101 / 191
レティシア15歳 時代の変革者たち
第87話 運命の出会い
しおりを挟むその日もレティシアは、公爵邸裏の車両基地で魔導力機関車や客車の整備作業を見守っていた。
幾度となく試験を繰り返してきた車両だが、数日前からその損耗状況を細かくチェックしているところだった。
レティシアが草案を作った法律『鉄道営業法』には、定期点検に関する事項が定められている。
毎日行う検査から、部品単位にバラして徹底的にチェックする全般検査まで……安全に運行を行うためには欠かすことができない作業なのである。
今やってるのは法律的には『月次検査』にあたるもの。
当然ながら、毎日の検査よりも項目が多く、時間も相応にかかるものだ。
更に、今回は初回なので、より時間をかけてじっくり検査している。
問題が発見されれば、その対処のために更に時間を要することになるのだが……今回は幸いにも大きな異常は見られず、もう少しで作業が完了する見込みとなっていた。
「よ~し!これで終わりだ!」
「親方、お疲れ様。特に問題は無かったみたいだね?」
「ああ、各部の摩耗状況は許容値の範囲内、交換部品も最小限で済んでる。事前の予測通りだったぜ」
検査項目の書類に目を通して承認のためのサインをしながら、親方はレティシアに答えた。
「いいね。ここまでくれば、もう量産機の製造に入ってもよさそうかな……?」
「だな。そろそろ各工場に発注してもいいだろ」
今は試作機だけであるが、当然ながら営業を開始するためにはそれだけでは足りない。
試作機の試験結果を踏まえ、そこで洗い出された改善点をフィードバックさせた量産機の製造が必要なのだ。
試作機の製造は、イスパルナにいくつかある工場で部品単位で行われ、組み立てはここ、イスパルナ総合車両センター内で行われた。
量産機の製造にあたっては、イスパルナだけでなく、アクサレナにも新設される工場や車両センターの方でも行われる事になっている。
今回の検査結果が良好であった事から、そのゴーサインが出される事になったのだ。
「それじゃあリディー、指示はお願いしてもいい?」
「分かった。必要製造数は予定通りで変更なしだな?」
「うん、そうだね。量産機の01型と客車、貨車……じゃんじゃん作っちゃいましょう!」
そしてまた一つ、鉄道開業に向けたフェーズが一つ進んだ。
「そう言えばレティ、今日くらいにリュシアン様が到着されると聞いたが……?」
「あ、そうなんだよ!いや~、久しぶりだから楽しみだな~」
レティシアはお兄ちゃん子である。
前世のときからそれは同じだった。
そして、成長した今でも……いや、普段はなかなか会えなくなった今の方が、以前よりも甘えたいのかもしれない。
「ルシェーラちゃんにも会えるのも楽しみだし、それに……」
先日アンリから聞かされた『英雄姫』の話。
彼女や、彼女の仲間たちも一緒にやってきて、公爵邸に招く事になっている。
その話を聞いてから、件のカティア姫に関する噂をあちこちで聞いてみた。
その結果、会うのが楽しみのような、怖いような……そんな印象を持った。
(まあ、あくまでも噂だから……相当、尾ひれが付いてる気がするけど)
吟遊詩人が挙って歌にする英雄譚は、およそ人間業とは思えないエピソードがいくつも語られていた。
(大規模殲滅魔法なら、実は私も使えるんだけど。でも、『万の魔物の軍勢を屠る』のは流石に無理だなぁ……本当の話なのかな?)
その他にも、味方を不死身の軍団に変えたとか。
死者を蘇らせたとか。
俄には信じがたい話が伝わってきてるのである。
レティシアは話半分で聞いていたものの、この世界の基準で英雄と言われるくらいの人物ならば、あるいは…………とも思うのだった。
そして、引き続き車庫の中で、検査後の組み立て・調整作業を見守っていた時のこと。
リュシアンたちが到着したことが、彼女に知らされた。
レティシアは作業着のまま、出迎えのため公爵邸へと急ぐのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「兄さん!お帰りなさい!」
公爵邸の玄関先で何人かの人が集まっている……その中にリュシアンの姿を見つけたレティシアは、走り寄って嬉しそうに叫んだ。
そして、兄の傍らに立っていた人物が、彼女の声に振り向き……二人の視線が繋がる。
レティシアは思わず息を飲んだ。
光の加減によって、金にも銀にも見える不思議な色合いの美しい髪。
花の顔を彩るのは、水晶のように透きとおった菫色の瞳。
紅を差さずとも薄っすらと桜色に色付く、慎ましやかな唇。
彼女を形作る全てのパーツが理想的に配置され、神が創り給うた芸術作品さながらの美貌を体現していた。
旅芸人一座の歌姫にして、イスパル王国の王女。
西の辺境地域の中心都市であるブレゼンタムを救った英雄は、その名も轟く『星光の歌姫』。
レティシアと運命の出会いを果たしたその少女の名は……カティアと言った。
11
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……


【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる