327 / 837
3 魔法学校の聖人候補
516 銀の骨
しおりを挟む
516
そこにあったのは、野球のボールより一回り大きいふたつの魔石と一個の小さな銀色の骨だった。
「これはキングリザードから出てまいりました《雷の魔石》と《火の魔石》でございます。この銀の骨はその間にございまして、これひとつだけ変わった色をしておりましたのでお持ちいたしました」
「とても大きなものですね。これこそお売りになれば大変高価なものではないのでしょうか? それをいただくわけにはまいりません」
私の言葉に長老は首を振った。
「いえ、これだけはメイロードさまにお受け取りいただきたいのでございます。この我々にとって禍々しい魔石は、手元に置くことも、はたまたこれを売った対価を得ることも不名誉、嬉しいものではないのでございます。これは穢れなき聖女様の元で浄化し役立てていただくことが一番良いのでございますよ」
確かに、彼らの仲間を直接殺す原因となった〝王の審判〟は、この魔石から放たれたものだ。それが彼らにとって忌むべきものなのは理解できる。でも、私が聖女様扱いになっているのはいただけない。
「私はただの魔法学校の学生です。聖女などではありませんし、ニパを助けることになったのも偶然。すべては成り行きなのですから、あまり大げさなことを言わないでください。それより、私の名をよそで決して出さないでくれる方が、ずっと私にはありがたいのです」
ニパが苦笑しながら長老に言う。
「だから言ったじゃないですか。メイロードさまは目立たず静かに人々を見守られたいのです。社を立てて祭ったり、像を立てたりすることは望まれていないんですから!」
(え、ニパ、そんな計画があったの?! まったくこの世界の人たちは、すぐそういうことを……)
どうやら、私の行いのせいで完全に〝聖女認定〟されてしまっているようで、色々な計画が進んでいたらしい。私は、それを全力で拒否する代わりとして、魔石についてはもらうことを了承した。ただ、決して私の名前は出さないので、私が《無限回廊の扉》を設置したあの空き家は、今回の出来事を語り継ぐためのよすがとしてそのままにしてほしいと言われ、仕方なくそれだけは了承した。
「決して私の名を伝えないでくださいね」
ニパと私の粘り強い説得で、そのことには皆さん同意してくれたが、おそらく適当な名前をつけてあの小屋は拝まれてしまうことになるのだろう。もうそれについては諦めるしかなさそうだ。
(まぁ、なんだかわからなかっただろうけど《生産の陣》まで見せちゃってるしなぁ……やりすぎたか)
一夜にして大きな毒の池を作り出し、それを一瞬で浄化して見せてしまったら、それは、確かに少なくとも奇跡に近い魔法ではある。そもそも池作りにはセイリュウの力を借りているので、神力を使ったとも言えなくもないのだ。セイリュウは水に関わる魔法はお手の物なので、あの大穴に水を短時間で貯める方法を考えていた私に、
「じゃ、僕がやるよ。水を入れればいいんだね」
と言って、乾燥した砂地に染み込んでしまわないよう私がコーティングした後、ちゃっちゃとあの穴の上だけ滝のような大雨を降らせて一瞬で池を作ってしまった。そこへ、私が濃縮して作ったリザード用の毒藥を《生産の陣》を使って流し込んだというわけだ。
「確かになかなかのイリュージョンではあったかな……」
博士の研究棟のリビングに置かれた赤い光を放つ《火の魔石》と白と黄色の混じる光を放つ《雷の魔石》を見ながら、苦笑した。そして、一緒にもらった金属のような光沢の骨を《鑑定》してみると、それはただ〝橋〟と表示された。
(なんだそれ? 金属のように見えるこの小さい骨が〝橋〟?)
