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6 謎の事件と聖人候補
957 帰還と不安と
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957
こうして三クランと私たちの合同のパーティーは、新ダンジョンからの脱出に成功した。
無数の戦いとそれから得られたたくさんの素材、そして誰も入っていない新ダンジョンについての様々なデータ、それらを携えての帰還は大成功といっていい内容だ。
完全踏破できていたらそれは偉業だったかもしれないが、ファーストアタックでそれに成功するほうが稀なこと。十分誇れる内容だと、誰もが思っていたし、エンデさんの試算では、ちょっと贅沢な暮らしが一年以上余裕できるだけの稼ぎが全員に保証できるそうなので、大変な思いをした冒険者の皆さんには十分見返りはあったといえるだろう。
「新ダンジョンの初回での踏破……とまではいきませんでしたが、満足すべき成果といえますね」
名誉を重んじる〝金獅子の咆哮〟としては、できるなら踏破を望んでいただろう。途中で引き返すことになったのはきっと残念な結果だっただろうが、それでも納得はしてくれているのだろう。私と話すテーセウスさんの表情はおだやかだ。
「特に後半は大変な強行軍になりましたからね。みなさんお疲れでしょう。クランの皆さんをしっかり労ってあげてくださいね」
「お心遣い痛み入ります。あの状況から、こうして全員無事に戻れましたのが奇跡のようです。あなたがいなければ、きっと……いや、ありがとうございました、メイロードさま」
このパーティーでのダンジョン攻略は成功だった。それは間違いない。
なのに全員が喜び合う中、私の心には大きな気掛かりがズッシリと根を下ろしたままだった。そのため、皆さんに何度も引き止められそうになりながらも、私は帰還祝いの宴席も疲労を理由に欠席して自宅へと戻った。
(私が疲れてるって言ったら納得してくれたんだよね。そんなに顔の出てるかな?)
少し重い足取りで《無限回廊の扉》を抜け、帰り着いたイスのマリス邸には、グッケンス博士が待ってくれていた。
「大変なダンジョン遠征になったのぉ」
真っ白な長い髭を触りながらそう言う博士の声もやや湿りがちだ。なぜなら、博士にはダンジョンでひとりになれたときに《伝令》を飛ばして状況を伝えていたからだ。私はどうしてもそうする必要があった。
私は埃だらけの服を着替えることもせず、立ったまま博士に訴えた。
「この状況は一刻も早くシドの中枢に知らせる必要があると思います。新ダンジョンに起こっている危険は現在も進行中で、一刻を争うのではないでしょうか。いまは貴族的なしきたりに従い、悠長にお目通りを待つような状況ではありません……ですが、地方の一貴族の小娘ではどうにもならないのです」
グッケンス博士は、私の肩に手を置いて微笑んだ。
「わかっておる。すでに皇帝とドールには《伝令》でおおよその状況を説明しておいた。
メイロードが焦る気持ちはわかるが、お前さんが魔法でうまく隠して設置してきてくれた《無限回廊の扉》のおかげで、今回のパーティーが踏破した階層の状況も確認できておる。確かに由々しき事態であることは間違いないが、あのダンジョンを満たしながら上層まで達するとなれば、そう簡単ではあるまいよ。それにの、おまえさんが上層へ向かうすべての出入り口を塞いできたこともかなりの時間稼ぎになるはずじゃ。観測は今後も続けるが、今日明日に魔物があのダンジョンから溢れ出てくるような状況ではないことは、わしが保証しよう」
そこから博士は、さらに優しく微笑んでこう続けた。
「だから、いまは少しでも休みなさい。そこからはきっとまた忙しくなるはずだからの」
それに続けるようにセイリュウも微笑む。
「そうだよ、メイロード。ダンジョンでの出来事の説明は僕がしておくから大丈夫。いまはおやすみ」
「まだ、大丈夫なんだ……」
ふたりの言葉にホッとした私は、自分がひどく疲れていることを思い出し、その場にへたり込んでしまった。
「よかったぁ……あれがすぐあふれてきたらどうしようかと思ってましたぁ」
そんな私をセーヤとソーヤがそっとソファーに運び、いい香りのする柔らかな毛布をかけてくれる。
「すぐにベッドを整えますからね、メイロードさま」
「おいしいココアを一口飲んで、ゆっくりお休みなさいませ」
「ありがとう……セーヤ、ソーヤ……」
そう言ったときには、もう私は眠ってしまっていた。
ーーーーーー
メイロードがベッドへ運ばれたあと、グッケンス博士とセイリュウはキッチンで軽く酒を酌み交わしながら話していた。
「あの子には異世界の食べ物による身体能力の上昇効果はないのだから、一番辛かったのはきっとメイロードだったじゃろうな」
「ええ、しかも〝ポーション〟系の魔法薬の効果もかなり低いですからね。短い仮眠だけで、よく三日を乗り切ったと思いますよ」
「止めたところで、聞くような娘ではないしのう」
グッケンス博士はため息をつく。
「あの頑固さはなんなんでしょうね。パーティー全員を無事に帰還させること以外、何も目に入っていませんでしたから……」
「困ったものじゃなぁ」
「メイロードが一度だけ冗談のような口ぶりで言っていました。
『私って〝聖人候補〟なんですって! 何にもしてないのに、変よねぇ』
って。あの子は、シラン村の小さな男の子を命がけで助けたときから少しも変わってないよ。いや、関わりのある人が増えてもっと〝助けたい〟人間が増えてる」
