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今思い描ける未来
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「ねえ、今日のお昼ご飯は何食べたい?」
「ラーメン!」
「それは昨日食べたでしょ? ラーメン以外で何がいい?」
「カップラーメン!!」
それもラーメンだよ。
連続で即答したまさきにツッコミたくなったのを辛うじておさえ、かよ子は懇切丁寧に「袋に入ってるラーメンも、カップに入ってるラーメンも、ラーメンはラーメンなのよ」と説明した。
「ふうん。じゃあ、おにぎり!」
炭水化物、炭水化物、そして炭水化物。
「おかずは……?」
「チンするからあげ! ウインナー! 目玉焼き!」
朝食かお弁当のラインナップ!
「いや、あの、せっかくお休みの日だから、何かちゃんとしたものを……」
「ええ? お母さんも大変でしょ? いいよ、焼くだけのやつで」
まさき……。
ありがとう。ありがとうだけど、心にグッサグサ刺さる。
まさきはかよ子の料理が好きではないことを知っている。
冷蔵庫にある、既に味が保証されたあたためるだけのものが一番おいしいことを知っている。
それもこれもかよ子が料理が苦手なのが悪いのだと、わかっている。
しかし心の痛みは拭えない。
「まあ、でも、そうよね。たまにはそんなお昼もいいわよね」
毎度のような気はするが。
いやいや、無理に栄養とか母の手料理とかを押し付けて、食べるのが嫌いになってもいけない。
栄養も手料理も、保育園と学校の給食でしっかり食べているはず!
平日の夕飯はかよ子だって忙しいなりに作っているし。
だから今日はせっかくのまさきのリクエストをかなえることにしよう。
そう決めて台所に立ったかよ子は、朝炊いたご飯の残りをレンジで温めた。
どんぶりに一杯。子供の茶碗六杯分だから、かよ子とまさき、りくの三人で二個ずつ。ちょうどいいだろう。
ちなみに陽一はダイジナシゴトノツキアイで出かけている。ダイジナシゴトノツキアイだから仕方がない。
「はーい、できたわよ。まさきの好きな鮭のおにぎりと、チンしたからあげと、トマト」
せめて冷凍の鮭を焼き、トマトをつけたのは、かよ子の良心だ。
「ええ? トマトとかいらないのに。ひたすらおにぎりとからあげでいいのに」
「まさきはよくてもお母さんはよくないのよ」
「おににぎ、おかわりするー」
まさきとかよ子が話している間に、いつの間にかりくが一つ目のおにぎりを平らげていた。
「はいはいどうぞー」
小さめのおにぎりを一つとって渡すと、りくはみずから一番大きいおにぎりを選び、ぱくりとかぶりついた。
「大丈夫? 食べきれる?」
「うん」
言いながら、まさきも気づけば二個目に手を伸ばしている。
まさきもまた残っている中で一番大きいおにぎりを選ぶ。
「おかわりー」
え、と思ったらりくが三個目のおにぎりにかぶりついていた。
「おれもー」
マジか。
六個あったどんぶり一杯のおにぎりは、すべて彼ら二人のお腹の中に消えた。
信じられない思いだった。
「ねえ、おかあさん。もうないの?」
「ご飯は売り切れです……」
「おこめあるじゃん」
「おこめはね、炊かないと食べられないのよ」
「ふーん。じゃあからあげもっとちょうだい」
マジか。
「わ、わかった、チンするから待っててね」
「えー、待ちきれないー。お腹空いたよー」
お腹が空いた……だと? 食べているのに、お腹が空いた、だと?!
無限か。ブラックホールか。
頭の中で大騒ぎをしながら急いで冷凍庫からからあげを皿に盛る。
まあそうは言ってもおにぎりを三個食べた後だ。そんなには食べないだろう。残りをかよ子が食べきらねばならないことを考えて、四個だけチンすることにする。
いまはもうチンとは言わないレンジがピピピピッとからあげが解凍されたことを知らせるや、まさきとりくが「からあげイエーイ」と盛り上がっている。
「はいはい、お待たせー」
大急ぎでもっていけば、すぐさま皿は空になった。
「ねえ、もうないの?」
冷凍庫にはあります。
だが食べ過ぎではないのか?
