利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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4 聖人候補の領地経営

611 運営資金

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611

私が直接運営している店は三店。シラン村の雑貨店とパレスにある二店舗。シラン村は日用雑貨と食品で、ここだけでも田舎暮らしには十分な利益がある。パレスで販売している商品は〝パレス・フロレンシア〟のアクセサリーと〝カカオの誘惑〟のチョコレートだ。どちらも富裕層相手の店でとてもいい商売になっており、いまでは大金貨三十枚(三億円)ぐらいの利益が毎年出ている。

これだけでもわたしには充分すぎる額なのだが、これはわたしの資産のほんの一部だ。実は私の収入の大部分は〝ロイヤリティー〟歩合、というか印税というか、そういったものだ。

シラン村に譲った〝メイロードソース〟の純益の12パーセントは、いまでもずっと私が商人ギルドに作った口座に振り込まれていて、毎年着実にその額を増やしている。
これも莫大な金額だが、えげつない金額なのはサイデムおじさま絡みの収益だ。

まず、乳製品事業の企画立案に関するロイヤリティーがある。そして、おじさまは製紙事業の莫大な利益の一部、さらにカレンダーに関しては純益の三分の一近くを私につけている。とてつもない数が売れているカレンダーのすべてから私にお金がずっと入ってきているのだ。
この乳製品と製紙関連の事業は、右肩上がりなどという形容では収まらないほどの急激な伸びだったため、怖くなった私はそのすべてをサイデム商会に預けることにしてしまい、送られてくる入金確認書を見ることも最近までせずにいた。

(だって、多すぎるお金って怖くない? 使い道のないお金が、知らない間にどこどこ増えていくってなんだか実感が伴わなくて……)

そうした現実味のない〝正当な対価〟という名のタンス貯金を、領主になるにあたって精査したのだ。

「シルベスター公爵様。私は六歳から商人として仕事をしてまいりました。いくつかの店舗を持ち、いくつかの事業に関わることで、資産を作ってまいりました」

シルベスター公爵は困惑した顔をしている。きっとそんな田舎商人が得た〝資産〟で、領地の運営や改革に必要な莫大な資金が得られるはずがないのに、一体何を言っているのだ、とでも思っているのだろう。

「メイロードの大事な金は取っておくといい。大丈夫だ。私が助けてあげよう」

(どうやらはっきり言ってあげないとわかってはもらえなさそうね)

「では、公爵様に融資をお願いするとして、どのぐらいお貸しいただけるのでしょうか?」

話が自分の思う方へ転がり始めたと思った公爵は、少し口角を上げて少し考える振りをしてからこう答えた。

「大金貨五十枚……いや八十枚まで出すよ。メイロードと叔父上の大事な土地なのだからね。もちろん利子などいらないよ、私たちは家族ではないか」

優しい優しい声で、そう言う公爵はやや陶酔しているように見える。優しくて頼りになる気前のいい従兄弟であることをアピールできたことに満足している様子だ。

確かに億単位のお金を用意しくれるというのは、状況によってはありがたいことなのだろうが、利子はいらないと言いながら、その資金の人質が私だとわかっているのだから、こちらとしては絶対に受けたくない申し出だ。

「それだけあれば、この土地を運営していけますか?」

「ああ、もちろんさ。主要道路の整備や産業の支援。農地改革。充分にこの資金があれば予算をつけられるよ。心配ならば、シルベスター家の領地から有能な官吏も送ってあげよう」

シルベスター公爵はますます饒舌になっていく。そうやって管理をシルベスター公爵家の息のかかった者にしていき、いずれは〝マリス領〟をシルベスター公爵家の庇護がなければ立ち行かない領地にするつもりなのだろう。

「そうでございますか。安心いたしました」

「そうか、そうであろう。すべて私にお任せなさい。きっと……」

「いえ、そうではないのです」

絶好調で話し続けようとする公爵をメイロードは微笑みながら遮った。せっかくの話の腰を折られて、眉を潜める公爵に、少しだけ困った顔をした私は、だがしっかりと言葉を続けた。

「いま公爵様に、私の資産で充分だと教えていただきましたので、安心したのでございます」

落ち着きはらった私の言葉に、公爵の声が小さくなる。

「で、では、メイロードは、君の資産とやらでこの土地の改革に必要な資金が出せると……そう言うのかね」

「はい。先程、教えていただいた通り、大金貨八十枚の資金があれば充分領地を立て直せるというのであれば、私の資産だけで数年は活動できるでしょう」

「大金貨八十枚を数年……?」

「はい」

「そ、そうか。それは立派なことだ……」

先ほどまでの威勢はどこへいったのか、シルベスター公爵は意気消沈していた。

もちろん、公爵家にとっては貸せない金額ではない。だが、戻ってこないかもしれないという前提で貸し付ける金額としては決して軽いものではない。そのギリギリまで積んだ金額の数倍の資産を、私のような小娘が持っているという。これで資金力をもって彼女を懐柔するという望みは絶たれたとわかっただろう。それでも、公爵は食い下がる。

「もし、その数年の間に領地が立て直せなかったらどうするおつもりかな? もちろんそのときには、お助けするつもりはあるが……」

私は笑顔でキッパリと公爵の微かな希望の糸を切った。

「公爵様にそこまでお気を使わせてしまい申し訳ございません。
ですが、私の後見人であるサイデム商会のサガン・サイデム男爵様と私の魔法の師匠であるハンス・グッケンス博士から、資金が足りない場合無条件で必要な金額を即時に貸し付けるという確約をいただいておりますので、資金については心配ないと考えております」

言葉こそ丁寧だが容赦のない私の言葉に、公爵の喉がぐっと詰まる音が聞こえた。
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