「無茶をせんよう、わしらが見守るしかないの。頼むぞセイリュウ」
「頼みますよ、グッケンス博士」
ふたりはグラスを掲げ、改めてメイロードを守ることを誓い合った。
こうして三クランと私たちの合同のパーティーは、新ダンジョンからの脱出に成功した。
無数の戦いとそれから得られたたくさんの素材、そして誰も入っていない新ダンジョンについての様々なデータ、それらを携えての帰還は大成功といっていい内容だ。
完全踏破できていたらそれは偉業だったかもしれないが、ファーストアタックでそれに成功するほうが稀なこと。十分誇れる内容だと、誰もが思っていたし、エンデさんの試算では、ちょっと贅沢な暮らしが一年以上余裕できるだけの稼ぎが全員に保証できるそうなので、大変な思いをした冒険者の皆さんには十分見返りはあったといえるだろう。
「新ダンジョンの初回での踏破……とまではいきませんでしたが、満足すべき成果といえますね」
名誉を重んじる〝金獅子の咆哮〟としては、できるなら踏破を望んでいただろう。途中で引き返すことになったのはきっと残念な結果だっただろうが、それでも納得はしてくれているのだろう。私と話すテーセウスさんの表情はおだやかだ。
「特に後半は大変な強行軍になりましたからね。みなさんお疲れでしょう。クランの皆さんをしっかり労ってあげてくださいね」
「お心遣い痛み入ります。あの状況から、こうして全員無事に戻れましたのが奇跡のようです。あなたがいなければ、きっと……いや、ありがとうございました、メイロードさま」
このパーティーでのダンジョン攻略は成功だった。それは間違いない。
なのに全員が喜び合う中、私の心には大きな気掛かりがズッシリと根を下ろしたままだった。そのため、皆さんに何度も引き止められそうになりながらも、私は帰還祝いの宴席も疲労を理由に欠席して自宅へと戻った。
(私が疲れてるって言ったら納得してくれたんだよね。そんなに顔の出てるかな?)
少し重い足取りで《無限回廊の扉》を抜け、帰り着いたイスのマリス邸には、グッケンス博士が待ってくれていた。
「大変なダンジョン遠征になったのぉ」
真っ白な長い髭を触りながらそう言う博士の声もやや湿りがちだ。なぜなら、博士にはダンジョンでひとりになれたときに《伝令》を飛ばして状況を伝えていたからだ。私はどうしてもそうする必要があった。
私は埃だらけの服を着替えることもせず、立ったまま博士に訴えた。
「この状況は一刻も早くシドの中枢に知らせる必要があると思います。新ダンジョンに起こっている危険は現在も進行中で、一刻を争うのではないでしょうか。いまは貴族的なしきたりに従い、悠長にお目通りを待つような状況ではありません……ですが、地方の一貴族の小娘ではどうにもならないのです」
グッケンス博士は、私の肩に手を置いて微笑んだ。
「わかっておる。すでに皇帝とドールには《伝令》でおおよその状況を説明しておいた。
メイロードが焦る気持ちはわかるが、お前さんが魔法でうまく隠して設置してきてくれた《無限回廊の扉》のおかげで、今回のパーティーが踏破した階層の状況も確認できておる。確かに由々しき事態であることは間違いないが、あのダンジョンを満たしながら上層まで達するとなれば、そう簡単ではあるまいよ。それにの、おまえさんが上層へ向かうすべての出入り口を塞いできたこともかなりの時間稼ぎになるはずじゃ。観測は今後も続けるが、今日明日に魔物があのダンジョンから溢れ出てくるような状況ではないことは、わしが保証しよう」
そこから博士は、さらに優しく微笑んでこう続けた。
「だから、いまは少しでも休みなさい。そこからはきっとまた忙しくなるはずだからの」
それに続けるようにセイリュウも微笑む。
「そうだよ、メイロード。ダンジョンでの出来事の説明は僕がしておくから大丈夫。いまはおやすみ」
「まだ、大丈夫なんだ……」
ふたりの言葉にホッとした私は、自分がひどく疲れていることを思い出し、その場にへたり込んでしまった。
「よかったぁ……あれがすぐあふれてきたらどうしようかと思ってましたぁ」
そんな私をセーヤとソーヤがそっとソファーに運び、いい香りのする柔らかな毛布をかけてくれる。
「すぐにベッドを整えますからね、メイロードさま」
「おいしいココアを一口飲んで、ゆっくりお休みなさいませ」
「ありがとう……セーヤ、ソーヤ……」
そう言ったときには、もう私は眠ってしまっていた。
ーーーーーー
メイロードがベッドへ運ばれたあと、グッケンス博士とセイリュウはキッチンで軽く酒を酌み交わしながら話していた。
「あの子には異世界の食べ物による身体能力の上昇効果はないのだから、一番辛かったのはきっとメイロードだったじゃろうな」
「ええ、しかも〝ポーション〟系の魔法薬の効果もかなり低いですからね。短い仮眠だけで、よく三日を乗り切ったと思いますよ」
「止めたところで、聞くような娘ではないしのう」
グッケンス博士はため息をつく。
「あの頑固さはなんなんでしょうね。パーティー全員を無事に帰還させること以外、何も目に入っていませんでしたから……」
「困ったものじゃなぁ」
「メイロードが一度だけ冗談のような口ぶりで言っていました。
『私って〝聖人候補〟なんですって! 何にもしてないのに、変よねぇ』
って。あの子は、シラン村の小さな男の子を命がけで助けたときから少しも変わってないよ。いや、関わりのある人が増えてもっと〝助けたい〟人間が増えてる」
「無茶をせんよう、わしらが見守るしかないの。頼むぞセイリュウ」
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