かよ子は彼らのお腹が今どうなってるのか、さっぱりわからなかった。
お腹いっぱいというまで与えていいのか。いや、与えすぎではないのか。
腹八分目を教えるべきか。
しかしお腹が空いているのはかわいそうだ。
わからない。
かよ子はしばしパニックに陥った。
そしてふと気づく。
「そうだ。コーンスープ作ってあげようか」
お湯をいれるだけのことに恩着せがましいが。
「あ! はいはいはーい! ほしいほしい!」
りくとまさきが「どんどんパフー!」とひときわ盛り上がる。
そうだ。スープ系が何もなかったから、満腹感を感じないのだ。
きっとコーンスープを一口飲んだらたちまち「おなかいっぱーい、もういらなーい」となるに違いない。
そう思い、スープの素一袋を二人分にわけてお湯をついだ。
さらに「あつい! のめない!」と言われることを見越して氷を二つずつ投入。
よし、これで昼食戦争は終わるはず。
満を持してかよ子がコーンスープを持っていけば、それは秒でお椀から消えた。
「はやっ! 一気飲み?!」
「ああー、お腹があったまるぅー」
どうやら、ようやく満足したらしい。
と思ったら。
「なんかまだ食べたい気がするけど、お母さんがたいへんそうだからまあいいや」
二人の口からやっと「ごちそうさまー」と聞こえて、かよ子はへなへなとその場に座り込んだ。
ご飯は空。
からあげも残り二個。しかもまたチンするのが、しかも待つのがまた面倒くさい。
ラーメンはダメと言っておきながらかよ子だけカップラーメンを食べるわけにはいかない。
――今日のお昼、何食べよう……
そうして今度はかよ子の昼食に悩むのだった。
かよ子はこのままりくとまさきが中学生、高校生と育っていった未来を思い描いた。
そこには、十合炊きの炊飯器をあっという間に空にしていく男二人と、買い物に行くたびに米袋をかついでいる自分の姿ばかりが浮かんだ。
この子たちはどんな風に育つのかわからない。
ただ、エンゲル係数が半端ないことだけは、今のかよ子にもよくわかった。
「ラーメン!」
「それは昨日食べたでしょ? ラーメン以外で何がいい?」
「カップラーメン!!」
それもラーメンだよ。
連続で即答したまさきにツッコミたくなったのを辛うじておさえ、かよ子は懇切丁寧に「袋に入ってるラーメンも、カップに入ってるラーメンも、ラーメンはラーメンなのよ」と説明した。
「ふうん。じゃあ、おにぎり!」
炭水化物、炭水化物、そして炭水化物。
「おかずは……?」
「チンするからあげ! ウインナー! 目玉焼き!」
朝食かお弁当のラインナップ!
「いや、あの、せっかくお休みの日だから、何かちゃんとしたものを……」
「ええ? お母さんも大変でしょ? いいよ、焼くだけのやつで」
まさき……。
ありがとう。ありがとうだけど、心にグッサグサ刺さる。
まさきはかよ子の料理が好きではないことを知っている。
冷蔵庫にある、既に味が保証されたあたためるだけのものが一番おいしいことを知っている。
それもこれもかよ子が料理が苦手なのが悪いのだと、わかっている。
しかし心の痛みは拭えない。
「まあ、でも、そうよね。たまにはそんなお昼もいいわよね」
毎度のような気はするが。
いやいや、無理に栄養とか母の手料理とかを押し付けて、食べるのが嫌いになってもいけない。
栄養も手料理も、保育園と学校の給食でしっかり食べているはず!