博士に聞いてみても、やはりご存知ないようだ。博士もキングリザードから取れるこの小さな金属片のような骨を見るのは初めてらしい。
「魔物から取れるこうした貴重な魔石には目がいくが、こんな小さな骨に注目するものはあまりおらんからな。使い道も装飾品ぐらいにしかならんし、大きな骨の方がずっと価値も高いしの」
きっとニパたちも、綺麗で珍しそうだったので一緒にしておいてくれたのだろう。
だが私にはちょっと引っかかることがある。
キングリザードの〝王の審判〟では、完全に混合された強力な炎と雷が放たれていた。仮説だが、ふたつの魔石を完全に混合して出力することが可能ならその威力は増幅される、という可能性はある。だが、あれだけ正確に性質のまったく異なるふたつの力を完全に混合することは、魔法使いでもかなりの技術がなければできないことだ。
(何か秘密がある気がする。それにこの〝橋〟も気になるよね)
私は新たに得た研究の題材、銀色に輝く小さな骨を手に取った。
そこにあったのは、野球のボールより一回り大きいふたつの魔石と一個の小さな銀色の骨だった。
「これはキングリザードから出てまいりました《雷の魔石》と《火の魔石》でございます。この銀の骨はその間にございまして、これひとつだけ変わった色をしておりましたのでお持ちいたしました」
「とても大きなものですね。これこそお売りになれば大変高価なものではないのでしょうか? それをいただくわけにはまいりません」
私の言葉に長老は首を振った。
「いえ、これだけはメイロードさまにお受け取りいただきたいのでございます。この我々にとって禍々しい魔石は、手元に置くことも、はたまたこれを売った対価を得ることも不名誉、嬉しいものではないのでございます。これは穢れなき聖女様の元で浄化し役立てていただくことが一番良いのでございますよ」
確かに、彼らの仲間を直接殺す原因となった〝王の審判〟は、この魔石から放たれたものだ。それが彼らにとって忌むべきものなのは理解できる。でも、私が聖女様扱いになっているのはいただけない。
「私はただの魔法学校の学生です。聖女などではありませんし、ニパを助けることになったのも偶然。すべては成り行きなのですから、あまり大げさなことを言わないでください。それより、私の名をよそで決して出さないでくれる方が、ずっと私にはありがたいのです」
ニパが苦笑しながら長老に言う。
「だから言ったじゃないですか。メイロードさまは目立たず静かに人々を見守られたいのです。社を立てて祭ったり、像を立てたりすることは望まれていないんですから!」
(え、ニパ、そんな計画があったの?! まったくこの世界の人たちは、すぐそういうことを……)
どうやら、私の行いのせいで完全に〝聖女認定〟されてしまっているようで、色々な計画が進んでいたらしい。私は、それを全力で拒否する代わりとして、魔石についてはもらうことを了承した。ただ、決して私の名前は出さないので、私が《無限回廊の扉》を設置したあの空き家は、今回の出来事を語り継ぐためのよすがとしてそのままにしてほしいと言われ、仕方なくそれだけは了承した。
「決して私の名を伝えないでくださいね」
ニパと私の粘り強い説得で、そのことには皆さん同意してくれたが、おそらく適当な名前をつけてあの小屋は拝まれてしまうことになるのだろう。もうそれについては諦めるしかなさそうだ。
(まぁ、なんだかわからなかっただろうけど《生産の陣》まで見せちゃってるしなぁ……やりすぎたか)
一夜にして大きな毒の池を作り出し、それを一瞬で浄化して見せてしまったら、それは、確かに少なくとも奇跡に近い魔法ではある。そもそも池作りにはセイリュウの力を借りているので、神力を使ったとも言えなくもないのだ。セイリュウは水に関わる魔法はお手の物なので、あの大穴に水を短時間で貯める方法を考えていた私に、
「じゃ、僕がやるよ。水を入れればいいんだね」
と言って、乾燥した砂地に染み込んでしまわないよう私がコーティングした後、ちゃっちゃとあの穴の上だけ滝のような大雨を降らせて一瞬で池を作ってしまった。そこへ、私が濃縮して作ったリザード用の毒藥を《生産の陣》を使って流し込んだというわけだ。
「確かになかなかのイリュージョンではあったかな……」
博士の研究棟のリビングに置かれた赤い光を放つ《火の魔石》と白と黄色の混じる光を放つ《雷の魔石》を見ながら、苦笑した。そして、一緒にもらった金属のような光沢の骨を《鑑定》してみると、それはただ〝橋〟と表示された。
(なんだそれ? 金属のように見えるこの小さい骨が〝橋〟?)
博士に聞いてみても、やはりご存知ないようだ。博士もキングリザードから取れるこの小さな金属片のような骨を見るのは初めてらしい。
「魔物から取れるこうした貴重な魔石には目がいくが、こんな小さな骨に注目するものはあまりおらんからな。使い道も装飾品ぐらいにしかならんし、大きな骨の方がずっと価値も高いしの」
きっとニパたちも、綺麗で珍しそうだったので一緒にしておいてくれたのだろう。
だが私にはちょっと引っかかることがある。
キングリザードの〝王の審判〟では、完全に混合された強力な炎と雷が放たれていた。仮説だが、ふたつの魔石を完全に混合して出力することが可能ならその威力は増幅される、という可能性はある。だが、あれだけ正確に性質のまったく異なるふたつの力を完全に混合することは、魔法使いでもかなりの技術がなければできないことだ。
(何か秘密がある気がする。それにこの〝橋〟も気になるよね)
私は新たに得た研究の題材、銀色に輝く小さな骨を手に取った。
242
お気に入りに追加
13,119
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。