ドクがさらに専門的な解説をつけたしてくれた。
「じゃあさ、Uターンして、きた道を戻ればいいんじゃないか?」
最高のアイデアを思いついた……とでもいうように、ケンが鼻の穴をふくらませていった。
「……ずいぶんと細くて曲がりくねった道みたいだけど……こんなところでバスの向きを変えられるのかな……?」
サツキの親友のユリはとてもひかえめで奥ゆかしい女の子だけれど、いざ口を開くときはいつだって、正しいことをズバリと言う。
今回もケンはダメージを受けたらしく、「ウッ」とうめいて自分の胸をおさえた。
「そういえば、ほかの車がぜんぜん通らないわね。それに、四組と五組のバスはあたしたちの後ろを走っていたはずでしょ? なんでいないんだろう」
ぼくらはハッとして振り返った。
うしろの窓のそとは道が広がるばかり。
道のずっと奥に目をこらしても、バスらしきものは見えない。
それどころか、停車してからもう十分以上はたっているはずなのに、車が一台も通らないじゃないか。
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