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1.旅立ちの朝
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「ケン、忘れ物はない?」
ぼくのなにげないひと言に、今までヘラヘラわらっていたケンの顔つきがこわばった。
「忘れ物か……ない、と思うけど……」
「出発前にしおりを確認してみたら?」
「そうだな、そうする」
実はケンは、クラスの忘れ物王として有名なんだ。
宿題のプリントや体育着を忘れるのなんて、ほとんど毎日。
ぼくの知るかぎりでは、ランドセルを忘れて登校してきたことが今まで二回もある。
ケンはリュックをグラウンドに下ろし、なかをかき回しはじめた。
後ろからサツキが「着替えがシワになっちゃうよ」と声をかけているけれど、たぶん聞こえていないな。
しばらくするとケンは手を止め、ぼくらの顔をじゅんぐりに見つめてからゆっくりこういった。
「しおりが、ない」
言葉をなくす、ってこういうことをいうんだろうな。
ぼくらは無言のまま、おたがいに目を見あわせた。
「先生にいったら、かしてもらえるかも」
「やだよ、いうなよ」
「だよねぇ」
ドクの思いつきに、ケンはなきそうな顔で首を横にふった。
そうだよね、毎日いつも忘れ物でおこられているんだもん。
今日みたいな特別な日を、大目玉でスタートさせたくないよね。
だからぼくは安心させるように、ケンの肩をポンとたたいた。
「しおりが必要なら、ぼくらのなかで近くにいる人といっしょに見ればいいよ。着いてからほかに忘れ物があったら、そのときはみんなで協力しよう」
「オーケー」
「わかった」
「うん」
みんながうなずいて、ケンはホッとしたようだった。
これで大丈夫。楽しい思い出をたくさん作って、いい旅になるといいよね。
そうこうするうち、となりのクラスのさいごの一人がようやくやってきて、いよいよ出発の号令がかかった。
みんな自分のリュックを背負って立ち上がり、班ごとに列を作る。
ひとクラス四十人なので、各クラス一班から八班までが順番にバスに乗りこんだ。
ぼくのなにげないひと言に、今までヘラヘラわらっていたケンの顔つきがこわばった。
「忘れ物か……ない、と思うけど……」
「出発前にしおりを確認してみたら?」
「そうだな、そうする」
実はケンは、クラスの忘れ物王として有名なんだ。
宿題のプリントや体育着を忘れるのなんて、ほとんど毎日。
ぼくの知るかぎりでは、ランドセルを忘れて登校してきたことが今まで二回もある。
ケンはリュックをグラウンドに下ろし、なかをかき回しはじめた。
後ろからサツキが「着替えがシワになっちゃうよ」と声をかけているけれど、たぶん聞こえていないな。
しばらくするとケンは手を止め、ぼくらの顔をじゅんぐりに見つめてからゆっくりこういった。
「しおりが、ない」
言葉をなくす、ってこういうことをいうんだろうな。
ぼくらは無言のまま、おたがいに目を見あわせた。
「先生にいったら、かしてもらえるかも」
「やだよ、いうなよ」
「だよねぇ」
ドクの思いつきに、ケンはなきそうな顔で首を横にふった。
そうだよね、毎日いつも忘れ物でおこられているんだもん。
今日みたいな特別な日を、大目玉でスタートさせたくないよね。
だからぼくは安心させるように、ケンの肩をポンとたたいた。
「しおりが必要なら、ぼくらのなかで近くにいる人といっしょに見ればいいよ。着いてからほかに忘れ物があったら、そのときはみんなで協力しよう」
「オーケー」
「わかった」
「うん」
みんながうなずいて、ケンはホッとしたようだった。
これで大丈夫。楽しい思い出をたくさん作って、いい旅になるといいよね。
そうこうするうち、となりのクラスのさいごの一人がようやくやってきて、いよいよ出発の号令がかかった。
みんな自分のリュックを背負って立ち上がり、班ごとに列を作る。
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