平日の夕飯はかよ子だって忙しいなりに作っているし。
だから今日はせっかくのまさきのリクエストをかなえることにしよう。
そう決めて台所に立ったかよ子は、朝炊いたご飯の残りをレンジで温めた。
どんぶりに一杯。子供の茶碗六杯分だから、かよ子とまさき、りくの三人で二個ずつ。ちょうどいいだろう。
ちなみに陽一はダイジナシゴトノツキアイで出かけている。ダイジナシゴトノツキアイだから仕方がない。
「はーい、できたわよ。まさきの好きな鮭のおにぎりと、チンしたからあげと、トマト」
せめて冷凍の鮭を焼き、トマトをつけたのは、かよ子の良心だ。
「ええ? トマトとかいらないのに。ひたすらおにぎりとからあげでいいのに」
「まさきはよくてもお母さんはよくないのよ」
「おににぎ、おかわりするー」
まさきとかよ子が話している間に、いつの間にかりくが一つ目のおにぎりを平らげていた。
「はいはいどうぞー」
小さめのおにぎりを一つとって渡すと、りくはみずから一番大きいおにぎりを選び、ぱくりとかぶりついた。
「大丈夫? 食べきれる?」
「うん」
言いながら、まさきも気づけば二個目に手を伸ばしている。
まさきもまた残っている中で一番大きいおにぎりを選ぶ。
「おかわりー」
え、と思ったらりくが三個目のおにぎりにかぶりついていた。
「おれもー」
マジか。
六個あったどんぶり一杯のおにぎりは、すべて彼ら二人のお腹の中に消えた。
信じられない思いだった。
「ねえ、おかあさん。もうないの?」
「ご飯は売り切れです……」
「おこめあるじゃん」
「おこめはね、炊かないと食べられないのよ」
「ふーん。じゃあからあげもっとちょうだい」
マジか。
「わ、わかった、チンするから待っててね」
「えー、待ちきれないー。お腹空いたよー」
お腹が空いた……だと? 食べているのに、お腹が空いた、だと?!
無限か。ブラックホールか。
頭の中で大騒ぎをしながら急いで冷凍庫からからあげを皿に盛る。
まあそうは言ってもおにぎりを三個食べた後だ。そんなには食べないだろう。残りをかよ子が食べきらねばならないことを考えて、四個だけチンすることにする。
いまはもうチンとは言わないレンジがピピピピッとからあげが解凍されたことを知らせるや、まさきとりくが「からあげイエーイ」と盛り上がっている。
「はいはい、お待たせー」
大急ぎでもっていけば、すぐさま皿は空になった。
「ねえ、もうないの?」
冷凍庫にはあります。
だが食べ過ぎではないのか?
かよ子は彼らのお腹が今どうなってるのか、さっぱりわからなかった。
お腹いっぱいというまで与えていいのか。いや、与えすぎではないのか。
腹八分目を教えるべきか。
しかしお腹が空いているのはかわいそうだ。
わからない。
かよ子はしばしパニックに陥った。
そしてふと気づく。
「そうだ。コーンスープ作ってあげようか」
お湯をいれるだけのことに恩着せがましいが。
「あ! はいはいはーい! ほしいほしい!」
りくとまさきが「どんどんパフー!」とひときわ盛り上がる。
そうだ。スープ系が何もなかったから、満腹感を感じないのだ。
きっとコーンスープを一口飲んだらたちまち「おなかいっぱーい、もういらなーい」となるに違いない。
そう思い、スープの素一袋を二人分にわけてお湯をついだ。
さらに「あつい! のめない!」と言われることを見越して氷を二つずつ投入。
よし、これで昼食戦争は終わるはず。
満を持してかよ子がコーンスープを持っていけば、それは秒でお椀から消えた。
「はやっ! 一気飲み?!」
「ああー、お腹があったまるぅー」
どうやら、ようやく満足したらしい。
と思ったら。
「なんかまだ食べたい気がするけど、お母さんがたいへんそうだからまあいいや」
二人の口からやっと「ごちそうさまー」と聞こえて、かよ子はへなへなとその場に座り込んだ。
ご飯は空。
からあげも残り二個。しかもまたチンするのが、しかも待つのがまた面倒くさい。
ラーメンはダメと言っておきながらかよ子だけカップラーメンを食べるわけにはいかない。
――今日のお昼、何食べよう……
そうして今度はかよ子の昼食に悩むのだった。
かよ子はこのままりくとまさきが中学生、高校生と育っていった未来を思い描いた。
そこには、十合炊きの炊飯器をあっという間に空にしていく男二人と、買い物に行くたびに米袋をかついでいる自分の姿ばかりが浮かんだ。
この子たちはどんな風に育つのかわからない。
ただ、エンゲル係数が半端ないことだけは、今のかよ子にもよくわかった。
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