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レティシア15歳 時代の変革者たち

第88話 出迎え

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「……レティ、そんな格好で……お客様の前ですよ」

 作業着姿のレティシアを目にして、そんな苦言を言うリュシアン。
 しかしその目は穏やかに笑っていて、久しぶりに妹に会えたうれしさを隠しきれない様子だった。


「へっ?……ああ!?ご、ごめんなさい…久しぶりに兄さんに会えると思ったら嬉しくてつい…」

 彼女は他の人々を認識してなかったわけではない。
 実際、リュシアンに声をかけられるまで……来客の一人である美しい少女に目を奪われていたのだから。
 そして少女もレティシアの方をじっと見ていた。
 まるでお互いに惹きつけられてるかのように。

 今も……レティシアは兄に向き合って一旦は応えたものの、横目でチラチラと少女を見ている。

 それは、少女の並外れた美貌によるものだけでなく、内面からにじみ出る何か・・がそうさせていた。
 他のものであれば、それは王族の『カリスマ』だと感じたことだろう。
 しかし彼女は……それとは別のものを感じ取っていた。
 魂が震えるような何か・・を……



 来客は彼女だけでなく、彼女の傍らには他にも何人かいる。
 小さな女の子、整った顔立ちの青年、厳つい風貌の中年男性、そしてレティシアの友人のルシェーラだ。

 そして彼らを迎えているのは、アンリとアデリーヌの公爵夫妻と、公爵家の使用人一同だった。



「……全く、しょうがないですね。皆さん、お見苦しいところを見せて申し訳ありません。彼女が、私の妹のレティシアです」

 と、リュシアンが彼女を来客たちに紹介した。
 その言葉から察するに、既に道中でレティシアの話をしていた事がうかがえる。


「こ、こんな格好で申し訳ありません。私はリュシアンの妹で、レティシアと申します。いつも兄がお世話になっております」

 そしてレティシアも居住まいを正して、丁寧に挨拶をした。
 今更ながら、あちこち汚れが付いている作業着姿のままであることを思い出し、顔を赤らめながら。


 そして、レティシアが目を離せずにいた少女が挨拶を返す。

「はじめましてレティシアさん。私はカティアと申します。ダードレイ一座で歌姫をやっています。よろしくお願いしますね。あ、こっちの子は……私の『養子』で、ミーティアって言います」

「ミーティアです!ママの娘です!」

 レティシアの予想通り、彼女こそがイスパル王国の王女……カティアだった。
 そして一緒に紹介されたミーティアは……カティアと良く似た女の子だった。
 『養女』ということだが、どう見ても血の繋がりがあるようにしか見えない。
 だが、何らかの事情があるのだろう……と、モーリス家の面々は特にそれには触れなかった。


「ふふ、ちゃんと挨拶できて良い子だね。……そうですか、あなたがカティアさんなんですね、こちらこそよろしくお願いします」

 レティシアが頭を撫でると、ミーティアは嬉しそうに目を細めた。

(……かわいい)


 そして、カティア、ミーティアと挨拶を交わしたあと、他の来客たちも紹介される。

 青年の名はカイト。
 どうやらカティアとは恋人同士のようだ。
 落ち着いた物腰と所作から、思慮深い雰囲気が感じられた。

 中年男性はダードレイ。
 旅芸人一座の座長であり、カティアの育ての親らしい。
 筋骨隆々で、芸人というよりは歴戦の戦士ように見える。
 実際に彼は、Aランク冒険者でもあるということだった。



 そして……

「レティシアさん、お久しぶりですわ」

「あ、ルシェーラちゃん!久しぶり!学園楽しみだね」

 レティシアが5歳の頃からの友人であるルシェーラだ。
 現在13歳となった彼女だが、かなり大人びた美少女へと成長していた。
 レティシアと並ぶと、彼女の方が年上に見えるほどだ。

 彼女たちは、時おりブレーゼン侯爵夫妻とともにルシェーラが公爵家に立ち寄った際に友人として交流していたし、これまで手紙のやり取りも頻繁に行っていた。


「リュシアン様から、レティシアさんも学園に入学すると聞いて嬉しかったですわ」

「うんうん!私も、ルシェーラちゃんが一緒だって聞いたから学園に行く気になったんだよ。本当はね……商会もあるし、大事な事業もあるし、あまり乗り気じゃなかったんだ。だけど、父さんが人脈を得るためにも学園は行ったほうがいって言うから……」

「ふふ……例えアクサレナの学園でも、レティシアさんくらいになると退屈かもしれませんものね」

 彼女は、レティシアがモーリス商会の会長として手腕を発揮していることを知っている。
 事業の詳しい内容までは知らなかったが、幼い頃から『神童』と言われるほど聡明だったことも知っていた。
 だから、今さら学園で学ぶことはそれほど多くはないのでは……と思っている。
 とは言っても、一緒に学園生活が送れるのは本当に嬉しいとも思っており、それはレティシアも同様だ。



「そう言えばその格好、何かの作業をされていたみたいですが……」

「あ、そうなんだよ、私の夢の第一歩。それがもう少しで実現しそうなんだ。……そうだ、皆さん少し見ていきません?きっと驚くと思いますよ」

 ルシェーラに話題を振られ、良い機会だから……と、彼女はそんな提案をした。


「レティ、お客様たちは旅の疲れがあるんですよ。それはあとで……」

「あ!私、凄い気になりますっ!……ごめんなさい、リュシアンさん、少しだけお時間頂けませんか?」

「え?ま、まあ、カティアさんがそう仰るなら……」

 リュシアンが来客たちの旅の疲れを慮り、レティシアを窘めようとする。
 しかし、カティアはとても乗り気の様子。
 当の彼女がそう言うのであれば……と、リュシアンも戸惑いながら了承した。


「カティア?何か気になるのか?」

 不自然なくらいに興味を示したカティアに、カイトが問う。 

「だって、『神童』って言われれる人が『夢』って言うほどのものだよ?カイトもそれが何なのか気にならない?」

「まあ、確かに……」

 彼は、理由はそれだけではないように感じたが……カティアの言うことも尤もだと思い、取りあえずは納得した。


 そして、彼らは公爵家の裏手にある車両基地へと向かうのだった。
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